『TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜』
第二十話 −MAKING ACTION U−
「さてと、そろそろ僕も準備しないとね」
待ち合わせ時間の30分前につくように出て行った恭也を見送ってから、イチは自室に入る。
お手軽なサイズの鏡と化粧道具一式をクローゼットの中から引っ張り出すと、軽くため息をつきながらそれらを手に取る。
「本当は男に変装できればそっちのほうが楽なんだけどな〜」
ぶつぶつと独り言を呟きながらメイクをこなしていくイチ。
なんだかんだ言いながらも淀みなく手を動かして自分の顔を仕上げていく。
そうして10分ほど鏡と向かい合って出来上がった自分の顔を確認し、そしてベッドの上に放り出してあった女物のワイシャツと黒のふわっとしたロングスカートを身につけ、最後に淡い水色のサマーセーターを着てもう一度鏡の前に立つ。
「こんなもんかなぁ?あとはウィッグだけど...これでいいか」
黒いストレートロングのウィッグを掴んで被ると、大きく一つ深呼吸をして気配を変える。
「私は氷月弥生、氷月弥生、氷月弥生......さあ、いきましょうか」
声を女性のものに変えて、仕草もすっかり女性そのものとなってイチはベッドの脇においてあった白いパンプスを掴む、とその時、ベッドの上に投げ出してあった、まだ封の空いていない包みが眼に留まった。
「これは...イヤリングか。でも耳につけるのも邪魔だし...とりあえずもっていっておきましょう」
そう呟いてそれを用意したハンドバッグに放り込むと、音もなく窓から飛び降りる。
着地してから手に持っていた白いパンプスを履き、気付かれないように高町家の門をでると、そこで偶然にも美由希を訪ねてきた那美と出くわしてしまう。
見ようによっては高町家から出てきたようにも見えてしまうその状況に、イチが那美の出方を待っていると、
「あ、あのぉ...」
と那美のほうから声をかける。
これ幸いとばかりに少し困ったような表情を作ってイチが那美のほうを向いてみせると、思惑通り那美は勘違いしたらしい。
「なにかお困りですか?」
といつもどおりのおっとりとした口調で話しかけながら近づいてくる。
「あの、すみません。海鳴駅にはどういったらいいのでしょう?」
いかにも道に迷った女性といった風に困ったような笑みを浮かべて那美に問いかける。
(...綺麗な人だなぁ...)
そんなことを思いながら惚けている那美を見て、イチは
(まずいなぁ、やっぱりばれたかな?)
と少々不安に陥ったりしている。
そんな表情をみて正気に戻った那美は、慌てたように手を振りながら
「あ、ご、ごめんなさい!ちょっとぼーっとしちゃって...えと、海鳴駅ですよね?それならここの道を真直ぐ行っていただいて...」
あたふたしながらもどうにか道の説明をする那美を、内心微笑ましく思いながらもしっかりと説明を聞いているふりを続けるイチ。
いつもよりさらに慌てている那美の説明はいつも以上に長くかかったが、何とか説明し終えると、ほっと一息つく那美。
「どうもありがとうございました。ごめんなさい、お時間取らせて」
「い、いえ。どういたしまして。お気をつけて」
そういって高町家に駆け込んでいく那美。
その後姿を眼で追うと、イチは大きく息をついた。
「ふぅ、なんとかなったわね。焦ったわぁ」
もはや完全に女性になりきってしまっているイチ。
言葉、仕草、そしてなにより外見まですべて女性になりきって、イチは本来の目的のために海鳴駅へと急いだ。
調査をしやすくするために恭也に行く先を限定するアイテムも渡していたイチ。
つねに張り付いた状態だと感づかれる危険があるので、それらを渡しておくことによって行動範囲を一定時間狭める作戦にでたはずだったのだが...
「まさか別の意味で役に立つとはねぇ...」
イチは変装後の自分の容姿に無頓着すぎた。
女性としては長身な身長に黒いストレートな長い髪、それに加えてロングスカートに大きめのサマーセーター。
優しげな表情とミスマッチな身長と髪の毛に加えて、さらにそれにミスマッチな服装。
すべてがミスマッチ過ぎて完璧な、おっとりとした芯の強い美女を作り出している。
ようするにイチは、ものすごい人数にナンパされているのだ。
「ねぇちょっと、暇だったらちょっと付き合わない?」
なんていった軽い感じの馬鹿から、
「君可愛いねぇ〜。どこのモデル?」
などといったもっと馬鹿までとにかくピンきりだった。
さすがにうんざりとしてきたイチだったが、それでも暫くはつかず離れずの状態で恭也たちの周辺を探り続ける。
(お、一人発見。あっちにもう一人...両方とも女の子ね)
男たちの声を聞き流しながらそんなことを考えていたが、ふいに背後からの気配を感じる。
(肩を掴む気ね...でも殺気はないし、払いのけると目立ちそう...)
