『TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜』
第二十六話 −PLEASURE TO BE TRUSTED−
「う〜ん、晶?」
「なんだ、レン?」
いつもは軽い調子で罵りあい、小突きあう二人も今回は声に多少の緊張が混じっている。
二人の後ろではなのはが緊張気味な面持ちで久遠を抱いていた。
「この人たち、誰やろな?」
そういうレンの前にはいかにもな感じの人たちが総勢三十名ほど。全員木刀など殺傷能力こそないが、十分凶悪と言っていいような武器を手にしている。
「さあな。でも少なくとも平和にお話しに来たってわけじゃなさそうだぜ?」
幸か不幸か二人が男達と対峙しているのは高町家の庭。かなりの広さを誇っているため、普段二人がやりあっていてもあまり問題はないくらいだ。
晶の声に、男達の先頭に立っていた黄色いサングラスにブランド物らしいスーツを着込んだ男が歩み出る。
「出来れば話し合いで済ませたいとは思っている。此方としても年端もいかない子供相手に乱暴な真似をしたいとは思っていないからな」
そういうと男は懐に手を入れる。
晶とレンはおもわず身構えたが、出てきたのは一枚の写真だった。
「この少女、藤枝美緒がここにいるのは分かっている。大人しく此方に解放すればお前たちには危害を加えないと約束してやってもいいぞ」
有無を言わさない、絶対に従わせるといった口調のその男に晶は頭に血が上りかける。が、冷静に男の話を聞いていたレンが、キレかけた晶が口を開く前に一歩前に出る。
「たしかに藤枝先輩の写真ですなぁ。でも……おたくら誰です?」
「……彼女のご家族にご縁のあるものだ」
「そんなの嘘に決まって……!」
「そうですか。でも藤枝先輩は一度もここにきたことありませんよぉ?」
大声を張り上げて男にくってかかる晶の前に回りこんでレンは飄々と受け流し、なのはと久遠に家の中に入っているように合図を送る。
そのレンの余裕な態度に後ろのチンピラたちが騒ぎ出すが、レンはそれでも余裕の笑みを崩さない。そして、完全に頭に血が上ってレンを後ろから押して前に出てこようとする晶に目だけで振り返ると、
「ええかげんにせえ、晶。お師匠やイチさんの何見てきたんや?」
と小声で、しかし強く晶に問う。
自分より一つ年下で、自分が全くかなわない天才少女。ライバル視しているようで、実は背中を追いかけているだけなのを認めたくなかった。しかしこんな時でもちゃんとレンは師と仰ぐ恭也や、その師が認めるイチからきちんと学び取っている。
(そうだ。二人が強いのは才能だからとかそんなんじゃないんだ。血の滲むような努力と心の強さ。だめだ! こんな男とチンピラ程度に自分を見失ってちゃ!)
「……ふぅ……。んで? 藤枝先輩を探すためにそれだけの大人数に武器もたせて何させる気だったんだろうな?」
余裕の戻った晶に、レンは小さく微笑んで男達に視線を戻す。
後ろのチンピラ達はもう一触即発状態。リーダーと思われるサングラスの男も明らかに自分達をなめてかかっている目の前の子供二人に少々苛立ちを覚えているといった感じだ。
「もう一度だけいう。藤枝美緒を出せ。ここにいないなら居場所を言え。そうしたら何もせずに引いてやる」
サングラスの男の尊大な態度のその一言に、晶とレンはお互いに顔を見合わせて頷き合うと、
「ここにはいねぇし……」
「何処にいるかも知らん。だから……」
「「さっさと帰れ(り)や!」」
そういって二人そろって中指を立てる。
「…………仕方ない。聞くことがあるから殺さない程度に………………やれ」
晶とレンの態度に男は仕方ないとばかりに溜息を一つついて、後ろの三十余名を動かした。とその時、
「だぁぁぁぁぁぁぁ! ちょっとまてやぁぁぁぁぁぁ!」
ものすごい勢いで間に飛び込んでくる少年が一人。
「はぁはぁはぁ…………。あ゛あぁぁぁぁぁ、間に合ったぁ! 大丈夫か? 晶、レン」
「「ケイさん!?」」
あわやと言うところで飛び込んできたのはイチのところから全速力で走ってきたケイだった。
