読んでくださる心優しい方々へ...

 

このお話にはただいま私が連載中のTRIANGLE HEART BEATのキャラが出てまいりますが、話の都合上出しただけですので知らなくても支障ございません。

なんか知らない人がいいこといってる、くらいに思ってもストーリーは読めるはずです。

誰これ?と気になった方がいらっしゃれば基本設定のほうを読んでいただきたくおもいます。

 

 

 

 

 

 

 

〜2月13日 翠屋店内〜

 

 

「ありがとうございました〜!」

 

本日最後の客を送り出し、翠屋は全員で閉店作業に取り掛かる。

恭也も表の看板などを戻す作業に取り掛かるべく、外へと向かう。

そこに忍が、

 

「桃子さぁ〜ん、すいませんけど今日は早めに帰らないといけないんで...」

 

と申し訳なさそうに声をかける。

自分だけということに多少後ろめたさを感じて言いよどんでしまう忍だったが、桃子は

 

「あ、いいわよ〜。恭也、途中まで送ってきなさい」

 

と二つ返事で了承し、恭也に送るよう支持する。

それを聞いて恭也はとくに嫌がるでもなく、

 

「わかった。晶、レン、作業のほうは頼んだ」

 

といってエプロンを取って忍のもとへと歩いていく。

さすがに迷惑がかかると遠慮するが、桃子たちは二人の背中を押して店の外に出してしまう。

 

「まあ、そういうわけだ。気にするな」

 

そういって軽く微笑む恭也に見惚れながらも忍は嬉しさを感じ、

 

「うん。じゃあいつものところまでお願いね」

 

と並んで歩き出す。

 

それはいつもの光景、いつもの会話。

永遠に変わってほしくないようで、でももっと近くにありたい気持ちがあって...

明日はそんな二人の心を繋ぐ、年に一度の奇跡の日...

 

もう、みんな忘れてしまった聖なる日...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気持ち、忘れられた今日という日の意味に乗せて

 

 

 

 

 

忍をノエルのところまで送り届けた恭也は、自分の気持ちの在り方に疑問を抱く。

はっきりさせるべきなのは、もう分かっている。

しかし自分の中に拒絶の言葉を恐れる自分がいる。

お前はそれをしてはいけないのだと訴える自分がいる。

お前は守るために人を傷つけ、そして近しい人も傷つけるかもしれない。

そんなお前に人は幸せに出来ないと訴える自分がいる。

 

しかしその一方でそれでも自分はそうしたいと叫ぶ自分がいる。

他の誰でもない、自分の手で忍を幸せにしたいと叫ぶ自分がいる。

そしてなにより彼女を失いたくないと訴える自分がいる。

 

「無様なものだな...」

 

そう口に出していってみる。

 

「そうでもないさ...君の場合は特に、ね」

 

独り言に返事を返したのは無二の親友。

その穏やかな声が、優しげな微笑が、こわばっていた恭也の心を解す。

 

「少し、話そうか?」

 

微笑を携えて歩き出すその背中に、恭也は素直についていった。

 

 

 

 

「なるほどね...」

 

臨海公園まできて自分の考えていることのすべてを目の前の親友、狼村一太郎にすべて打ち明けた恭也は俯いたまま言葉を待つ。

イチが目の前に立ったことに気づいた恭也は、それでも顔を上げられない。

 

「恭也...」

 

穏やかなイチの声に、恭也はやっとゆっくり顔を上げる。

するといきなりイチは恭也を殴り飛ばした。

一瞬の事、しかも自分と同等の力を持つイチの拳だ。

今の精神状態の恭也によけられるはずもない。

しかし恭也にとって驚きだったのは、目の前の親友が殴ったということだった。

鍛錬以外では殆ど人を傷つける行動をとらないこの男に殴られたということが驚きで、恭也は唖然としてイチを見上げる。

 

「恭也、君はまだわかってないのかい?」

 

いつもの調子で語りかけるイチの言葉に恭也は耳を傾ける。

 

「君の剣は何のためのもの?」

 

「自分の守りたい人たちの、力ない人たちの笑顔を守るため...」

 

「恭也にとって、忍の笑顔は守りたいモノ?」

 

「当然だっ!!」

 

思わず感情をむき出しにして怒鳴る恭也に、イチはそれでも笑顔を崩さない。

 

「笑顔を守るとはどういうこと?」

 

「その笑顔を奪わんとする全てのものと戦い、そして勝つこと...」

 

「君はそれが出来ないってことだよね?」

 

「なぜそうなるっ!?俺はやるっ、アイツのためならっ!!」

 

「じゃあ恭也、いままでの君の不安が矛盾していることに気がつかない?」

 

イチのその台詞に恭也は今まで出していた感情すら忘れて分からないといった顔をする。

 

