第6話 雪と少女と幻と

「で、どうして君たちはこんなところにいるんだ?」

 事故現場に程近い喫茶店。

 事情を聞くために入ったその店で、優斗は早速目の前の女性二人にそう尋ねる。

 遠くから見ていたときには気づかなかったが、優斗はもう一人のほうとも面識があった。

 ――少し前に仕事で北海道に行ったとき、一晩だけ一緒に過ごした少女。

 最初は他人の空似かと思った。

 人間社会との関わりを絶った彼女が遠く縄張りを離れてこんなところまで来るはずがない。

 だが、現実はそんな彼の考えをあっさりと打ち砕いた。

 真偽を確かめるべく雪那の元へ駆け寄った優斗に、その少女はいきなり抱きついてきたのだ。

「えっと。怒らないで聞いてくれるかな」

 李沙は開いたメニューで半分顔を隠しながら、上目遣いにこちらを見上げてくる。

 先のことを気にしているのか少々バツが悪そうだ。

 金髪に白い和服の女性、雪那は何かを警戒しているのかやや緊張した面持ちで沈黙している。

 優斗が目線で先を促すと、李沙は思い切って顔を上げた。

「その、会いたかったんだ。あのときのお礼もちゃんとしたかったし。迷惑、だったかな……」

 そう一気にしゃべると、再びメニューの向こうへと顔を伏せる。

 照れ隠しのつもりなのだろう。

 その仕草が優斗には何だか初々しく、かわいく思えた。

 ……しかし。

「迷惑とかそんなことはないけど、本当にそれだけのために態々こんな遠くまで来たのか?」

「うん……」

「そうか。ありがとうな」

 そう言ってふっと口元を緩めると、優斗はそっと手を伸ばして李沙の頭を撫でてやった。

 李沙は一瞬身を固くしたものの、特にそれを拒もうとはしない。

 頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めているその様子はまるで主人に甘える猫のようだ。

 それを傍らで見ていた雪那が思わず感嘆の吐息を漏らす。

「さて、せっかくこうしてまた会えたんだ。ティータイムには少し遅いが、再会を祝して軽く何か食っていこう」

「え、でも……」

 優斗の提案に、なぜか李沙は不安そうな顔で雪那を見る。

 雪那も少し難しい顔をしていたが、ふと悪戯を思いついたような笑みを浮かべて優斗を見た。

「わたくしも御一緒させていただいてもよろしいでしょうか」

「もちろん。というか、元よりそのつもりでしたから」

「まあ。あの小さかった男の子が一人前に女性を誘うようになりましたか」

「別にナンパとかじゃないんですけどね。まあ、それだけの時間が経っているということです」

 何やら親しげに笑みを交わす優斗と雪那に、李沙は小さく首を傾げている。

「李沙、この方は昔わたくしがお世話になった御方のご子息なのですよ」

「へぇ、そうなんだ」

「ああ。それで、個人的にも親しくさせてもらってたんだ。しかし……」

 意外そうな李沙にそう答えつつ、優斗は会わなかった間のことを振り返る。

「かれこれ7年ぶりくらいになりますか。最後に会ってから」

「ええ、それくらいですわ。すっかり大きくなられて」

「雪那さんはお変わりないようで。美雪は元気ですか?」

「相変わらず元気に野山を駆け回っております。はぁ、懐かしいですわ」

 そう言ってどこか遠い目をする雪那に、李沙ははぁ、と溜息を漏らす。

「雪那はまたそうやって。草薙もナンパするならもっと若い雌にしときなよ」

「だから、そんなんじゃないって。それに、雪那さんは十分若くて綺麗だぞ」

「まあ、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですわ」

 そう言って雪那は右手をほんのり朱に染めた頬へと当てる。

「それに、俺にはもう誓った人がいるからな。他の女にうつつを抜かしたりしたら殺される」

 優斗は笑ってそう言ってみせるが、内心ではあまり笑えないなと思う。

 彼の恋人はあれで中々独占欲が強いのである。

 今もこうして二人の女性とお茶していると知ったら夕飯の支度を放り出して飛んでくるかも知れない。

 そんなことを考えると、自然と優斗の笑みは渇いたものになってくる。

「へえ、その若さでもうパートナーがいるんだ。これはあたしもうかうかしてられないな」

「李沙の場合、やっぱり相手は狐とか狸とかになるのか?」

「縄張りの中で探そうとするとそうなるかな。いい雄がいればそれでもいいんだけどね」

 冗談のつもりで言ってみたら、意外と真面目に返されてしまった。

 長く人間の社会を離れていると、そういうことも容認出来るようになるのだろう。

 優斗自身、母親がそうだったからさほど驚きもしないが。