「ケ、ケイ……も、もうちょ……だめです…………」
遅れて後を追ってきたケイトが息も絶え絶え、よろよろと飛び込んでくる。どうやらケイトの方は周りが見えていなかったらしく、呼吸を落ち着けてあたりを見回すと、
「はぁ、はぁ…………え? なんだかもうギリギリな感じですか?」
といつもの彼女らしからぬ台詞が口を付いて出てきた。
そんなケイトに晶とレン、そして男達は毒気を抜かれかける。
「さて、アンタは……梧桐組の奴か?」
そんな緩みかけた空気の中、ケイだけは緊張感を保ったまま目の前の男をそういって睨みつける。
「あ? ……だ、だったらどうしたというんだ?」
サングラスの男、志賀透はケイの視線を受けて少しうろたえたものの、すぐに先ほどまでの調子でケイに相対する。
「アニキに頼まれたんでな。多分サイス・マスターってのはアンタらに外れ引かせてここに来させるだろうから、何があっても護ってくれってな」
「兄……。そうか、貴様は狼村の小僧の弟か。……どうやら本当にはずれを引かされたらしい」
そういって志賀はサングラスを押しあげると、口元を歪ませる。
「ギュゼッペめ……まぁいい。ここの人間を攫っていけば確実にお嬢様の居所を知ってる奴が病院に一人いるな。…………お前ら」
志賀の一言で一度は止まった男達がまたにじり寄る。
それをみたケイはいつの間にか取り出した黒い手袋のようなものを両手にはめると不敵な笑みを浮かべる。
「さてと、ケイト、晶、レン。ここは俺がアニキから任された。お前らは中のちびっ子共と一緒に中にいろ」
「そ、そんな! 俺だってやれますよ!」
「そうです。うちらだってチンピラごときに負けたりしませんよ」
「……それは私達は足手まといということですか、ケイ」
三者三様、しかし意見は一緒らしい。実際彼女達は全員が格闘技の心得もあり、チンピラ相手に後れを取ることはないだろう。
チンピラ達そっちのけで詰め寄る三人に、ケイは少しだけイチのような穏やかな笑みを作って見せる。
「ケイトは当然として……、晶とレン、なのはちゃんや久遠に何かあったら……分かってるよね?」
突然声の調子を変えてそういうケイに三人は一瞬きょとんとした表情になるが、すぐに三人で顔を見合わせると、
「あの、今のはイチの声……ですよね?」
「びっくりしたけど……結構似てたし多分そうだろ?」
「ってことは……」
そこでレンが何かに気付いたようにケイに向き直る。
「もしかして今の台詞、イチさんに言われたんですか?」
「ああ、しかもあの笑顔でな……。思わず鳥肌たったぜ。ってなわけでな、お前たちが怪我の一つでもしようもんなら俺がやばいんだ」
ケイの笑顔が少々青ざめていることからそれが本当だと理解する三人。全員で頷き合うと、大人しく縁側のほうへと下がっていく。
「あ、晶、レン、ちびっ子共! アニキからの伝言だ」
ケイの声に振り返る二人。なのはと久遠もふすまを開けて顔をだす。
「巻き込んでごめん。終ったらちゃんとお詫びするから……だとよ」
ここでケイが負けるとは微塵も思っていないイチの言葉に、四人は思わず笑みをこぼす。
そしてケイは男達に向き直って手袋を締めなおす。
「さて、待ってくれるとは律儀な悪役だな。感謝するぜ」
「……ふん。貴様を叩き潰して後ろの小娘共を攫う。こっちのほうが手間が省けていいというだけだ。……やれ」
志賀の一言で総勢三十余名が一斉にケイに詰め寄ってくる。
「さて、アニキから初めて信頼されて任された大役だ。今回ばかりは剣道少年って訳にはいかねぇよな。オラ、かかってこいや!」
そして高町家の庭は、戦場となった。
時を同じくして月村家。
美緒と早苗が匿われたこの家の庭でも、一人の少女が警備システムを潰して屋敷へと向かっていた。
髪の毛を左右二つの団子にして纏めているその少女は、やがてすべての警備システムを潜り抜け、屋敷の前に立つ。
侵入前に美緒の居場所は超望遠レンズのついたスナイパースコープで確認してある。