しかたなく気付かないふりをしてそのまま歩き続けるイチ。
案の定、誰かの手が肩に乗せられた。
「きゃ!な、なに?」
きちんと女の子として反応してみせると、そこにはいかにもといった感じの不良系の男が二人たっていた。
「おいねえちゃん、結構いい女じゃんか。俺たちと遊ぼうぜぇ」
「うわっ、俺マジタイプ!ねえねえ!遊ぼうよぉ!」
呆れるほど使い古された言葉でナンパしてくる二人組みに、うんざりしながらも微笑みながら断ろうとするイチだったが、今回は少々勝手が違った。
肩を強く掴んでしつこく食い下がってくる二人に辟易して、いっそ走って逃げるかどうかを真剣に検討していると、
「おい、なにやってんだ?お前ら」
と後ろからイチにとっては聞きなれた声が聞こえてきた。
「んだてめぇ!?カンケーねーだろ!」
「そうだよ!うぜぇから引っ込んでろっ!!!」
そんな、一般人が聞いたら大半は逃げ出しそうな怒声を聞いて、逃げるどころか怒気を強めて背中を向けているイチと馬鹿共の間にわってはいる。
その人物が自分の思ったとおりでないという1%以下の可能性に縋りつつ、イチは意を決して振り向いた。
「いいかげんにしろよ、おまえら!嫌がってるの無理やりつれてくしか脳がないのか!?」
そこに立っていたのは、クラスメートであり親しい友人でもある赤星勇吾だった。
(あら〜、いやなときにあっちゃったわ)
この期に及んでいまだ女性思考のイチが自分の非運を嘆いていると、
「これに懲りたら二度とこんな真似するなよ!」
といつの間には不良二人を撃退した赤星が逃げる二人に怒鳴りつけていた。
そして振り返り、
「大丈夫でしたか?」
と普段どおりの懐っこい笑みを浮かべながら聞いてくる。
「え、ええ、大丈夫です。有難うございました」
そういってイチが微笑むと、赤星は、はっと息を呑んだような表情をして見つめ返してくる。
(???どうしたんだろ?勇吾)
赤星の態度の意味も分からず、イチは首をかしげる。
すると赤星は、そのあどけない仕草に我に返ったかと思うと、今度は顔を真っ赤にしてあらぬ方向を向いてしまった。
まわりで女性たちが、
「うわ〜、あの男の子かわい〜!照れてるよ〜」
「でもあの女の子もかわい〜わ〜。あの子なら危ない道に進んじゃいそ♪」
「赤星君だぁ〜!でも隣の女の人、誰だろ?」
「やっぱ彼女なんじゃない?あんなに綺麗だし、そりゃ私たちじゃ相手にされないわけだわ」
などとあらぬ憶測を交わしている。
赤星の知り合いも中にはいたようだが、本人はそんなことを気にしている場合ではない。
どうにか一刻も早くこの事態を収拾するべきだと判断したイチは、いまだに半ば放心状態の赤星に近寄ると、
「本当に有難うございました。たいしたお礼も出来ませんが、もしよろしければ彼女にでもプレゼントしてあげてください」
といいながら、ハンドバッグから取り出したイヤリングの包みを赤星に握らせた。
手を触れられたことでドギマギしている赤星に、最後に一言微笑みながら別れの挨拶を済ませ、
(ふぅ、イヤリングもってきておいてよかったわ)
などと考えながら、イチは恭也たちがまだいるであろうレストランへと急いだ。
そして暫くして思考がなんとか復旧作業に成功した赤星勇吾は、手の中にある包みを開けると、
「イヤリングか......エメラルドグリーン...あの人にぴったりだ...」
と、先ほどの女性が去った方向を見つめる。
かなり整った顔立ちの母性本能をくすぐるタイプの少年が、見ようによっては途方にくれたような表情でどこかを見つめている。
先ほどの騒ぎの頃からいる女性たちが今まさに声をかけようとしたその時、日本人風ではないショートカットの少女が赤星の前に立った。
「あの、赤星先輩...さっきの女性は、その、お知り合いですか?」
いきなり目の前に立たれて自分が今まで思っていた女性の話をされた赤星は、焦りながらも