 そうこうしているうちに幾つかの品がテーブルへと運ばれてきた。

 そこには最初に注文したコーヒーの他にも幾つか見慣れない物が載っていて……。

「お待たせいたしました。こちら、ジャンボミックスパフェ・デラックスになります」

 そう言ってウェイトレスが持ってきたのはドーン、という擬音が聞こえそうなボリュームの特大パフェだった。

「こ、こんなもの、いつ頼んだんだ?」

「えっとね。二人が何か話し込んでる間かな」

「一人で食える量じゃないだろ、これは……」

「何事も挑戦してみるもんだよ。というわけで、お会計よろしくね」

 唖然とする優斗に、李沙は笑顔でとんでもないことをのたまった。

 彼は慌てて雪那のほうを見るが、さすがの彼女も引き攣った笑みを浮かべて固まっている。

 その目は冷淡にこう語っていた。

 女性をエスコートするのは男性の務め。それくらいの甲斐性はあなたにもあるのでしょう?

 それで優斗は確信した。この人は半ば確信犯でやっているのだということを。

 ……はぁ、何か前にもこんなことがあったような気がする。

 巫女服姿のクラスメイトを思い浮かべつつ、優斗はそっと溜息を漏らすのだった。




 ―――あとがき。

龍一「今回はちょっと筆が遅いです」

優奈「大丈夫ですか?何か体調がよろしくないみたいですけど」

龍一「そうなんだよな〜。何だか、体がだるいし、頭も少し痛い」

優奈「まあ、それは大変。ここはわたしが看病してさしあげますね」

龍一「おう、済まないね」

優奈「わたしもメイドとしてのスキルアップに役立ちますし、これくらいはお安い御用ですよ」

龍一「やっぱ、こういうときメイドスキルのある娘がいてくれると助かるよ」

優奈「はい。まずは体温を測って」

……ピピピッ。

優奈「…………そんな、測定不能だなんて」

龍一「マジ!?

優奈「これはもう病院に行くしかありませんね」

龍一「ま、待て。それは体温計が壊れてるだけなんじゃ……」

優奈「いいえ、メイドとしてのわたしの目に狂いはありません。そうだわ。ここは一つ、またフィリス先生に来ていただいて」

龍一「いや、だから大丈夫だって」

ピンポーン!

フィリス「こんにちは〜!」

龍一「わわっ、な、何故にもう来てるんだ!?

優奈「うふふ、それはですね」

龍一「い、いや、言わなくていい。と、とにかく、俺は消える。消えるからな」

優奈「あらあら。逃げても無駄なのに。それでは、わたしはあの人を捕まえにいってきますので今回はこのあたりで失礼しますね。また次回でお会いしましょう」

 

 




……色々な意味で、お大事に。
俺にはもう、そういう事しか出来ないよ…(泣)
美姫 「フィリス先生の診察に何か問題でもあるのかしら?」
さて、優斗と再会した李沙。
美姫 「物凄い話の逸らし方ね。強引も強引、力技過ぎるわ」
ふふ、その強引なのが良いんだろう。
ほら、素直に言いな。
美姫 「いや、やめて、近寄らないで、この化け物!」
…いや、そこは獣とかだろう。
美姫 「あ、ごめん、つい」
……ついって何だ、ついって!
美姫 「あ、ごめん、口が滑って」
滑って、って事は、そう思ってるって事か!?
美姫 「もう、どう言えばいいのよ!」
ぎゃ、逆ぎれですか…。
美姫 「さて、再会した二人」
うわー、お前も俺と変わらない力技だし。どっちの方が乱暴なんだか…。
美姫 「ふふふ。乱暴にされる方が良いんでしょう。分かってるから、全て私に任せていなさい」
や、やめてくれ〜! く、来るな〜、この馬鹿者。
美姫 「誰が馬鹿よ、誰が! 馬鹿はアンタでしょうが!」
す、すまん、ついというか、何と言うか…。
美姫 「馬鹿に馬鹿呼ばわりされるなんて……」
わ、悪かったよ。……って、謝る必要はあるんだろうか?
お前、今、俺の事馬鹿と言っただろう。
美姫 「……えっ!」
何故、そこで驚く。
美姫 「いや、自覚してなかったのかな〜って」
それは、つまり、俺が馬鹿って事ですね(泣)
美姫 「さて、馬鹿な事ばかりやってないで」
しかも、綺麗に流しますか…。
美姫 「再会した二人。これからどんな展開になるかしら♪」
うぅぅ、いいもん、いいもん。
美姫 「私としては、優奈ちゃんが勘違いして、焼きもち焼いて、暴走。って言うのが見たいかな〜」
こらこらこら。人様のお宅に波風立てるような事言わない。
美姫 「は〜い。って、もう立ち直ったの!?」
ははは。当たり前だ!
美姫 「まあ、良いけれどね。それじゃあ、次回も楽しみに待ってますね」
体にはくれぐれもお気をつけを。
美姫 「じゃ〜ね〜」



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