「間取りを確認の結果、藤枝美緒と友人一名はこの屋敷の主人である月村忍の部屋に滞在中。夜の一族である月村忍には多少の警戒が必要も戦闘能力は微力。警戒が必要なのは……」
「ファイエル」
現状と任務を復唱していた少女、アハトの元に高速で飛来する鉄の固まり。
アハトがそれを飛びのいてやり過ごすと同時に、今までアハトが立っていた地面がものすごい音を立てて抉れる。
「自動人形、ノエル・綺堂・エーアリヒカイト」
感情の籠もらない声でそういいながらアハトが見上げたベランダには、たしかに彼女が名前を呼んだ相手、ノエルが佇んでいた。
声に答えるようにノエルはそこから何の前動作もなく飛び降りて先ほど飛ばした腕を回収すると、律儀に一礼してみせる。
「貴方がインフェルノの調整された兵士の方ですね。私は貴方から藤枝美緒様を護るよう頼まれておりますし、主人からの命令でもありますのでここを引くわけにはいきません。どうしてもと仰るならお相手いたしますが?」
そういいつつノエルは降り立った庭に隠してあったブレードを両腕に装備すると、そこで少しだけその瞳に籠もった感情を変化させる。
「と、普段の私ならそういうのですが、今回はもう一つ頼まれごとをしておりますので……」
喋りながら無造作に歩み寄り始める。そして、
「貴方はここで捕らえさせていただきます」
一気に加速してアハトに詰め寄った。
それに対してアハトは淡々と腰からハンドガンを引き抜いて両手に収め、無表情に振り込まれたブレードを弾き飛ばして飛びのき、そのままノエルに向かって引き金を絞る。
放たれた銃弾を、ノエルは慌てることなく手の甲で防ぐと右腕を突き出してアハトに照準を定める。が、すぐに思いなおして腕を下げ、ブレードを構え直して再びアハトのほうへと高速で走りよる。
(今回は撃退ではなく捕獲が最優先任務。インフェルノに調整された兵士の少女達には更生の可能性あり。ゆえに撃退ではなく捕獲、捕縛を優先。私もお嬢様のため、皆さんのお役にたたなくてはなりません)
乱射される銃弾を手の甲とブレードで弾き続けながら、ノエルは主人とその友人達の願いのために肉薄していく。単調とも言えるが、しかし重いブレードの攻撃でノエルはアハトの体力を奪っていく。
アハトはそんな攻撃を凌ぎながら引き金をノエルに向かって絞り続けるが、ノエルの硬い手の甲とブレードによってことごとく弾かれ続け、次第に息が上がっていく。
そんな状態になりつつも一向に攻撃の手を休めようとしないアハトを見ながら、ノエルはその戦い方が自分と酷似していることに気が付く。
たしかに調整されて月日の浅いアハト達後発のツァーレンは、その体に覚えさせられた戦闘パターンからのアレンジが出来ずにいた。それがまるで恭也と出会う前の自分と酷似していて、銃弾が切れてコンバットナイフに持ち替えたころにはノエルはその行動を完全に把握できるようになってきていた。
そしてノエルはそれを待っていたかのようにスピードを上げた。
「貴方は確かに更生の必要がありそうです。そのままでは暗殺者としても一人では機能しません。だから……捕縛します」
そういってノエルはいきなり相手のスピードが上がった事に対応できずにいるアハトを、その両手のコンバットナイフごとブレードをフルスイングして吹き飛ばす。
いきなり弾き飛ばされたアハトは受身を取ることも出来ずに木に叩きつけられる。そしてノエルはそこに更に、
「……ファイエル」
右腕をかざして放ったその一撃はいつものロケットパンチではなく、根元にワイヤーが仕込まれていた。その一撃がアハトの叩きつけられた木の真横を通りすぎたとき、ノエルは小さく右腕を振って同時に左手でワイヤーを掴んで止める。すると止まったロケットパンチは横にその勢いを振られ、ワイヤーが木にあたってそのままアハトを縛り付けるかのように周りを回転した。そして、
「では、事がすべて終るまで……お休みください」
縛り付けるのを見届けた時点で走りよったノエルが、そう呟いて左手を首の裏に叩き込んで意識を刈り取った。
「終ったみたいね、ノエル」
すべてが終ったのをみたのか、ベランダから忍が顔を出した。
「ええ、お約束どおり彼女は捕縛いたしました」
