『TRIANGLE HEART
BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜』
第十二話 −PREPARE FOR THE SUMMER−
ブリジットとケイトが来て数日がたち、恭也たちの周りのどことなく浮き足立った空気がなくなってきた頃、恭也はとある重大事実(?)について話し出した。
「...なぁ、赤星、イチ...なんで俺の周りの人間はみんな人を惹きつけるんだ?」
そんなことをポツリと呟いた恭也を唖然としてしまう赤星と、いつもどおり軽く微笑んでいるイチ。
そんな二人を交互に見つめながら少し真剣な表情をする恭也をみて、赤星はため息をつくと
「高町、気づいていないのかもしれないが、お前もその一人だぞ?」
と呆れたようにいう。
「な、そんなことがあるわけが...大体あったとしてもお前に比べたら微々たるものだろう。俺みたいな無愛想な人間なんて、いたとしても翠屋を贔屓にしてくれているお客さんだろう」
「なにをこいつは...おいイチ、お前も何とか言ってやったらどうだ」
「ん?そうだねぇ...忍、那美さん、美由希ちゃん、レンちゃん、フィアッセさん、薫さん...身近なところだとこんなものかな?」
「...いや、そんな具体的にあげたら本人たちに悪いんじゃ...」
「みんな俺を家族のように思ってくれたり師と呼んでくれたりしてくれる人たちばかりじゃないか。邪推してはみんなに悪い」
「...そうだった...高町ってこういうやつだったよな...」
「うん、だからいったんだけど...さすがに皆が気の毒だよね」
「...イチ...お前がそれを言う資格は高町並みにないぞ...」
「ん?どういうこと?」
不思議そうに首を傾げてみせるイチをみて、またも盛大にため息をつく赤星。
「お前は誰よりもブリジットさんが確実にそうだろ?高町でもそれはわかってるぞ」
「俺でもというのが気になるが...たしかにブリジットはお前に好意をもっている。そうでなければ家族と別れて海を渡ってくるなどということはありえないだろう」
そんな二人をみてイチは苦笑いを浮かべると
「そうだね。彼女に関しては僕だって面と向かって言われてるんだ。言葉でも態度でもそう示してくれている...でもね」
そういって一呼吸おくと、少し遠くを見るような目をして
「僕もいろいろけじめとか、踏ん切りとか、そういったものをつけないといけないことがあるんだ。たとえば...この髪の理由とかね」
と少し寂しそうに言う。
そんなイチを見て二人は
「...すまん、いらん世話を焼いた」
「俺も...ちゃんと考えていたんだな、お前」
と申し訳なさそうに謝罪する。
それをイチは軽く微笑みながら受けて
「いや、いいんだよ。ただ僕は今のところ親愛の情は持てても恋愛となると、ちょっとね。それに人が僕を好いてくれているってのは嬉しいんだけど、好いてくれているからって理由で人を好きになるのはどうかと思うんだよ。相手も妥協で好きになってほしくなんてないと思うしね」
そんなイチの話を二人はただ唖然とみていた。
一言も発さない二人をイチが首をかしげながら、どうしたの、と聞くと
「...あ、いや。お前の言うことにはいちいち納得させられるなって」
「ああ、本当にな。時々お前が本当に同い年か疑いたくなる」
「違うよ。性格には早生まれだから一つ下って感じだね」
「「...ますますわけが分からん」」
恭也の半分冗談のような台詞に真面目に返事を返してしまうイチを苦笑いとともにみる赤星と恭也だったが、
「そうなるとイチは今の高町じみた状況はどう思ってるんだ?」
「なんだ?俺じみた状況って」
「うーん、だからね、さっきも言ったけどそれが親愛であれ恋愛であれ、僕に好意を向けてくれることは嬉しいんだよ?僕が恭也みたいにたくさんの女の子から好意を寄せてもらってるなんてことはないと思うけど、そうなったとしても今の僕がそれを軽々しく突っぱねるなんてしちゃいけないと思うんだよ」