「い、いや、なにか困っていたみたいだったから助けただけだけど?」
となんとか返事を返す。
いきなりおかしなこと聞かれて赤星が困惑していると、少女ははにかんだように笑って、
「よかったぁ!そ、それじゃあ失礼します!」
と大慌てでその場を後にした。
その後ろ姿を見送りながら、赤星はふとおかしなことに気付き、首をかしげる。
「うちの学校にあんな子、いたかな?」
「......ええ、どうやら関係者ではなさそう......大丈夫、そちらは引き続き二人の監視を.........了解。あとマスターからの報告。ドライがいなくなったそうよ。こちらに現れる可能性もあるから注意して」
一見すると携帯電話のようにしか見えないトランシーバーをポケットにしまうと、少女は路地からでて、そこに立っていたウェーブのかかった赤いロングヘアーの少女に声をかける。
「ズィーベン、聞いたとおりよ。ドライが動いている可能性があるわ。ツヴァイと高町恭也にはアハトとノインが付いているから、あなたは一歩引いてドライへの警戒を」
「了解。アインのほうに付いたフェンフとゼクスから定時連絡があった。どうやら逃走ルートの確保をしているらしい。行き先はおそらくロシアだろう、と」
「了解。マスターには私から連絡を入れておくわ。そうなるとこちらはカモフラージュの可能性が高いけど、ドライには警戒する必要がある」
そこまで言って、ショートヘアの少女は自分がズィーベンと呼んだ少女の様子がおかしいことに気付く。
思いつめたように俯いているズィーベンをなにも言わずに見つめていると、
「ねぇ、フィーア......」
と先ほどまでの事務的な口調ではなく、思いつめた十代の少女のような口調で話しかけてきた。
そんなズィーベンを前に、フィーアと呼ばれた少女も、その仮面のような無表情さを脱ぎ捨てる。
「わかってるわ。この国、この町は私たちが違うということを圧倒的に思い知らせられる。でも私たちはやらなきゃ殺されるのよ」
諭すような穏やかな口調で、それでも変わらない現実を言い聞かせるフィーア。
「私たちにはそれしかない。売られて、慰み者にされるのが本当だった私たちは、マスターに買われて暗殺者になった。今までだって頑張ってきたじゃない?私たちはみんな姉妹のようなものなんだから、一緒に生きていきましょう。そうすれば救われることもあるかもしれないわ」
そんなフィーアの言葉に、ズィーベンは力なく頷くと、
「ありがとう、ねえさん。もう少し、頑張ってみます」
と弱々しく微笑んで持ち場へと向かっていった。
その後ろ姿を見送りながら、フィーアは表情を辛そうに歪めて一人呟く。
「分かっているわ。全部気休めだって事くらい。私たちはアインの量産型なのだから、自我がアイン以上に明確に残ってしまっているのは当然のこと。それをマスターも分かっている。私たちの中からアインとツヴァイの両方の能力を持つものを引き出すためにここに来たことくらい、分かってる」
そういってフィーアはズィーベンが向かったのとは反対方向へと歩き出す。
「でも...それでも私たちには従うしか道がない。救いなんて...あるわけがない」
恭也たちが映画館から出てくるのを確認したイチは、自分の確認した監視の数を最終確認するためにゆっくりとエレン・コナーズの話題で盛り上がる四人に近づいた。
すぐ傍まで寄ったところで、丁度美緒が玲二の横顔を見つめてぼーっとしていたので、
(ごめんね、美緒さん)
と心の中で謝りながら、いかにも不注意でといった感じで美緒にぶつかった。
「ごめんなさい」
(いまので反応した男がいたわね。それもかなりの人数だったわ。それと...)
詫びながらさっと周りの気配を探るイチ。
だまり続けていると怪しまれると思ったイチは、
「あら?翠屋の恭也さん」
と偶然知り合いにあったふうに傍にいた恭也に話しかける。
(監視は二人、いや三人いるかしら?あと...あら、もう一人。彼女が司令塔かな?)