「んじゃその娘は家の中にいれとこうか? あとは恭也と狼村君がどうにかしてくれるでしょ?」
「ええ、そうですね。後は恭也様たちにお任せしましょう」
視線を合わせて微笑みあう二人は全員の無事を信じて疑わずに、ただ信頼に答えられたことを喜んでいた。
ノエルがアハトを取り押さえにかかっていた頃、高町家の庭では信じられないような光景が繰り広げられていた。
三十人以上いた武装したチンピラ集団は、もう後四人の幹部クラスを残して全員が地面に蹲っている。そして、まるで円を描くように倒れているそのチンピラ集団の中心付近に、汗と砂埃と返り血に塗れて鬼神の如く残りの四人の前に立ち塞がるケイ。その姿は、今までそこそこ死線を潜り抜けてきた幹部クラスの四人でさえも気圧されてしまうほどの威圧感を誇っていて、そして戦慄するほどまでに凶悪だった。
動けないでいる五人に向かって、ケイは無造作な一歩を踏み出す。
すると、今まで怯えていたといっても過言ではないほどまでに動けずにいた四人が、恐怖に駆られて一斉にケイに向かって奇声を上げながら襲いかかる。
ケイはそんな四人の内の一人に狙いを絞ると自分から突っ込んでいく。
標的が自分だと分かって思わず脚を止めてしまったその一人の顔面に、ケイは勢いに乗った右拳を叩き込んだ。
鼻が曲がるのを認識することなく意識を刈り取られて吹っ飛ぶ男に目もくれずに、ケイはそのまま自分の一番近くにいる次の男に狙いを定めて体勢を低くして待ち受ける。そのまるで野獣のような眼を見てしまった男は、今までくぐってきた修羅場での経験も忘れ、素人同然のただ殴りつけるように木刀を振り下ろす。
当然のことながら、剣道というルールの中でさえ赤星と対等に渡り合えるケイにそんなものが通じるはずもなく、軽く一歩後ろに下がってそれをやり過ごし、そしてそのまま片足で地面を蹴って叩きつけられた木刀の横をすり抜けながら飛び込んで裏拳を頬に叩きつけ、そして地面に倒れた男のこめかみに爪先を蹴りこんで意識を奪い取る。
「……あと、二人」
一言そう呟いて見回すケイ。
そしてその視界に、ケイが二人倒している間にケイトたちのいるほうに向かっていく男を二人捕らえると、
「ふっざけんなよ、てめぇら!? 俺を無視していこうってか?!」
超人的な速さで後を追うケイ。晶とレン、そしてケイトが身構えるのを見て、ケイは最後の手段で更なる加速を決意した。
(アイツ等に手を出させるわけにはいかない、絶対に!)
奥歯をかみ締め、ケイはその強い思いと共に父と義兄の教えを心の中で復唱する。
(全神経を爪先に集中、体勢を低く、更に低く……体の下に流れていく風を使って滑空するように……余計な力をすべて抜いて、大地を………………蹴る!)
「狼牙流裏歩術、疾風」
そう呟いた瞬間、ケイは倒れそうなほど体を前に倒し、そして疾走した。
それまでもかなりのスピードで走っていたケイだったが、それとは比べ物にならないほどの移動速度で一気にケイトたちに肉薄せんとしていた男達に追いつく。そして、
「そいつらには指一本触れさせねぇ!」
そう叫んで二人の併走していた男達の頭を後ろから掴むと、そのまま力一杯地面に叩きつけた。
まさか追いついてくるとは思ってもいなかった男達はなす術もなく地面に叩きつけられ、そのまま起き上がれなかった。
なれない、というよりも土壇場で疾風を使って成功させたとはいえ、やはりそれまでの消耗が激しすぎる分ケイは、無傷ではあるが肩で息をするほど疲弊している。しかしケイは両膝に手を付いて状態を起こすと最後に残った男、志賀透をその鋭い眼でしっかりと見据えた。
「……なんなんだ、貴様は……」
その志賀の口をついたのは、驚愕の言葉だった。
三十人以上いたはずの部下達、しかも幹部クラスの実力者を四人も連れてきて尚、たった一人でそれを相手にしていたはずのまだ十代半ばの少年が一人無傷で自分を睨みつけている。
「なんなんだって……狼村圭以外のなにもんでもねぇよ。ところでアンタ、志賀って人か?」
「!?……だったらどうしたというんだ」