そういって微笑んでみせるイチに赤星は感心したような呆れたような複雑な表情をし、恭也はただただ感心したように頷いて
「そうか...忍たちのあれが本当に好意を寄せてくれているということなら...あまり邪険にしたものでもないかもしれん...」
と少しばかり忍たちの暴走に対しての見解を、本当に少しばかり改めていた。
「ところでイチ、お前なんでそんな話俺たちにしたんだ?」
「だって聞かれたし...そこで聞き耳立ててる人もいるから丁度いいかな、と思って」
赤星の疑問にそういって目線を少し離れた机に向けるイチ。
赤星と恭也がそちらを振り返ると、そこには逃げ送れてばつが悪そうに舌を出している忍の姿があった。
恭也もうすうす気づいていたのか呆れたような顔を忍に向ける。
それをうけて直ばつが悪そうに縮こまる忍をみて恭也は先ほどの話を思い出し、苦笑いを浮かべて
「もういいからお前もこっちに来たらどうだ?」
と優しく声をかける。
すると忍は、ぱぁっ、と顔を輝かせて早足で近寄ってきた。
その様子に赤星とイチも苦笑いを浮かべる。
「忍ってさ、犬だよね」
「...ああ、犬だな」
そんな二人を少々やりにくそうにみると、恭也は
「忍、お前近くにいたならなんでこっちに来なかったんだ?」
と話をそらすように忍に話題を振る。
「だって...」
そう呟いて少し言いにくそうにすると、
「なんかこう、男だけのシリアスな空間って感じで近寄りがたかったんだもん」
と照れ笑いを浮かべる。
たしかに先ほどまで三人がかもし出していた空気はシリアスそのものだった。
表情だけみればそれがただの世間話程度でないとわかるほど真面目な表情だった恭也と赤星に、顔はいつもどおりのように見えて少し寂しげな表情などを垣間見せていたイチ。
たしかにその真面目な雰囲気の三人はある意味神聖なものとさえ感じられるほどだった。
その証拠とも言わんばかりにまわりにはその雰囲気に当てられてぽーっと顔を赤らめているクラスメートの女子が大量に三人のほうを窺っていた。
しかし恭也は忍の台詞にすこし顔をしかめると
「何を言っている。俺たちがお前を拒むなんて事があるわけないだろう?」
と言って他の二人に確認の視線を送る。
それを受けて軽く微笑みながら頷く赤星とイチに、周りの女子はあらかた撃沈した。
それを自分も少し頬を染めた顔で苦笑いをしながら見ている忍。
そこに三年組最後の一人が飛び込んでくる。
「あ、イチ君イチ君!ちょっとお願いがあるんだけど...」
「ん?なに?」
「明日忍と買い物に行くんだけど、イチ君ついてきてくれないかな?」
そんな亜子の台詞に一瞬驚いたような顔をしたイチだったが、やがて申し訳なさそうに
「ごめんね、明日はブリジットとケイトの日用雑貨の買い物についていってあげないといけないんだ」
「え、あ、いいのいいのっ!先約がなければ高町君と一緒に男避けしてほしかったんだけど...高町君は平気よね?」
「...ああ、しかし俺は忍にイチも来るからといわれて誘われたんだが?」
「あははは、いやだなぁ恭也。私は来るはずっていったのよ?」
「...やられな、高町」
「ごめんね、恭也」
本当に申し訳なさそうなイチに軽く手を上げて、気にするな、と意思表示する恭也。
そこに後ろからまた声がかかる。
「それなら私たちと一緒にいけばいいですよ」
突然の声に驚いて振り向く一般人三人組。
そこにはブリジットと、少し申し訳なさそうなケイトがいた。
イチと恭也は気づいていたらしく、特に反応は見せない。
「もうちょっと驚いてくれたりしてもいいじゃないです...」
すこししょぼくれてみせるブリジットの頭を謝りながら軽く撫でるイチ。
気持ちよさそうにしているブリジットを少し羨ましそうに見る亜子だったが、それよりも今は彼女の言葉のほうが気になった。