何気ない会話を恭也としながら目をつけた玲二と恭也に一人ずつ付いている監視者の視線の先をたどって、そこにもう一人、ショートカットの女の子を発見する。
(これで四人。それに多分美緒さんについているヤクザの男たちが五、六人かな?予定外だけど、あの司令塔の子にちょっと接触してみようかしら)
そんなことを考えつつ、そろそろ潮時と考え、
「それでは、楽しんできてください。また翠屋によらせていただきますね♪」
と翠屋の常連の女性であることを強調してその場を立ち去る。
なにやら後ろで問い詰められているらしい恭也に心の中で詫びつつ、イチはその足で司令塔と見た少女のほうへと向かった。
(たぶんぶつかろうとしても避けられるでしょうね。他の三人と言い、あの場にいたチンピラとは比べ物にならないくらいでしたから...それなら)
丁度その少女の正面に差し掛かったとき、イチは自分の踵にもう片足を引っ掛けて盛大に少女に倒れ掛かる。
「あ、あらら」
わたわたと空中で体を止めようとする努力らしきものまで見せてみると、イチの思惑通り、目の前の少女はその場に踏みとどまって倒れ掛かってくるイチの肩を支える。
「...大丈夫ですか?」
抑揚のない口調で一応安否を気遣ってみせる少女。
その少女の表情を一目見たとき、イチの脳裏に最近知り合った現パートナーの少女の顔が浮かんだ。
(この表情は...エレンだ)
「あ、有難うございます...すみませんでした」
困ったような照れ笑いを浮かべて舌を出してみせるイチをみて、少女は一瞬だけあどけない表情に戻る。
そしてすぐ取り繕うように元の表情のない顔を貼り付けると、
「いえ、たいしたことじゃありませんから」
とまたモノトーンな声で告げる。
エレンが玲二と恭也、そして自分の前でみせるこの表情。すべての感情を押し殺したように見えて、実は悲しみが漏れてきてしまっているこの表情を目の当たりにして、イチは危険を承知で一言だけ告げることにした。
「あなた、寂しそうですね。元気出してください♪それじゃ、有難うございました」
そういって去る自分が助けた女性の後姿を、少女は不思議なものでもみるような目で見つめていた。
言われた台詞を反芻し続ける少女、フィーア。
(私が、寂しそう?そんな、顔には出ていないはず。今の私は訓練された暗殺者のはず。でも...)
言われたことを否定しながらも、心の奥底でそれを肯定している自分がいることに戸惑うフィーア。
人の心理を読み取り、利用することに長けているマスターでさえ一度も付いてこなかった確信に触れられたことで、彼女は明らかに戸惑っていた。
そんな時、携帯型のトランシーバーが振動で呼び出しを告げる。
声を出さずにそれに耳を当てると、そこからノインの声が流れ出る。
「フィーア、アインのほうに付いていた二人から連絡が入ったわ。海鳴に戻ったそうよ」
それを聞いたフィーアは、元々一般人である早苗のいることで見送られた襲撃の案を、ここで正式に却下する。
「これ以上は無意味だわ。念のためアハトと二人でドライに対する警戒だけは続けて。ズィーベンには私と合流するように伝えて。一足先にアインのほうの詳しい報告を聞いてくるわ」
「了解。ドライが現れた場合の指示を」
「基本的には静観。相手を殺しそうになったときのみ、それの妨害を最優先」
「了解」
それだけいって会話は途切れた。
とりあえずはマスターの指示どおり、監視任務としてはほぼ終了。
傍にいる人間が高町美由希や月村忍、HGSの人間ならば襲撃も可能だったのだが、それが出来ない場合は監視と情報収集といわれていた。
念のため二人をつけたフィーアは、先ほどの女性に言われたことを何度も心の中で思い起こしながら、ズィーベンとの合流をまった。
「もし...救いの手を差し伸べてくれるような人がいるなら......」
「で、なんか絡まれてるみたいだったから助けに入ったってわけ」
高町家全員の前でイチがした当たり障りのない説明は、フィアッセと美由希から大絶賛を受けた。
恭也がデートの付き添いとしてついていくと知ったリスティが、イチにその監視を依頼。
一応ダブルデートって形なんだから恭也も色気を出すかもしれない。だから見て来てくれと依頼されたイチは、ブリジットの提案で見つかってもばれないように女装することにした。
そうしたら案の定美緒とぶつかったりして、そのままいってたら危なかっただろう。
最後は玲二の昔の知り合いに絡まれていたから助けに入った。
行動はそのまま、内容は微妙に変換。実にイチらしい、真実の中に嘘を隠す方法は、当事者である恭也ですら本当にそうだったのではないかと思わせるほどだった。
「というわけで、今日ずっと早苗ちゃんといたけど特に意識したような感じはなかったよ」
その報告を嬉しそうに聞くフィアッセと美由希を、恭也は不思議そうに眺める。