「アニキたちが、アンタにあったら教えておけって言ってたことがある。聞くか?」
「…………いってみろ」
志賀は、サイス・マスター、もといギュゼッペを初めから信用などしていなかった。初めから志賀個人的には胡散臭さを感じていたし、なんの利益も得られない相手だったとしたら初めから客人として迎えるのは反対だったのだ。そしてだからこそ、今回こうしてはずれを掴まされたと知った今、少しでも自分にとって必要な情報をかき集める必要があった。
ケイもまた、志賀の態度から戦意がとりあえずないことを悟ると体から力を少し抜く。
「今回の事、アンタの親分が殺されたのも全部、仕組んだのはサイスって奴だとよ」
ケイの口から放たれた言葉は、ある意味志賀も予想していた事だった。ただ、それが嘘にしろ本当にしろ、志賀が知らなければいけないのはその先の話、つまりその根拠である。
「……続けろ」
「元々アンタ等がファントムって呼んでる二人、あの二人はサイスが調整し、そして操ってきた。詳しく言うなら女の方、エレンさんは子供の頃にどっかから買われて、昔の記憶も全部消されちまってサイスのために殺すことが役割だと刷り込まれていたし、男の方、玲二さんは生きるために殺し屋としてサイスって奴に従う以外なかったらしい」
そこまでの情報は志賀の耳にも届いていた。それもサイス本人の口からその大部分が。
たしかに二人ともサイスが調整し、そしてあの時、暴走した。そう聞かされている。
「アンタにとってこの件はアンタの親分さんが殺されたことから始まってるんだろうって言ってたけど、どうだ?」
「……その通りだ。だからどうした……」
「アンタは玲二さん、男の方を親分を殺した犯人だと思ってる。それは?」
「……俺はその場にいた。どういう意味か分かるだろう……」
梧桐大輔は玲二の手にかかって命を落とした。サイスから玲二が仲間が殺された現場に銃を持って立っている写真を渡されて大輔がそれを信用し、そして報復に向かった。その現場で玲二と交戦し、志賀を残して全滅。それが事実だったはずだった。
「じゃあ、その現場にサイスの命令を受けたエレンさんがいたのは知ってたか?」
「……なんだと?」
「アンタの仲間を初めに殺したのも、その現場でアンタの親分や仲間殺したのも、サイスに命令されたエレンさんだったってのは?」
志賀はケイの口から語られる新たな事実に言葉を無くす。
ケイの言う事がすべて本当だとしたら、自分はここ何年間、いや、大輔と一緒にアメリカに渡ったあの時から今までずっと、一人の男の掌の上で踊らされていたことになる。
「全部兄貴達からの言葉だから俺は詳しい事はしらねぇ。ただエレンさん本人からの証言も取れてるらしいし、それにアンタにもそんな覚え、なくはないんだろ?」
そう、確かにあの時玲二はハメられたと口にしていた。大輔を初めとしたその場にいた人間は逆上していたため聞く耳すら持たなかったが、これまでのケイから聞いた話がすべて本当だと仮定するならば、玲二の言っていた事は正しかったことになる。
「信じる信じないはアンタの自由だけどよ、そういうことなんでここを襲うってのは見当違いもいいとこだ。正直俺も兄貴殺されたらたとえそれが誰かの命令だったとしても殺した奴許せるとは思えねぇからエレンさん恨むなとはいわねぇよ。だからさ、とりあえずここは退いてくれねぇか?」
正直志賀はケイの話をすべて頭から信じたわけではない。又聞きということもあってか色々と説明が不足している部分もある。しかし、それでも志賀はここは引くべきだと悟った。
「……俺一人で貴様をどうにかできるとは思えん。ここは退くべきなのだろうな。しかしその前に聞かせろ」
「……ああ」
「……藤枝美緒は…………お嬢様は、どうしている」
「ああ、それもいっとけって言われてたな。実は藤枝先輩と友達の久保田先輩、今のファントムだとかいう女に拉致られてたらしい」
「なに!? それで今何処にいる!?」
「心配なさらないでください」
今まで黙っていたケイトが、ケイの後ろから返事を返す。