「ねぇブリジット、さっきの話だけど...」
「あ、はい。買い物行くなら一緒でいいです、ね?ケイト?」
「はい、私もそのほうがよろしいかと。フィアッセ様も一緒にいきたいといってましたがよろしいですか?」
「ええ、いいわよね?忍?」
「そ、そうね...どうせなら赤星君もくる?」
このままだと確実に女の子の数が多くなってしまうことと自分とフィアッセで恭也を取り合うことになってしまうことを危惧した忍は赤星に誘いをかける。
「ああ、ごめん。お誘いは嬉しいんだけど俺明日は草間の道場によばれてるんだ」
「そうなのか...では明日は赤星以外のここのメンバーとフィアッセとケイだな?」
そういった恭也にケイトとブリジットはどうして分かったの?といった顔をする。
「そんな顔をされてもな...二人が買い物にいくのに男手がイチだけということはないだろうと思っただけなのだが?」
「まあそうだよね。ケイにはケイトの面倒見てあげるようにいっといたから...なんか毎晩電話してるみたいじゃない、ケイト」
少し意地悪そうに微笑むイチを、顔を赤くしながら恨めしそうに睨むケイト。
結局このあとケイトは忍と亜子とブリジットに散々からかわれた挙句、最後はいかにケイにケイトの気持ちを気づかせるか論議を始められ、顔を真っ赤にして終始縮こまっていた。
「...なあ、お前はこうなるってわかってたのか?」
心底疲れた顔をしてイチに尋ねる恭也。
それに対してイチは苦笑いを浮かべると、
「まあね。亜子と忍の買い物に付き合うって言い出したときに予感はしてたよ」
「...どうしてそのときいわなかった」
「いったらどうにかして逃げたでしょ?」
約束どおり買い物に付き添いに来た恭也、イチとケイ。
三人はブリジットたちの日用雑貨を手にデパートのあるエリアで女性五人がでてくるのを待っていた。
「まあまあ恭也さん、ここまで着ちまったら諦めるしかないっすよ」
そういって隣で苦笑いを浮かべるケイ。
イチはいつもの調子でのほほんと構えている。
「そうはいってもな...」
そういって周りを見回す恭也。
「...男が三人で女性の水着売り場というのはさすがに居心地悪いことこのうえないぞ?」
先ほどから自分たちのほうに向けられる女性たちからの視線が気になっているのか、いつもに比べて少々落ち着きが無い。
そもそも女性たちはけして奇異の視線を向けているわけではなく、むしろ恭也たちに見惚れているのがほとんどなのだが、そんなことをこの鈍感三人組にいったところでどうなるわけでもない。
三人とも自分以外に向けられている視線がそれで、あくまで自分へは奇異の目線だと思っている。
そんな大きな勘違いをしている三人に、カーテン越しに待ち望んでいた声がかかる。
「恭也〜、いいかな?」
「イチ君いる〜?」
声の主はフィアッセと亜子だった。
ようやっと少し気がまぎれるとほっとして返事を返す恭也と、なにを考えているのか分からないような返事をかえすイチ。
同時に目の前のドアが開くと、そこには白のビキニタイプの水着に身を包んだフィアッセと、同じタイプの淡い桃色の水着にハイビスカスをあしらったパレオをつけた亜子が出てきた。
思わずまわりにいたほかの客や店員が感嘆のため息をもらす。
「どうかな?恭也!」
「イチ君、どう...かな?」
同じ台詞を対照的なリアクションとともにそれぞれの見てほしい相手に投げかける。
フィアッセは堂々と笑顔で胸を張って、亜子は恥ずかしそうに俯き気味で。
恭也はその堂々とした態度に面食らったものの、胸を張ったことによってより強調されるそのエリアのラインを直視してしまい顔を赤らめる。
どうにかそれを悟られまいと視線をそらす恭也をみて、少し不服そうに恭也に近づくフィアッセ。
「ねぇ恭也、私これ似合ってないの?」
少し涙目で聞いてくるフィアッセに恭也は慌てて、
「そ、そんなことはない。その...よく、似合っている」
