第33話 地下迷宮を制覇せよ!(中編)

  〜その名はライダー〜

   *

 縦横無尽に振るわれる鋼鉄の鍵爪を少女の剣が受け止め、払い、受け流す。

 動きを制限するように飛んで来る無数のナイフは空いた手で衝撃波を放って打ち落とす。

 一見互角に見える三人の攻防だが、実際には少女のほうが幾分か有利だった。

 時折掠る一文字の鍵爪は少女の肌を浅く切り裂くものの、致命傷には程遠い。

 対する少女の剣は一度でも当たれば命に関わるような急所ばかりを突いてくる。

 一文字は高速で攻撃し続けることで、ぎりぎりこれを避けている状態だ。

 更に悪いことに、少女のほうは掠り傷程度なら数分と経たずに再生してしまう。

 本郷のナイフはそれなりに有効なのだが、向こうも分かっているようで寧ろこちらを中心に迎撃してくる。

「格好つけて残った割には大したことないね。そんなんじゃあたしには勝てないよ」

 振るわれる鍵爪を剣で弾きながら少女が笑う。

「くっ、調子に乗らないで!」

 返す刃で首を狙ってくる少女の剣を鉄鋼に覆われた手の甲で跳ね上げ、左の拳を放つ一文字。

 少女はそれを左の掌で受け止めると、軌道を逸らされた刃をそのまま振り下ろそうとする。

 そこに本郷の投げたナイフが立て続けに3本飛来し、少女にそちらへの対処を強要する。

 少女は身を捻ってそれをかわし、その隙に一文字は一度本郷の隣まで後退した。

「ったく、でたらめよ」

「けど、カッコつけた手前、むざむざやられるわけにもいかないだろ」

「まあね」

 言って少女のほうを見る一文字。

「憎たらしいほど余裕じゃない。あんなの本当に倒せるの?」

「誰も犠牲になるつもりで残ったわけじゃない。おまえだって、そうなんだろ」

「もちろん」

「んじゃ、一つやりますか」

 そう言うと本郷は今まで構えていたナイフを無造作に床に投げ捨てた。

 同じように一文字も右手の鍵爪を外す。

   *

 ――地上・綾香市郊外 第1防衛ライン

 遠くで爆煙が上がったのを見て、刀夜は勢いよく腕を振り下ろした。

「対魔消滅結界砲《ライテウス》。第一射、撃て!!

