第18話 眠れない夜

 

 今日三度目の帰宅後、優斗はバスルームへと向かった。

 汚れた服を脱ぎ、シャワーで血と汗を洗い流す。

 傷は沁みるが、我慢出来ない程ではない。無理をしなければじきに癒えるだろう。

 切り裂かれた上着とシャツはとりあえずまとめて可燃ゴミ用のビニール袋に押し込んでおく。

 後で優奈が起きる前に捨てに行こう。幸い今日は燃えるゴミの日だ。

 リビングの日めくりカレンダーを破って捨てると、優斗は隣のキッチンへと入った。

 気分転換のつもりで出掛けてみたものの、あんなことがあった後ではやはり眠れそうにない。

 冷蔵庫にはまだ冷たいオレンジジュースが入っていたはずだ。

 とりあえず、あれでも飲んで横になろう。何、そのうち眠れるさ。

 半ばなげやりな気分でそう思うと、優斗は冷蔵庫のドアに手を掛けた。

「優斗さん?」

 不意に背後から声を掛けられて優斗は思わずびくりとした。

 振り返るとそこに優奈が立っていた。

「どうしたんですか、こんな時間に」

「優奈こそ。もうとっくに眠ったと思ってたのに」

「眠れないんです。目を閉じると昼間のこと思い出してしまいそうで、怖くて……」

 そう言って優奈は目を伏せた。

「ごめん。俺が傍についていなかったばっかりに……」

「そんな、優斗さんのせいじゃありません。わたし、感謝してるんですから」

「気休めはよしてくれ」

「気休めなんかじゃありません。わたし、本当に……」

「だったらどうして俺を避けてるんだ!」

 思わず大きな声を出してしまったことに優斗は自分でも驚いていた。

 感情が激しく乱れて、冷静でいられない。

 怒りでも憎しみでもない何かが彼の中で暴発しようとしていた。

 その得体の知れない何か、本当は分かっているそれを必死に押さえて優斗はもう一度聞いた。

「俺の勘違いかも知れないけど、もしそうじゃないのなら訳を教えてくれないか?」

「それは……」

 優奈は何か言いかけたが、思い直して口を噤んだ。

「少し飲みませんか。体、温まりますよ」

「え?」

「優斗さんは洋酒と日本酒、どちらがお好きですか?」

「俺は日本酒かな。……って、ちょっと待った」

 思わず答えてしまってから、優斗は慌てて待ったを掛けた。

「やっぱり洋酒の方がいいですか?発泡酒やビールもありますけど」

「そうじゃなくて。その、いいのか?俺は、それにたぶん君もまだ未成年だぞ」

「いいじゃありませんか、たまには。わたしが許します」

 そう言うと、優奈は冷蔵庫からワインだかウイスキーだかのボトルを出して卓上に並べた。

 優斗はかなり強引に話を逸らされたような気がしないでもない。

 それ以前に、なぜこんなものが家にあるのだろう。うちは誰も酒なんて飲めないはずなのに。

 結局、優斗は発泡酒で、優奈は謎の果実酒でそれぞれ乾杯することとなった。

 ――今宵の月は僅かに欠けた十六夜。

 眠るような静寂の中で、今はその光だけが二人の間を満たしている。

 軽くぶつかり合うグラスとグラス。その中でそれぞれの酒が小さく揺れた。

「お酒って不思議。ほんの少し飲んだだけなのに、こんなにも気分が高揚するなんて」

 グラスを傾けながら、うっとりとした表情で優奈が呟く。

「酒はよく飲むのか?」

「いいえ。わたし、お酒はあまり好きじゃありませんから」

「じゃあ、どうして急に飲もうなんて言い出したんだ。嫌いなら、無理しなくてもいいのに」

「きっかけが、ほしかったんです」

 そう言って優奈はグラスを置いた。

「海でのことは本当に感謝しています。優斗さん、すごくかっこ良かったですよ」

「はははっ、そりゃどうも」

 おどけたように笑ってみせる優斗。アルコールが入っているせいか、いつになく陽気である。

「でも、だからなのかな。それからのわたしは少しおかしくなってしまったみたいなんです」

「それって、どういう……」

「わかりません。ただ、あなたのことを考えると、たまらなく胸が苦しくなるんです」

 優奈は優斗の手を取って自分の胸へと導いた。

「……ほら、今もこんなにドキドキしてる……」

「お、おい、優奈……」

 優斗は困惑した。

 どうしてこんなこと。いや、それ以前に本気なのか?優奈は本気で俺のことを……。

