エピローグ
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ベルフォードの消滅からおよそ一ヶ月、町は概ね平和を取り戻しつつあった。
優李を殺そうとしていた一派は計画を暴かれ、全員が何らかの処分を受けることとなった。
首謀者の男はすべてを自白した後原因不明の昏睡状態に陥り、今も病院のベッドの上である。
彼女を庇って事件を起こした者たちに関しては当分保護監察処分ということで落ち着いた。
その彼女たちだが、現在は数人ずつに分かれて監察責任者の下で生活している。
再び狙われる危険性を考慮して、優李は雪那がその身柄を預かることになった。
実際には彼女が下宿している草薙家に一緒に住まわせてもらっているのだが。
「あれから、もう一ヶ月も経つのね……」
新聞の日付を見ながら優李はしみじみとそう呟いた。
「ココア、入りましたよ」
お盆に湯気の立ち昇るマグカップを載せて優奈がリビングへと入ってくる。
「いただきます」
一つを受け取って飲む。
まったりとした甘さとココアの香りが口内に広がり、優李は思わず顔を綻ばせた。
「すっかり暖かいものが美味しい季節になりましたね」
「はい。今夜のお夕飯のお鍋も美味しかったです」
「お粗末様でした」
幸せそうな表情をしている優李に笑顔でそう答えて、優奈は対面のソファへと腰を下ろす。
その場の成り行きでエオリアと一緒に草薙家でお世話になることになってから早2週間。
安心して夜を過ごせる生活にも大分慣れてきていた。
ちなみに、そのエオリアは夕食後すぐに美里に拉致され、それっきりである。
二人は以前からの知り合いだったらしく、こちらに来てからもよく一緒に行動している。
今も美里が冬の祭典に出品する本の仕上げを手伝うとかで二人で部屋に篭もっているのだ。
雪那は傷が完治してからは事件の事後処理やら何やらに追われて家にいないことが多い。
その手伝いをしている李沙もまた今夜は戻ってこれないとの電話が先程入ったところだ。
「まったく、せっかく一緒にいられるようにしてもらったのに何をやってるんだか」
「きっと、どう向き合って良いか分からずに戸惑ってるんですよ」
「それにしたって、毎晩はないんじゃない。わたしだって、いろいろ頑張ってるのに」
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。時間はたっぷりあるんですから」
*
「それじゃ、行ってくる」
真新しい衣装を翻して振り返ると、ディアーナは見送りに来た妹にそう言った。
「気をつけて。姉さんの実力なら大丈夫だとは思いますけど」
「言ってくれるな。まあ、確かにそこいらの有象無象にやられる気はまったくないがな」
からかうような調子でそう言うファミリアに、ディアーナは不敵な笑みを浮かべて答える。
「しかし、この巫女服というのはどうにも落ち着かないな」
「あら、わたしはよく似合っていると思うけど」
袖を摘まんで引っ張るディアーナに、同じく見送りに来ていたかおりが感想を述べた。
「巫女さんが嫌ならわたしと一緒に紅美姫のとこでメイドする?」
「いや、遠慮しておくよ。あの女はどうも苦手だ」
一緒に出掛けようとしていたシルフがそう言って誘うが、ディアーナは丁重に断った。
「シルフこそ、メイドなんて妖しい仕事は止めてわたしの助手にならないか。人手が足りないんだ」
「ちょっと姉さん。わたしもお仕事はそのメイドなんですけど」
「あ、いや、別におまえのことを悪く言ったつもりはなくてだな」
刺のある声で妹にそう言われ、慌てて弁解するディアーナ。
「はいはい。分かったからディアーナはさっさと仕事してね」
半ば日常と化しつつあるその光景をかおりはそう言って軽くあしらった。
「シルフも面接、もうそろそろ出ないといけない時間でしょ」
「そうだった!」
ファミリアに言われて腕時計を確認すると、シルフは慌ててバッグを掛け直す。
「帰り、病院寄ってくるから少し遅くなるよ」
「病院って、ベルさんとこ?」
「うん。もうすぐ退院だって先生から聞いたから、その前に一度くらいは顔出しておかないと」
「そう言ってこれでもう何度目かしら。あなたもマメね」
「あいつにはわたしを傷ものにした責任を取ってもらわないといけないからね」
こちらも最早口癖になりつつある誤解されそうな台詞を残して出掛けていくシルフ。
「わたしも行くとするか。とりあえず、氷上神社周辺を見回ってくれば良いんだよな」
「ええ。気界も大分回復しているから大丈夫だとは思うけど」
かおりの言葉に分かったと軽く手を挙げ、ディアーナも出掛けていった。
「どう、お姉さんと一緒の生活は?」