顔を赤くしながらそういう恭也に嬉しそうな笑顔を向けるフィアッセ。
それを亜子は羨ましそうに見ると、思い切ったように顔を上げて
「あ、あの!私...これ、似合ってる、かな?」
とイチに尋ねる。
そんな亜子にイチはいつもの笑顔で
「うん、とってもよく似合ってるよ。淡いピンクにハイビスカスのパレオか...亜子らしいね」
すらすらとほめ言葉を口からつむぎだすイチを、恭也は信じられないものでも見るような目で見ていた。
その隣でそんな二人をみて笑っているケイ。
そんな男たちの視線の交錯などは気づく余裕も無くただ褒められた言葉を自分たちのなかで反芻するフィアッセと亜子。
そんな五人を店員を含めた周りの人間が羨ましそうな恨めしそうなどちらとも判断のつかない視線で見ていると、そこに男性からの殺気を増幅させる3人が入ってくる。
「恭也〜、おっまたせ〜!忍ちゃんの登場よ〜」
「イチ、おまたせです!」
「お、おまたせしました...」
といいながらそれぞれが目当ての男の前に立つ。
堂々と恭也の前に立つ忍は髪の色に合わせたのか白と薄い紫のシンプルなビキニ。
なぜかかなり気合の入った感じでイチの前に出てきたブリジットは青とシルバーの競泳水着っぽいラインに、大胆に腹部と背中の開いた水着。
最後ケイの前にたったケイトは赤い落ち着いたデザインのワンピース。
それぞれが目の前の男の感想を心待ちにして頬を染めている。
そんな様子を殺意のこもった目で見てくるギャラリーに居心地の悪さを覚える恭也とケイ。
「い、意外と派手な色も似合うじゃねえか!」
空気に耐えられなくなってさっさと正直に言ってしまうことにしたケイ。
少し乱暴な物言いだったが、少し照れた様子に嘘が無いことが分かるとケイトは普段の彼女からは考えられないくらい歳相応の可愛らしいはにかんだ笑顔を見せる。
そんなケイトに周りのどよめきが大きくなる中、今度は恭也が口を開く。
「...その、なんていうか...落ち着いた感じで似合っていると思うぞ」
恭也にしてみれば、もはや毒を食らわば皿まで、といった心境だっただろうが嘘をついたつもりも無い。
現に恭也は顔を赤くして忍を直視できていない。
(なんでこんなことになったんだ?)
心の中で釈然としないものを感じている恭也だったが、忍はそんな恭也の気も知らずに満面の笑みを浮かべて
「ありがと〜、恭也!」
と右腕にしがみついてきた。
いつもよりもより正確に伝わってくるそのふくよかな感触に恭也は一瞬言葉もなくして真っ赤になる。
それを隣で見ていたフィアッセまで
「あ!忍だけずるいっ!!!」
といって左腕を取ったときようやく恭也がなんとか回復した。
「二人とも...たのむから腕を放してくれ」
いつもの凛々しい恭也からは想像もつかないほどの困った声に、嬉しそうに腕を掴みつつも反対側の人間を牽制しあっていた二人がふと我に返る。
お互いの格好を見て、自分の格好を確認した二人は示し合わせたようなタイミングで恭也から飛びのき、乾いた笑いを浮かべながら、
「あ、あはははは...そういえば水着だったんだっけ」
「そ、そうでしたね...さすがにこんなところでやりすぎましたね」
と真っ赤になっている恭也を見ながら誤魔化しあう。
そんな二人に恭也はまだ赤い顔で呆れながら
「まったく、二人とも人前だということを少しは考えてくれ。二人とも魅力的なのに俺をからかってそんなことするから回りの視線が痛すぎる」
ととんでもないことを口走る。
本人は自分が何を言ったのか気づいていない様子だったが、それを言われた二人は言葉をなくして頬を染め、それを隠すように嬉しそうに両手を頬に当てていた。
「...ねぇイチ、日本人は奥ゆかしいってパパが言ってたんだけど...」
「う〜ん...恋は盲目って言葉知ってる?」
三人のどたばた騒ぎに気を取られて水着のことを忘れてしまったブリジット。
しかしイチは
「それよりもブリジット、ちょっと大胆だけどよく似合ってるね」