「君は自分が忍を桃子さんの二の舞にしてしまうことをもっとも恐れている。でも彼女の笑顔を奪うものすべてに戦って勝つという」

 

そこでイチはいったん言葉とめると、顔から笑顔を消して真剣な表情で言葉を紡ぎだす。

 

「なら君自身がその恐怖に勝てなかったら忍の笑顔は守れないよ」

 

その言葉に恭也は愕然とする。

 

「そして君が自分の気持ちを伝えずにいても忍の笑顔は潰える、君が死んでしまえばね。わかるかい?忍の笑顔を守りたいなら君は真っ先に『死なない』ことをその笑顔のために考えないといけないんだ」

 

もはや恭也は返す言葉もなくイチの言葉に耳を傾ける。

 

「じゃあ聞くよ...出来なくてもいいんだ。ただ、君に忍のために死なない覚悟はあるかい?」

 

その問いかけに恭也は心が軽くなるのを感じ、そしてはっきりと答えた。

 

「ああ!絶対ではないかもしれないが、最後まで生きて帰ることを諦めない、忍のためにっ!」

 

そう告げる恭也にイチは笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

「本当に世話になった」

 

いまだ高町家に居候しているイチとは必然的に一緒に帰ることになる。

気恥ずかしいのもあるが、いまの恭也にとってそれは感謝に比べれば些細なものだった。

そして高町家の門の前に着いたとき、イチが突然思い出したように、

 

「そういえば明日ってSt. Valentine’s Dayだよね?」

 

と呟くように言う。

その発音のよさに帰国子女であることを認識して苦笑しながら恭也は肯定の返事を返す。

するとイチがある話をし始める。

「明日って本当はね...」

話し終えると、じゃあそれだけだから、といって部屋に戻っていくイチ。

その話を聞いた恭也は、ある決意をし、おそらくそのつもりであったろう親友の背中に小さく礼を言った。

 

 

 

 

〜2月14日 朝 高町家〜

 

 

 

「それじゃあかあさん、今日は遅くなる。それとすまないが店も手伝えない」

 

そういって手早く支度をし、玄関へとむかう恭也を桃子は慌てて追いかけてくる。

 

「ちょっとちょっと、恭也!今日が何の日か知ってるでしょ?皆が起きるの待っててあげたって...」

 

そういって引きとめようとする桃子を恭也は真剣な顔で見つめると、

 

「すまん。みんなのは受け取れない」

 

そういって出て行ってしまう。

取り残された桃子は恭也の真剣な顔に暫く見惚れていたのだが、我に返ると

 

「あの子、どうしたのかしら...今まで甘いものでいやそうな顔はしても受け取らないなんて事、絶対になかったのに...」

 

と心配そうに呟いて中に戻っていった。

 

 

 

 

〜同日 昼 海鳴大学〜

 

 

 

「ねえ、今日高町君みた?」

 

「見てな〜い、私チョコ作ってきたのに〜」

 

「あたしだって徹夜で作ってきたのよ?」

 

「どうしたんだろうね?高町君」

 

そんな会話を聞いていた忍も、実は同じことを考えていたりする。

あまり料理の得意でない忍も、この日に向けてノエルに教えてもらっていたのだ。

そしてそれは何とか形になった。

味も、見た目と違っていけているとおもう。

それを作るためにチョコレートを刻む際、誤って指を何度か切ってしまい指が絆創膏で固められているが。

 

(それにしても講義さぼってなにしてるんだろ?恭也)

 

最近少し近くに感じるようになってきた高校以来の思い人に思いをはせる忍だったが、同時に少し不安を覚えてきてもいた。

忍が夜の一族だと知ってからも恭也はそばにいるとは言ってくれた。

ただし忍はそれを理解者としてという形で受け止めており、現実に恭也は大切な友達だとはいっていても、それ以上の関係であることは否定する。

恋人らしいこともしたことがないし、恭也はその気はないように感じる。

なにより女の子にとって一世一代の勝負の日に、恭也は自分のそばにいないのだ。

 

(もしかして本当は恭也、好きな人がいるのかなぁ)

 

そんな一抹の不安を胸に閉じ込め、忍は午後の講義へと向かうのであった。

 

 

 

 

〜同日 夕方 翠屋店内〜

 

 

 

「...というわけでね、殆ど何も言わずに朝早くでてっちゃったのよ〜」

 

客足の途絶えた頃合を見計らうように晶やレン、那美が桃子に今朝の話を聞いていた。

 

「送られてきた美由希とエリスさん?それにフィアッセたちのにも見向きもしないでねぇ、あれ、きっと何かあるんだわ」

 

「なにかってなんです〜?」

 