「楽しいですよ。かおりちゃんやシルフさんも一緒ですし」
「そう。良かった」
にっこりと笑顔でそう答えるファミリアに、かおりは安堵の吐息を漏らす。
若い娘ばかり4人での生活はいろいろと大変なこともあるが、概ね軌道に乗ってきたようだ。
*
「雪那、この書類はどこへ持ってけば良いの?」
堆く積まれた紙の山から一つを取り出して聞く李沙に、山の向こうから雪那が答える。
「ああ、それは後で纏めて気象庁の山城さんのところへ送りますから、そのあたりに置いておいてください」
「分かった」
言われた通り、気象庁関係の書類が置かれている箇所へとそれを重ねる李沙。
「書類、全然減らないね」
「半分はあなたのせいですからね」
「あ、あははは……」
「まったく、少し目を離しただけでこの有様とは」
渇いた笑いを漏らす李沙に、雪那は痛む頭を抑えて溜息を吐いた。
李沙に付き添って留守にしていた間の仕事が彼女の帰還を待ちきれずに押し寄せてきたのだ。
それとは別にこちらでの戦闘行為を正当化するための書類も出さなければならない。
こなさなければならない手続きはそれこそ山のようにあった。
「今夜もまた徹夜ですね」
「ええっ!?」
「ええ、じゃありません。李沙がもっと自制してくれていればこの半分で済んだんですからね」
不満を漏らす李沙に、雪那がそう言って書類の山越に厳しい視線を向けてくる。
李沙もその点は反省しているのか、黙って椅子に座ると自分の分の書類にペンを走らせた。
彼女たちにとってのベルフォード事件はまだまだ終わりそうになかった。
―― END ――
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あとがき
龍一「これにて愛憎のファミリア2は完結です」
李沙「長いこと掛けて書いた割には、中身のないお話だよね」
蓉子「本当よね。イベントも大きなのは学園祭くらいしかなかったし」
美里「伏線も消化不良気味だし、もしかしてまだ続くとか」
かおり「あ、それわたしも思ったわ。謎解きとか全然なかったし」
龍一「お、おまえら、言いたい放題だな」
優奈「仕方ありません。作者が未熟なのは本当ですから」
龍一「グサリ」
ファミリア「わたしは番外編でヒロイン張っているので文句は何もありませんけど」
ディアーナ「何故おまえだけ特別扱いなんだ?」
ファミリア「本編ではメイドスキルで優奈さんとキャラが被っているからじゃないでしょうか」
ディアーナ「わたしも出番は終盤のほうだけだったからな。おい、へたれ作者」
龍一「ううっ、どうしてうちの娘たちはこう容赦ないんだろうな」
ディアーナ「そんなことより続編の予定はどうなってるんだ?」
蓉子「そうよ。あたしが活躍する話はいつになるの?」
美里「次は冬の祭典じゃないの?あたしが売り上げ一位を目指して奔走する話」
かおり「何言ってるの。次はわたしの諜報活動の記録を描いたサスペンスドラマに決まってるじゃない」
李沙「あたしの話はもうないの?」
雪那「個人的には平穏なお話が良いですわね。仕事が増えなくて良いので」
龍一「だから、勝手なことばかり言ってんじゃない!」
美里「あ、切れた」
龍一「大体、このシリーズに次の予定なんてものはない」
蓉子「え?」
かおり「嘘」
龍一「た、たぶん。……まあ、とりあえず今は今回の物語の完結を素直に祝おうじゃないか(汗)」
蓉子「それもそうね」
優奈「ここまでお付き合いいただいた皆さん。ありがとうございました」
ファミリア「わたしたち一同、心より感謝いたしております」
龍一「長いことお付き合いいただき、本当にありがとうございました」
一同「ではでは」
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安藤さん、完結おめでとう〜。
美姫 「おめでとうございます〜」
いやいや、ハッピーエンドでよかったよ。
美姫 「一部、ちょっ〜〜と苦労している人もいるようだけどね」
にしても、外伝や最初のから数えると全部で80話を超えているんだよな〜。
美姫 「凄いわね」
うん、本当に凄いな。
美姫 「まったく誰かさ…」
安藤さん、お疲れ様でした。
こんなに面白いお話をどうもです。
美姫 「ちょっと、なに思いっきり話を逸らしているのよ!」
だって、何を言うか分かってるんだもん。
美姫 「いや、可愛くないから。それよりも、分かっているのなら、改心しなさいよね」
あははは〜。
美姫 「また笑って誤魔化すし…」
ほ、ほら、美姫もお礼を。
美姫 「そうね。安藤さん、ありがとうございました〜」
他の作品も頑張ってください。
美姫 「それじゃ〜ね〜」
ではでは。