と褒めることを忘れずにブリジットを元の話題に戻す。
まだ気を取られているときに不意打ちをくらい、心の準備も無いままだったブリジットは瞬間湯沸し機のように顔を真っ赤にする。
その横では先ほど自分が褒めてもらって喜んでいた亜子がなにか釈然としない表情をしている。
「イチ君って実はすごい女の子慣れしてない?」
「え?なんで?」
「だって...普通ならとは言わないけど、慣れてないなら高町君みたいな反応があってもいいと思うんだけど...」
そういってちらっと恭也たちのほうを見る亜子。
早く着替えてきてくれと二人に頼み込んでいる恭也をみてイチも苦笑いを浮かべると、
「そうだねぇ...すれちゃってるのかな。いろいろ...あったからね」
とふと憂鬱そうな表情を浮かべる。
なにか暗い過去でも踏んでしまったかと思い、慌てて亜子は
「ご、ごめんなさい!別に理由を聞きたかったわけでもなてね!あ、褒めてくれたのは本当に嬉しかったし、どきどきしたし!で、でもあんなことすらっと言えちゃうなんてなんていうか...え?」
とまくし立てるように弁解を試みる。
そんな亜子の慌てっぷりを楽しそうにみているイチに気づいて亜子は自分がからかわれたことに気づいた。
「ああー!イチ君ひど〜い!」
そういって頬を膨らませて拗ねる亜子に小さく微笑みながら謝ると
「別に僕のいたところではこれくらい普通なんだけど、ね、ケイ」
といってケイトとの会話が多少とげとげしくなり始めた義弟に話を振る。
さっきから気づいて止めようと奮闘していたブリジットもほっと息をついた。
「そっすよ、藤代先輩。女性は大切にってのが始めて学校で教わることってくらいっすから」
「それはあなたがあまりに乱雑かつ乱暴だったからでしょう」
その言葉に亜子はイチがオーストラリアで生活していた事を思い出す。
「でもさすがに全く反応が無いってのは女としてのプライドが...」
「う〜ん、でもこればっかりは...僕、顔に出ないから...」
「そうです。イチは女性の水着姿どころか下着姿でも全然顔に慌てた様子でないです。でも人を傷つける嘘つかないから褒め言葉は本当ですよ♪」
それが分かっているからこそ自分は褒められたことを素直に喜べるといわんばかりのブリジットをみて、亜子もそれにならうことにした。
「それにしてもアニキ...」
「...みてて面白いんだけどもうちょっとだめかな?」
「...さすがにあれ以上は...ご親友が哀れになってきますよ?」
亜子とブリジットが褒められた水着を会計にいっている間(ケイトはケイをつれて先に済ませた)イチが楽しそうに見ていた完全に主導権を忍とフィアッセに持っていかれた恭也はケイとケイトによって救出され、忍とフィアッセは少し残念そうにブリジットたちを追って会計しに言った。
「イチ...なぜ助けなかった」
「だって面白かったんだもん」
本当に親友なのかと疑いたくなるこの二人にケイとケイトは互いに顔を見合わせて苦笑した。
買い物もあらかた片付き、デパートをでた八人。
全員が美男美女であるだけに人ごみの中での視線は、そういったことに敏感な恭也にとってあまり喜ばしいものではない。
ただ唯一の救い(?)は彼が自分に対する好意に極めて鈍感であるということ。
そのおかげで恭也は人ごみの中を歩けるのだから、ある意味あの鈍感さは自衛のためのものであるといえなくも無い。
それでも疲れた顔をして最前列を忍とフィアッセに挟まれて歩く恭也をみて最後尾のイチと真ん中にいるケイは苦笑いを浮かべる。
イチの両側にもブリジットと亜子が寄り添うようにしているし、ケイは相変わらずケイトと小競り合いをしている。
いつもの調子で帰りを歩いていると、丁度路地裏に入る道に差し掛かったところで、
「ちょっとちょっとそこのお嬢さんたち」
と後ろから声をかけられた。