 動けなかった。彼女が訴えてくるこの気持ちが何であるか、彼にはわかってしまったから。

 月明かりの中に浮かぶ彼女の顔が赤いのはアルコールのせいだけではないのだろう。

 定まらない視線のままで、二人はじっとみつめ合う。

 掌に触れた胸の感触が温かくて、柔らかい……。




 ―――あとがき。

龍一「……はぁ」

かおり「どうしたの溜息なんて吐いて」

龍一「いや、三途の川って本当にあるんだなって」

かおり「はぁ、何わけの分からないこと言ってるのよ」

龍一「美姫さん、容赦なさすぎ。っていうか、ほとんど何があったか覚えてないし」

かおり「ほう。なら、このわたしが特別に相手をしてあげようじゃない」

龍一「い、いや、遠慮しときます」

かおり「ふふふふ、いくわよ。破邪真空流抜刀術奥義之三・連牙!」

――ざくざくざくざくざくざくざくざく。

龍一「うげげげげげ」

かおり「抜刀からの8連撃。しかも、狙うのはすべて人体急所。相手が普通の人間なら、確実に死ぬわ」

龍一「そ、そんなもの使って本当に死んだらどうするんだ!」

かおり「な、確かに手ごたえはあったはず」

龍一「ふっ、所詮は歴史の闇に消えた古流剣術。そんなものでこの俺は倒せんよ」

かおり「妖怪以上のしぶとさね。なら、城島さんに教えてもらったこの呪文で」

――黄昏よりも昏きもの。血の流れより赤きもの。

龍一「ふっ、甘い」

――紺碧の夜に抱かれし、夢幻の闇を統べるもの。

かおり「くっ、――龍破斬――ドラグスレイブ!」

龍一「――混沌の破壊剣――カオティックブレイカー!」

――赤い闇と黒い闇が激突する。

かおり「きゃぁぁぁぁぁっ!」

龍一「ふっ、そう毎回毎回やられてばかりでたまるものか」

かおり「うう、美姫さんに言いつけてやるんだから!」

――泣きながら走り去るかおり。

龍一「お、おい、ちょっとまっ……って行ってしまった。あれは本当に行ったな。後が怖い」

さて、かおりが退場してしまったので一人であとがきを続けます。

今回で第3章は終わり、次回からいよいよ物語の核心に、近づいていけてたらいいな(おい)。

今後もよろしくです。

 

 




沈黙の中、見詰め合う二人。果たして、二人の想いは……。
そして、物語は核心へと近づいて行く……。
次回も楽しみにしてますよ〜。
……って、一人は何か虚しいな。
はぁ〜、美姫にお客さんが来た所為で、今回も一人で進行してます。
美姫 「いい、その場合は、ここでこうやって」
?? 「はい、はい!」
……え〜っと。た、多分、大丈夫だよね、うん。
美姫 「駄目よ、呪文だけに頼ったら。呪文は威力が大きい代わりに、詠唱というタイムラグ出来るんだから」
?? 「でも、わたしの技は避けられるし」
美姫 「避けられるなら、避けれない技を出すまでよ! 一層の事、自分の前方、100メートル一体を焼き払うとかね」
……聞こえませんよ、ええ、聞こえません。
だから、剣技でそんな事が出来るのはお前だけだなんて、突っ込みませんとも、ええ。
?? 「そんな事、できませんよ」
うんうん。君の意見が正しいんだよ、普通は。
美姫 「何、甘い事を言ってるのよ。って、言っても仕方がないわね。
     うーん、私の得意とする秘術なら詠唱なしで絶大な効果を出せるんだけど」
?? 「そんなのがあるんですか」
美姫 「う〜ん、あるんだけれどね。これだったら、目に見える範囲に任意に炎、雷、風に爆発を起こせるんだけど」
?? 「教えて下さい!」
美姫 「あ〜、ごめん、無理」
?? 「何でですか!?」
美姫 「だって、魔眼だし。教えようがないのよね〜」
……そんな能力持ってたのか?
美姫 「性格に言うと、魔眼じゃなくて、魔力を視線から出すというか」
……人の事を言う前に、お前も充分人間離れしてるぞ〜(小声)
美姫 「その代わり、この道具を貸してあげるから」
?? 「これは?」
美姫 「これはね……、で、こうして、こう使うと……」
?? 「ああ、分かりました。ありがとうございます。ふふふ、見てなさいよ〜」
……え〜、何が起こることになるのかは分かりませんが、とりあえず、先に言っておきます。
何が起こっても、私は関与してませんし、知りません(きっぱり)
ではでは〜。(どうか、ご無事で〜)



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