 刀夜の命令で12の砲から圧縮された霊力場が撃ち出される。

 地雷原に接触して進軍が止まったところへの一斉射撃に、少なくない数の邪妖が吹き飛んだ。

「続いて第2射用意。充填完了次第、各自の判断で発射せよ」

「敵、進軍を再会しました。地雷原を抜けます!」

「思ったより早いな。ライテウスの充填はまだか」

「1番から4番、7番、8番、それに12番撃てます。残りは後5分は掛かるかと」

「よし、4、7、8は直ちに発射、残りは15秒後だ」

 再び刀夜の命令で今度は7つの砲が火を噴いた。

 最初の3発で足を止めさせ、続く4発が先の攻撃を抜けてきた敵の大半を消滅させる。

 刀夜は圧倒的な数の敵に対して大軍を揃えられない代わりに最新鋭の装備をすべて出させた。

 しかし、これとて万能ではない。

 地雷という待ち伏せ兵器はその特性上、作動しても必殺とはならない場合が多い。

 中には核地雷などという規格外の兵器もあるにはあるが、都市近郊でそんなものは使えない。

 逆にライテウスには対空砲並みの威力があるが、こちらも使い勝手はあまり良くない。

 圧縮霊気弾を生成するには莫大な霊力と高度な結界技術を必要とするからだ。

 術式を簡略化し、上質の触媒を用いて増幅しても人間の容量には限度があった。

 霊力を消耗した結界師を休ませ、代わりに歩兵部隊を前に出す。

 霊力を付与した刀や銃で武装した彼らは一人一人が一騎当千の強者である。

 だが、清浄な気界の力が弱まっている現在、敵も簡単には倒れない。

 あちらもすぐに第二陣を投入し、両軍は激しくぶつかった。

   *

「昔の特撮ヒーローにこんなのがあった」

 突然武器を捨てたことにきょとんとしている少女に向かって本郷が言った。

「悪の秘密結社と戦う改造人間の話だ」

「わたし、知ってるわ。その改造人間は一跳びで何メートルも跳び上がる跳躍力を持っている」

「その強靭な体躯から繰り出される打撃は一撃で悪の怪人に致命傷を与えることが出来る」

「何を言ってるの?」

 代わる代わる言葉を紡ぐ二人に少女の顔に戸惑いの色が浮かぶ。

「けれど、正義の改造人間は普段はその正体を隠して普通の人として生活しているわ」

「そして、彼らは戦いの姿になるとき、こう叫ぶんだ」

 いつの間にか歩みを進めていた二人が同時に少女の目の前で立ち止まる。

「「ライダー…………、返信!!!!」」

 叫び、二人の姿がそれへと変わる。

 現れたのは昭和の時代、人々の心を掴んで放さなかったヒーローそのものだった。

「そんな姿になって、正義の味方にでもなったつもり?」

 呆気に取られながらも少女は目の前の二人に嘲笑を向ける。

「そんな高尚なもんじゃないさ。なぁ、2号」

「ええ。ただ、わたしたちは護りたいだけ。これはそのために望んで、得た力よ」

 本郷……いや、1号の言葉に2号となった一文字が頷いてそう言った。

「ふ、ふざけないでよ。そんなコスプレが力だなんて」

 叫んで剣を振り下ろす少女。だが、その刃は1号に素手で受け止められた。

「おまえが悪だなんて言うつもりはないし、俺たちが正義だなんて偉ぶるつもりもない」

 そう言って握った手に力を込める1号。

「けれど、あなたがわたしたちの大切な人たちを脅かすなら、わたしたちはあなたを倒します」

 1号の手で握った剣が砕け、苦し紛れに放った拳は2号に受け止められた。

「まだだよ。まだ終わらない」

 叫びと共に少女は衝撃波を巻き起こす。それを至近で食らい、揃って吹っ飛ぶ1号と2号。

 少女は折られた剣を杖代わりにして立ち上がると、己が身に架した封印を解いた。

 その瞬間、少女の背中から瘴気が溢れ、彼女の頭上に集束し出す。

 やがてそれは一振りの巨大な鎌と化して少女の手に収まった。

「エオリアの牙を研いで作った死神の鎌だよ。これであなたたちを地獄へ送ってあげる」

 言って鎌の柄を握る少女の顔から表情が消える。

 彼女にとって、それは正真正銘の最後の切り札だった。

 衝撃波のダメージから立ち直った二人は巨大な鎌を前に、それぞれ構えを取る。

 何となくだが、あれを破壊すれば少女は死ぬような気がした。

 確認するように2号が1号のほうを見ると、思った通り彼は小さく首を横に振った。

 それなりの付き合いで分かっていたはずだが、どうしても2号は溜息を漏らしてしまう。

 ――動き出したのは同時。

 少女が巨大な刃を横に倒し、両手で柄を持つと体ごとぐるりと一回転する。

 刃が円を描きながら床を砕き、無数の破片をこちらへと飛ばしてくる。

 二人はそれを避けるように高く跳ぶと、2号が鎌の柄に、1号が少女の体へと蹴りを放った。

「「ライダァァァァァァ…………キィィィィィィィィック!!」」