イチが始めに振り向くとそこにはいかにも軽そうな男たちが五人、にやにやしながら亜子の肩に手を伸ばそうとしていた。
亜子がそれを難なく避けると手を伸ばしたリーダー格らしい男は空を掴んだ手をひらひらさせながら
「ねぇ、どう考えてもその面子じゃ数があってないじゃん!俺たちとも遊んでよ」
とへらへらした笑いを浮かべる。
そんな男たちに女性人は
「あ〜あ、せっかく恭也と久しぶりに買い物きたのに...最後が台無し〜」
「本当よ〜!忍ちゃん今日は亜子にものすご〜く感謝してたのに...」
「忍〜、その言い方だとこの人たちのことまで私のせいっていってるみたいなんだけど...」
「そうです。亜子わるくないですよ!ねぇケイト?」
「そうですね。ですがせっかくのいい気分が台無しなのはたしかです」
と男共など気にかけていないかのごとく軽口をたたく。
そんな女性陣を止めるでもなく苦笑しながらみる恭也たち。
まったく相手にされていないことに腹を立てたのか、もともと沸点の低い男なのか、
「おいお前ら!ざけてんじゃねぇぞ!!!」
とがなりたてはじめる。
その大声に一瞬驚いた忍たちをみて男は怖気づいたと取ったのか
「てめぇらさっきから馬鹿にしやがって!どうせそこの四人でそっちの男二人の取り合いでもしてるんだろうがっ!!!だったらもう何人かの男の相手したって今更だろっ!?やることやってるくせによっ!いいから大人しくついてくりゃいいんだよ!!!」
と一気にまくし立てる。
後ろの男たちも卑猥な目で忍たちを見ながらにじり寄ってくる。
その言い草に頭にきた恭也が忍たちの前に出ようとしたとき...
冷たい、風が吹いた。
「お前ら...自分が何を言ったのかわかってるか...」
恭也たちの後ろから冷たい声が響く。
あまりの殺気と冷気に忍やブリジット、ケイ、そして恭也までもが振り向けないでいると
「...I’m asking you...Do you have any idea about what you’ve just said...」
と英語が耳に、さっきよりも近いところから届いた。
そしてその声の主は誰一人動けない状況の中、ブリジットたちを庇うように前に出てきた。
「...イチ...か?」
その人物は紛れも無くイチだった。
しかしそこにたっているのはいつもの優しい笑顔を浮かべているイチではなかった。
その声とその雰囲気から温度まで下がったと錯覚させるほどの冷たさを身にまとっていた。
恭也たちが驚いている中、オーストラリア組の三人がはっと気づいた顔になり、
「おいおまえらっ!さっきの台詞は聞かなかったことにしてやるから謝ってさっさと逃げろっ!!!」
「そうです!許してあげるですから早くっ!!!」
「命の保障はできませんよっ!!!」
とケイトまでも慌てた口調で目の前の下衆共に逃げろと訴える。
そのあまりの必死さに一瞬うろたえた男たちだったが
「へっ!こけおどしなんかに乗るかよっ!!!お前らの中から一人でも俺らについてくるなら考えてやってもいいがなっ!」
とまるで気にしていないかのようにへらへらする。
「何度でもいってやるよ!どうせそこの女共男取り合って毎晩やることやってんだろうから俺らのお相手もし...ぐべっ!!!」
言い終わるまもなくリーダー格の男が壁に叩き付けられた。
『なっ!!!?』
突然の出来事に思考がついていかないほかの四人。
そしてその四人も加害者の影すら捕らえることなく次々と壁に叩きつけられる。
そして三秒としないうちに五人全員が同じ壁に叩きつけられてずり落ちる。
その前には人でも殺しそうなほど冷たい表情を浮かべたイチがたっていた。
「彼女たちを貶める発言、ここで撤回して謝罪するか、それともそのくだらないプライドも守って再起不能になるか...ここで選べ、下衆共」
冷たく言い放つイチにわけも分からぬままやられた男たちは、もはや抵抗する気力すら残っていなかった。
その恐怖心をむき出しにし、土下座して謝ると脱兎のごとく逃げ出す五人。