「事実に気付いたイチが発覚したその日のうちに対策を立て、そして夜には無事救出いたしました。もっともその時点でイチ本人はすでに入院していましたので、実際には……」
「なんだ、女」
「実際に藤枝美緒さんを救出したのはエレンさんとイチの友人の方々、ですが……。現在はお二人とも安全な所に匿われています」
やはり今までの話の流れを聞いていた以上言いにくかったのだろう。なにせ自分の崇拝していた兄貴分を命令とはいえ手にかけた人間が、今度はその妹を救ったというのだから。
しかし、居場所を無理矢理にでも聞き出そうとするかと思われた志賀はただ一言、
「そうか……」
とだけ言って呻いているチンピラ達をたたき起こし、気絶している仲間を引きずって背を向けた。
そんな志賀の後姿に、ケイはもう一言だけ声をかけた。
「今日すべてのかたがついたら、藤枝美緒はちゃんと元の家に戻る。狼村の名は養子ゆえに賭けられないが、首を賭けて狼村一太郎がお約束しましょう、って兄貴がいってたぜ」
「……承った。迷惑かけたな」
そして後にはケイたちが残される。
全員いなくなったのを見届けてから庭に下りてきたなのは達をみてケイは満足げに笑うと、
「ケイト、頼みがある」
と自分の後ろを振り返る。
「なんですか」
「……肩、貸してくれ」
「……し、しょうがない、ですね」
いくらか顔が赤くなりながらも承諾したケイトに、ケイはなんの遠慮もなしに寄りかかる。
まわりでみていた晶やレン、なのははケイの大胆ともいえる行動に思わず赤面してしまう。久遠だけはそんな皆を見て首をかしげていたが。
「正直もう立ってるのがやっとだ。ケイト、縁側まででいいから頼むわ」
「は、はい」
ふらつきそうになりながら、それでも何とかケイを縁側に座らせるケイト。
するとケイは何を思ったか、そのまま隣に腰を下ろしたケイトにもたれかかってきた。
「え?ちょ、け、ケイ!?」
好意を寄せる男にいきなり寄りかかられ、パニック状態のケイト。
晶達はそんな光景をみて、
「……らぶらぶやなぁ……」
「……ああ、さっきまで鬼のようだった人だとはおもえねぇ……」
「……さっきのケイさん怖かったけど、今はなんだか優しそう……」
「けいやさしい? きょーやといちみたいにやさしい?」
とそれぞれ思い思いのひやかしを、主にケイトのほうに投げかける。
しかしケイトは、自分にもたれかかってきたケイの様子を見ると納得したように軽く頷いて、
「し、しょうがないですから、今だけですよ?」
とケイの頭を自分の膝に乗せた。
そう、ケイはそうすでに疲れもピークに達してしまっていて眠ってしまっていた。
自分の膝の上で子供のように眠るケイをみながら、ケイトは呟く。
「皆さんは……、ブリジットは大丈夫でしょうか?」
そんな呟きに、四人は笑顔で答えた。
「師匠や美由希ちゃんが負けるはずねぇし……」
「ブリジットさんにはイチさんとフィリス先生がついてますから」
「忍さんたちにはノエルさんがついてるし……」
「みんなだいじょうぶ〜♪」
心の底から仲間を信頼する四人を見て、ケイトもまた笑顔を浮かべてケイに話しかけた。
「そうですね。イチ達なら大丈夫です。ね、ケイ」
ケイトの膝の上で、ケイが軽く微笑んだような気がした。
あとがき
超難産な二十六話でした。月一更新すらままならなくなりかけたダメSS作家、アインです
もうちょっと先まで進んで病院での話も終らせるつもりだったんですが、今まで殆ど日の目を見なかったケイの話を書いていたら楽しくなってきてしまって……結局晶とレン、今回は護られる側で終っちゃったし……ごめんなさい
またまたオリジナル設定満載になってしまいましたが、まあ次の話は間違いなくイチと恭也達、エレン達の話までもっていきたいと思っておりますので……がんばります、ハイ
ではでは今回はこの辺で
ノエルとケイが大活躍。
美姫 「うんうん。さーて、今回で襲撃の一つというか」
まあ、半分と言うかは終わりかな。
美姫 「後は本命が残っているわね」
あっちはどんな展開を見せるのか。
美姫 「次回も楽しみにしてま〜す」
ではでは。