   *

 二人の蹴りが決まり、少女の手から鎌が落ちる。

 だが、折れてはいない。

 少女は床へと倒れ、1号と2号は元の姿へと戻っていた。

「……はぁ……、はぁ……、や、やったのか……」

「た、たぶん……」

 荒い息を吐きながら尋ねる本郷に、膝に手を当てながら一文字がそう答える。

 二人の見ている前で鎌は瘴気に戻り、少女の姿と共に次第に薄れて消えていった。

 それを見届け、二人はその場にぺたんと尻餅をついた。

「しかし、もうエネルギー切れかよ。これじゃ、本当に切り札としてしか使えないぜ」

「仕方ないでしょ。試作品を無理やり動かしたんだから。ちなみに今の稼働時間3分ね」

「ウルトラマンかよ」

「寧ろよく持ったほうよ。下手したら機動した瞬間に自爆ってこともあり得たわけだし」

「おいおい、洒落になってないぞ」

 などと、口だけは結構元気な様子の二人であった。

 そこへ誰かが近づいて声を掛ける。

 驚いて二人が顔を上げると、そこには髪の長い少女が息を切らせながら立っていた。

   *

「――破邪真空流・衝絶――しょうぜつ――!」

 襲い来るモンスターの群れへと、優斗が貫通力の高い長射程の衝撃波を放った。

 そうして切り開いた道を駆け抜けながら、左右から来る敵には蓉子とファミリアが対応する。

「炎殺拳・昇竜波!」

「駆けよ疾風、ウインドスラッシュ!」

 風が、狐火が、迫るモンスターを切り裂き、燃やし尽くす。

「打ち砕け、ブラストハウル!」

 そして、再び行く手を塞がんと立ちはだかるものには、ディアーナの衝撃波が制裁を与える。

 4人が駆け抜けた後にはただ累々とモンスターの屍が転がるのみ。

 それもやがて黒い霧となって消える。

 所詮は雑念の集合体である。彼らにそんなものに掛ける情けは、ない。

 だが、順調に行き過ぎていた。

 誰かがそのことに気づいたなら、少しは戦い方を変えて温存していたかも知れない。

 やがて、一同に疲れが見え始めた頃、見計らったかのようにそれは姿を現した。

「あれ、意外に早かったね」

 不思議そうな少女の声があたりに響く。

「しくじったんじゃないの。やっぱり牙が片方だけってのはまずかったってことだよ」

 答える声もやはり同質の少女のものだ。

 講堂のような広い空間だった。壁に沿って螺旋階段が下へと続いている。

 その階段の奥、ぽっかりと開いた暗闇から声は響いてくる。

「それじゃ、今度はあたしたちが相手してあげよっか」

「まあ、ちょうど暇だったしね」

 そう言って姿を現した声の主に、優斗たちは思わず言葉を失った。

 小柄な身体に、長く伸びた紫色の髪。同じく紫色の瞳は猫を思わせる獣のそれである。

 妖精のエルフ族のように長く尖った耳は彼女たちが人間ではないことを物語っている。

 片方の両手には鋭い爪が生えているものの、他は全く瓜二つの姿をした二人の少女。

 二人のエオリアがそこにいた。

   *



  あとがき

龍一「やっちまった!」

美里「仮○ライダー」

龍一「いや、どっちかというと改造人間じゃなくてパワードスーツなんだけど」

美里「ドッ○イダー?」

龍一「そうそう、あんな感じ」

美里「っていうか、ここまで来てそういうギャグやるのもどうかと思うけど」

龍一「あはは。シリアスばっかだとこう、突発的にだな」

美里「そんなことしてる暇があるんなら、あたしやお姉ちゃんたちの出番を増やしてよ」

龍一「それはとりあえず、次回を待て」

美里「次回は後編だね。でも、中編でここまでって、本当に後1回で最深部まで行けるの?」

龍一「さぁ」

美里「海に沈めても良い?」

龍一「あ、あははは。い、いやだな。じょうだんにきまってるじゃないか」

美里「台詞が全部平仮名で棒読みだね。まあ、4月の瀬戸内海は冷たいだろうから気をつけて」

龍一「ちょっと、まっ……」

美里「レッツ、ダイブ〜!」

龍一「いやじゃぁぁっ〜」

ざば〜〜〜んっ!

美里「さて、次回は第34話で地下迷宮を制覇せよ!(後編)です。

地上と地下で繰り広げられる戦い。その間のあたしたち。

そして、本郷さんたちの前に現れた少女は一体……」

   *

 





おおう! まさか、こう来るとは。
美姫 「流石に、これは予想外よ」
流石です。
美姫 「さて、瀬戸内海のタコと一緒に送られてくる次回を待ちましょうか」
鬼や、あんさん、本当に鬼や。
美姫 「何なら、アンタが捕りに良く?」
がんばれ〜、安藤さん。
美姫 「アンタも結構、外道よね」
あ、あははは〜。



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