思わせぶりな口調の桃子に合いの手を入れて先を促すレン。

それに気を良くしたのか桃子は一気にしゃべり始める。

 

「そうねぇ、もう彼女がいるからその人意外からはもらえない、とか?」

 

「そんなひといるんですか!?」

 

「ああー、でも師匠ならそんなこといいそうですねぇ!」

 

少し興奮気味な那美と当たっていそうなことに素直に感心する晶。

そこに忍が入ってくる。

 

「おつかれさまで〜す...みんな、何話してるの?」

 

「あ、忍さん。お疲れ様です。いえ、恭也さんの様子がおかしかったとのことなので...」

 

「そうそう!忍ちゃんは恭也にチョコ渡せた?」

 

身を乗り出すように聞いてくる桃子に、たじろきながら忍は困ったように、

 

「いえ、それが恭也講義にもでてなくて...」

 

と苦笑しながら答える。

 

「そうかぁ〜、忍さんでもないのかぁ〜」

 

「ねぇ晶、何なの?」

 

「いえ、それが桃子ちゃん、おししょーが誰のチョコも受け取らんのは好きな人がいてはるやからや〜ってゆーんです」

 

「でも忍ちゃんでもないとなると誰なんだろう?」

 

そこから先の会話は忍の耳には入っておらず、仕事中も大きなミスこそなかったものの終始上の空であった。

 

 

 

 

〜同日 夜 臨海公園〜

 

 

 

もうあと1時間ほどで日付が変わろうかという時刻、忍はどうしても家に帰る気になれなくてここまで足を運んでいた。

翠屋での話が頭を離れず、気にすまいとしていてもどうしても考えてしまう。

たしかに今日一日、周りの人間が誰も恭也を見ておらず、チョコレートも渡せていない。

桃子の言っていたことも、あながちはずれとは言いづらいのだ。

 

「恭也の好きな人...か。たしかに仕事とかでいろんな人にあってるんだろうし、今日はその人のところかな?」

 

そういって自嘲気味に笑いながら、手の中のチョコレートを見つめる。

一週間も前からノエルに教えてもらって昨晩やっと形になった正真正銘の手作り。

 

「あーぁ、結構頑張ったんだけどなぁ。どうしてこうなるんだろ」

 

ぽつり、ぽつりと呟く忍の目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。

しばらく唖然とそれを見ていた忍だったが、

 

「やっぱり恭也は私のこと友達としてしかみてないんだろうなぁ...なんか馬鹿みたい」

 

そういって手に持っていたチョコレートを海に投げ込もうとする。

 

「ここにいたのか、忍」

 

突然後ろからかかった聞きたかった声に忍は手を止めて振り返る。

そこには汗だくになってたっている恭也が真剣な顔でたっていた。

慌てて浮かんでいた涙を拭った忍は、それでも不安で押しつぶされそうになっており自分から話しかけられない。

恭也はゆっくりと近寄ると忍が手に持っているチョコレートの箱に目をやる。

 

「すまん...本当にすまない。せっかく作ってくれたのに...」

 

そういって謝る恭也の言葉を聞いて忍は涙を堪えながら、

 

「そ、そうだよね...恭也には好きな人が...グスッ、うっ...き、気にしないでいいよ。私は今ま...スン...今まで、通りで...」

 

そこまでいってついに泣き出してしまう忍に困惑しつつ恭也は、

 

「何のことなんだ、忍?好きな人って...それに俺はその今までどおりではいやだったから着たんだが...」

 

といって忍の目の前までやってくる。

何を言われているのか分からない忍は、涙を浮かべながら恭也に、

 

「だ、だって...恭也は...ヒッグ...好きな人からしか、チョコを、う、受け取らないって...」

 

「そうだな、俺はそのつもりだった。だから...」

 

そういって忍の手の中のチョコレートを手に取ると、

 

「これは、俺がもらってもいいか?」

 

と顔を赤らめながら言う。

その言葉に嘘がないことを感じ取った忍はもう一度涙を拭い、まだ力のない声で、

 

「でも...じゃあ何で大学に来なかったの?きてくれてたらこんな思いしなかったのに...」

 

と少しぐずっているように呟く。

それに対して恭也はさらに顔を赤くしながら黙ってポケットの中から一つの箱を取り出す。

 

「それはこれを探していたんだ...お前にどうしても渡したくて...」

 

「...あけてもいい?...」

 

その問いかけに頷いた恭也は緊張した面持ちで真剣に忍を見つめる。

忍はゆっくりとした動作で包みを開けていき、箱を開く。

その中身を見た瞬間、恭也の顔は今までで一番赤くなり、忍は信じられないものでも見るようにそれを見つめる。

 

「これって...恭也、信じていいの?...」

 