その背中を唖然として見送る女性たちとケイ、そしてイチから視線をはずさない恭也。
重苦しい空気を断ち切ったのは以外にもイチだった。
「またやっちゃった。気をつけてはいるんだけどなぁ」
いつもの調子で笑顔で振り返るイチ。
それを信じられないものでも見るかのような目で見る忍とフィアッセ、そして恭也。
そんな三人にイチは苦笑いをむけると
「昔からなんだけど、友達とか馬鹿にされると、ね」
と少し恥ずかしそうに微笑んで見せた。
そんなイチをみていつものイチだと分かると
「ちょっと狼村君、あなた恭也以上に容赦ないわねぇ?」
「そうだよ、イチ。恭也だってもうちょっと手加減するよ?」
と忍とフィアッセが冗談めかしてイチを叱る。
それに笑いながら謝るイチ。
そんな三人を見ながら恭也は一人オーストラリア組に近寄ると
「あれ、前にもあったのか?」
「はい、アニキが俺らの前でああなったのは二回目っすね」
「一回目はボクとケイトを集団で路地裏に引っ張り込もうとした人たちのときです」
「あの時は二十人ほどを十秒ほどで...」
「しかも何人か骨折っちゃって...パパにフォローしてもらったです」
そんな話を聞いて恭也は愕然としながら
「とにかくアイツを怒らせたらとんでもないことになるということは分かった」
と苦笑した。
「あれ怖いっすよね?怒って熱くなるどころか...ケイト、俺何言おうとしてる?」
「冷徹、ではないですか?」
「そうそれ!全くあの冷たい空気はもう二度と体験したくないっすよ」
とケイトと抜群のコンビネーションを見せながらケイは笑う。
ブリジットはひとり首を傾げながら
「レイテツ?なんだろ...刀...はコテツですね...モノポリーみたいなゲームです?」
と一人ぶつぶつとなにやら勘違いをしている。
がすぐに思い出したように
「でも前のときイチ、これが二度目、っていってた気がするです」
と恭也に告げる。
「ああ、たしか一回目は小学生のとき公園で上級生をやったって...あれ?たしかその時美由希がかかわってるはずっすよ?」
ブリジットの言葉にケイが繋げた一言で恭也は思い出した。
「そうだ...たぶんその時から美由希がイチのことをお兄ちゃんと呼び始めたのだと思う」
(たしか、美由希が上級生に苛められてないて帰ってきたとき、俺ととおさんは鍛錬でまともに話も聞かなくて...かあさんも翠屋の開店準備で忙しくて...たしか美由希が家を飛び出して...そうか。あの時上級生を一人残らずやっつけたって美由希が嬉しそうに帰ってきたのはのはイチがやったからか)
相変わらずイチをからかっている忍たちにブリジットたちも加わるところを見ながら恭也は本当に美由希を守ってくれていた親友に感謝しつつ、家族やまわりの友人たちにイチを怒らせることのないように注意を促すことをかたく心に誓って自分も輪に加わっていった。
あとがき
ちょっとご無沙汰してしまいました
前作少しだれたんで、すこし気合入れなおしてたのと...
あと風邪引きまして...というか...知恵熱だしましたw
本業は学生なんで...その、化学嫌いなんですよ...
まあそんなこんなでなんとか回復いたしまして復帰第一作目!?ってかんじです
今回はお買い物♪
そろそろ本格的に夏!夏といえば夏休み!とくれば水着ショッピング♪
とすこし季節のずれたお話でした
さて、そろそろシリアスいこうかな〜
ってなところでまたお会いしましょう
切れたイチはとんでもないみたいだな。
美姫 「本当よね。でも、あの男たちはある意味、自業自得?」
かもね。所で、水着を買ったという事は…。
美姫 「海か、プールか」
ともあれ、水着が出てくる話が!?
美姫 「あるのかどうかは分からないけれど、次回も楽しみなのは間違いなしね」
うんうん。次回も楽しみにしています。
美姫 「それじゃあ、お大事にね〜」
風邪には気を付けてください〜。