「当たり前だ。彼女は親友である藤枝さんを心配して俺に声をかけただけにすぎん」
いつもの鈍感ぶりが、自分以外の人間に発揮されるとこうも安心するものなのか、とフィアッセと美由希が妙に納得していると、
「あ、でも...」
とイチが声をあげる。
とたんに二人は神速でもつかったのではないかと思うほどのスピードでイチの目の前に戻ってくると、続きを促す。
「ね、ねえ、おかあさん」
「な、なぁに、なのは?」
「フィアッセとおねえちゃん、なんか怖い」
「そ、そやね。なんか鬼を見たって感じや、なぁ、おさる」
「うるせーカメ。でも、そこまで気にするなら自分で誘えばいいのに」
もはや完全に外野と化した四人がなにやら集まってこそこそと様子を窺うようにしていると、イチがゆっくりと立ち上がって恭也に近づいた。
「私のときは少々意識していただいたみたいでしたね?恭也さん♪」
そういってこれでもかというほど女性らしい仕草で後ろで指を組み、眼を覗き込むように前かがみになりながら微笑んでみせる『氷月弥生』に戻ったイチ。
いきなりの不意打ちに、恭也は目の前の女性が実は自分の親友である男と分かっているのに思わず顔を赤くしてしまう。
「あら、照れているのかしら?恭也さん♪」
そういってそらした顔をさらに覗き込もうとするイチ。
眼をあわすことの出来ない恭也を傍からみていたフィアッセと美由希は、肩をふるわせ始めた。
「きょおちゃぁ〜〜〜ん???」
「きょおやぁ〜〜〜〜???」
「まさか恭也にそういった趣味があったなんてね♪」
桃子の発した一言が、ついに二人の臨界点を突破させた。
何もいわずにずりずりと後退する恭也。
「す、すまんが今日は疲れた!話はまた明日!!!」
そう叫んで恭也は脱兎のごとくリビングを飛び出した。
「ちょ、恭ちゃん!明日は学校だよ!」
「美由希!何ごまかされてるの!?それよりも聞かなきゃいけないことがあるでしょ!?」
「そ、そうだ!恭ちゃん、見損なったよ!まさか昔からの親友に色目使うなんて!!!」
「そうよ!ちゃんと話聞くまで許さないからね!!!」
「お、おい!イチ!何とかしろぉ〜〜〜〜!!!!」
なにやらフェードしていく恭也の声を聞いて、手を合わせる女装したままの少年。
それを傍から見ながら、蚊帳の外四人組はお互いに顔を見合わせる。
「なんちゅ〜か...完全に女の子ですなぁ〜」
「ああ、俺よりよっぽど女っぽいぜ?」
「イチおにいちゃん、綺麗だなぁ〜」
「ほんとに可愛いわぁ♪あんな子ほんとにいたら恭也もメロメロになっちゃうかもねぇ」
そんな四人の呟きに、ウィッグを外したイチが元に戻って近づいてくる。
「かんべんしてくださいよ、桃子さん。仕事じゃなきゃあまりやりたくないんですから」
そういって困った表情をするイチをみて、なにやら桃子は頬を染める。
「イチ君、その状態でも女の子に見えちゃうわ」
「うっ、でも恭也のほうが似合うと思うんだけどなぁ」
話をそらそうと呟いたイチの一言に、その場の四人は一斉にビクッと反応する。
これ幸いと男の格好に戻るために二階に上がったイチを気にも留めずに、四人は怪しげな笑い声をあげる。
「「「「......見てみたい♪」」」」
その夜結局、恭也はフィアッセと美由希に追い回され、やっと逃げ切ったところに襲った背中の悪寒に一晩中心休まらなかった。
「このイヤリング...あの人にプレゼントしたいなぁ」
たまたま助けた女性から貰ったイヤリングを一晩中胸に抱いて寝た剣道部主将は、訪れた季節はずれの春が桜を咲かすことなどないことを知らずに幸せな夜を過したらしい。
そしてこれによって悪寒に襲われ、恭也同様あまり寝付けなかった男がもう一人...
「...これって天罰ってやつかなぁ?恭也からかいすぎたかな?」
あとがき
さて、久々に予告どおりのものが書けた事に少々満足気味なアインです♪
これで完全にはった複線を一つ使い切りました。詳しくは第五話あたりを...
そろそろエンディングにむけて動き出すはずですが、どうなんでしょう?w
実はもう一つ、ファントム側でオリジナル設定を考えていて、それをいつ出すかなぁ、と
次回あたり敵側一方で話進めるのもいいかな?とか思ってるんですが、たぶん無理かなw
まあきちんと終わりは見えてますし、あとは脳内からアイデアだしてひたすら書き続けるだけですので、もう少々ファントムとのクロスを楽しんで(?)いただければ幸いです
それでは、また次回でお会いしましょう♪
前回のお話のイチサイドのお話。
美姫 「その時イチはって所ね」
にしても、変装まで得意だとはな。
美姫 「一体、どれだけの特技を持っているのかしらね」
さてさて、終わりに向けて動き出すようだけれど。
美姫 「一体、どんな展開を見せてくれるのかしら」
期待に胸を膨らませ。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
ではでは。