その箱の中にはいっていたのはシンプルなシルバーのリング。

忍の涙交じりの問いかけに恭也は頷くと、

 

「忍、今まで俺は自分の気持ちに気づかない振りをしてきた。でももう自分自身が限界だ。ここまで来るまで自分でも呆れるほど回り道をしたけど、もう迷うつもりはない」

 

そういって忍の肩に両手を置くと、一番素直な気持ちを言葉にする。

 

「忍、俺をお前の一番傍にいさせてくれないか?」

 

その言葉を聞いた瞬間、忍の瞳から大粒の涙があふれ出てきた。

 

「......あ、あれ?なんで?嬉しいのに、涙が止まらないよ?」

 

その涙をみて、恭也申し訳なさそうに、それでいて嬉しそうに一言、いままですまなかった、と声をかけ、忍の唇に軽く自分のを合わせる。

自分の初めてのキス。

好きな人にと、そして好きな人からしてくれた。

そのことで胸がいっぱいになり、さらに溢れ出す涙。

しかし忍はもうその涙を拭おうともせず、涙で濡らした顔のまま微笑むと恭也の胸に飛び込んで声をあげて泣き始める。

 

「恭也ぁ、恭也ぁ...恭也ぁー!!!」

 

うわ言のように名前を呼びながら泣き続ける愛しい人を、恭也は彼女が落ち着くまで黙って抱きしめ続けた。

 

 

 

「今日はな、本当は皇帝に逆らってまでも人と神の愛を支え続けた聖者の処刑された日なんだそうだ」

 

恭也は包み隠さず今日に至るまでの経緯を話した。

自分がどうしようもなく忍を好きで、でも桃子の二の舞にしてしまうかもという恐怖におびえてなにも出来ないでいたこと。

親友が目を覚まさせてくれたこと。

そしてヴァレンタインの本当の意味。

 

「だから今日は恋人たちの日、ということらしい。チョコレートは日本人が作り上げたものらしい」

 

そういって一息つくと嬉しそうに肩に頭を乗せている忍を一度みてから照れくさそうに、

 

「だからどうしても14日の内に気持ちを伝えたかったんだ。もしかしたら俺の気持ちも支えてもらえるかもと...」

 

と尻すぼみになりながら告げる。

 

「うん、支えられてたね。その聖者様と、私たちの友人に」

 

嬉しそうに、穏やかな口調でいう忍に恭也も微笑んで頷く。

そうして恭也は肩の上の忍に長めのキスを落とす。

一分近くして離れた二人の唇と唇とは、銀色の細い橋で結ばれていた。

それを消すように今度は忍から軽く唇を合わせると、再び恭也の肩にもたれかかり、

 

「お礼...しないとね、狼村君には。ヴァレンタインの話で最後の後押ししてくれたのも彼でしょ?」

 

と赤い顔でいたずらめいた口調でいう。

 

「よくわかるな...それにみんなにも謝らなければ...不愉快な思いをさせてしまった」

 

「そうだね...でも今はもう少しだけ...」

 

「ああ、忍、愛している。俺はお前のためにどんなことがあっても生きることを諦めない」

 

「うん、わたしもだよ...ンッ」

 

そういってまた深く長いキスをする。

丁度二人の唇が触れ合った瞬間、船の汽笛が日付の変更を告げた。

それは今までの間、変わることを躊躇っていた二人築いたの新しい、そしていつもどこかで望んでいた関係に対しての祝福のようにも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

うわ〜、やってもうた!

ブリジット「はじめてのラブばなです?」

ほんとだよ。これおれが書いたの?

ブリジット「それは文章のレベルの低さですぐにわかるです」

うっわ、容赦ねーよ...

というわけではじめて季節ネタでした!

私はチョコレート戦略からは小学校以来はなれて生活してきているのでこれは

普段からお世話になっている美姫さんにヴァレンタインのプレゼントです

ブリジット「そんなんはもうちょっとましなもんかけるようになってからですぅ」

...だからお前それキャラ違う。それにこういうのは気持ちだ

ブリジット「浩さんにはなんかないですか?」

野郎にもらってもさすがに喜んでくれないかと...大体お前この前のあとがき途中で逃げたの今日のためだろ?出来たのか

ブリジット「...私たちのストーリーは夏だったりしたです...」

...あぁ、なんだ...すまん。まあそういうわけでまた本編に戻るか

ブリジット「さっさとだせです...それではまた、SEE YAです!」





ありがとうございます〜。
美姫 「バレンタインSSありがと〜」
甘々だな。
美姫 「甘々ね」
う〜ん、バレンタインだけに甘いと。
美姫 「あまりうまくないわね」
うっ。ほっとけよ。
美姫 「さて、こんなバカは置いておきて」
バカって…。
美姫 「ありがとうございました〜」
ございました。



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