第21話 対談

 

「ってわけで。話もまとまったことだし、作戦会議といきましょうか」

 蓉子は俄然、やる気だった。

 持ってきた週刊誌をテーブルの上に広げて、早速適当なデートスポットを探しにかかる。

「あの、蓉子さん」

「ん?」

「どうしてそんなに親身になってくださるんですか?」

「迷惑?」

「そんな、とんでもない。嬉しいです、すごく」

「なら、よかった。あ、ここなんかいいんじゃない」

 雑誌の中間あたりを大きく開いて、蓉子は楽しげにページを指で示す。

 そんな彼女の様子に、姉妹は少々困惑気味に顔を見合わせた。

 

 蓉子が草薙家を訪ねた丁度その頃、優斗はかおりと二人でコーヒーを飲んでいた。

 十日ほど前に、彼が彼女から脅迫を受けたあの店である。

 電話を掛けたときかおりは家にいて、優斗が誘うと快く応じてくれた。

「びっくりした。まさか、草薙君の方から電話してくれるなんて思わなかったから」

「大丈夫か。顔色が悪いみたいだけど」

「平気。徹夜明けでちょっと眠いだけ」

 言いながらかおりは小さくあくびを噛み殺した。

「またあの場所に行ってたのか」

「…………」

「隠すことないだろ。かなり不本意だが、これでも一応協力者なんだから」

「その割には一週間も音沙汰なしだったじゃない」

 拗ねたようにぼそっと言ったかおりの言葉に、優斗は微かに苦笑した。

「悪かった。その代わりってわけじゃないけど、ここの支払いは俺が持つよ」

「わたし、朝ご飯まだだから結構頼むわよ」

「女の子に一食ご馳走するくらいは何とかなるさ」

 そう言って優斗はかおりにメニューを差し出した。

「でも、いいの?わたしなんかとお茶してたりして、彼女にバレたら怒られるんじゃない」

「あー、それは、まあ」

 言葉を濁す優斗に、かおりはくすくすと笑った。

「いいよ。内緒にしておいてあげる」

「そうしてもらえると助かる」

「その代わり……」

「デザートも着ける」

「わたし、そんなに食べられないよ」

 かおりはようやく声を上げて笑った。

 そう、これでいい。女の子はやっぱり笑顔でいるのが一番魅力的なのだ。

「あ、すいません」

 側を通りかかったウェイトレスを捕まえて、かおりは早速追加注文している。

「追加でサンドイッチと、ミックスピザと、チョコレートワッフルと、それから……」

 ……そして、数分後。

「かしこまりました」

 ウェイトレスはベテランらしい営業スマイルとびっしりとメニューが記された伝票を残して去っていった。

 優斗は唖然とした表情で残された伝票と目の前の少女を見比べている。

「これ、全部君一人で食べるのか?」

「これくらい普通だと思うけど」

「いや、幾ら何でもこれはちょっと」

「おごってくれるのよね?」

「あ、ああ」

 今更前言撤回するわけにもいかず、優斗は泣く泣く自腹を切ることとなった。

 

「で、何をしてたの?」

「ん?」

「この一週間。まさか、ずっと家出寝てたわけじゃないんでしょ」

「ああ、まあな」

 優斗はさり気なくかおりの皿から奪取したサンドイッチを頬張りながら頷いた。

「これといって変わったことはなかったよ。強いて挙げるとすれば、昨日海に行ったくらいか」

「へえ、海行ったんだ」

「家族でな。前からの約束だったんだ」

 言いながら優斗はまた昨日の出来事を思い出していた。

 優奈が波に浚われて、それを自分が助けた。

 その後、海上に現れた邪妖に向かって蓉子が雷撃を放ち、これを爆砕して。

 そのときは、それで終わりだった。

 しかし、蓉子の元へと駆けつける途中で優斗は確かに聞いたのだ。

 ……これで、三回。いや、未明に出会った少女のときも入れれば四回だ。

 張られたのはすべて同一の結界で、それをしたのが誰なのかも凡その見当はついている。

 しかし、分からないのはなぜそいつがそんなことをするのかだ。

 自分に使えない結界で被害を抑えてくれているのは有難いが、何故か直接手を出してこない。

 無意味に戦わせるようなことをする奴ではないだけに、優斗はその真意が掴めない。

 それとは別に、こちらを狙ってきているような素振りをみせる奴もいる。

 先の二回の襲撃がそれだ。

 寧ろ問題なのはそちらの方で、優斗は対応に頭を悩まされていた。

 かおりはその方面の人間だということだが、実戦経験はほとんどないのだろう。

 最初の襲撃のときに敵の姿を捉えられなかったのがその証拠である。

 それに、今の彼女は二度目のときに追った傷がまだ癒えていないはずだ。

 そんな状況で今また敵の襲撃を受けたら、果たして彼女は生き延びられるだろうか。

「楽しかった?」

「え」

「海、家族で行ったんでしょ」

「ああ、まあ、それなりに」

 質問の意図が分からず、優斗は少々困惑ぎみにそう答えた。

「かおりはどこか出掛けたのか?」

「わたしはずっと家で本を読んでた。出掛けられるような状態でもなかったから」

「そうだったな」

 七日前の夜のことを思い出して、優斗は憂鬱な気分になった。

 ……あのとき、闇の中で対峙した邪気を優斗は躊躇なく切り払った。

 気配は抜刀の軌道上にあって、放たれた斬撃は確かにそれを捉えていたのだ。

 だが、結果は空振り。

 逆に、抜刀に引きずられる形で発生した風の渦にかおりを巻き込んでしまうことになった。

「……済まなかったな。俺がついていながらあんなことになって」

「仕方ないわ。真っ暗だったし、そうじゃなくてもかまいたちなんて避けられるわけないもの」

「そう言ってもらえると助かる」

 そう言って優斗は小さく息を吐いた。

「草薙君はどこも怪我しなかったのよね」

「昔から悪運だけは強いんだ。呆れるくらいしぶとい」

「いいな」

「そうか?」

「わたしはあんまり体が丈夫じゃないから」

「そうなんだ」

「ええ。出掛けられなかったのも寧ろそっちが理由。だから、あんまり気にしないで」

 そう言ってかおりは笑ったが、優斗は却って気になった。

 優奈や美里の事があったからか、そういうことに対しては人一倍敏感になっている気がする。

 いずれにしても、この件に関してこれ以上彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかなかった。

「なぁ、かおり。もう終わりにしないか」

「え?」

「俺たち、もう会わない方がいいと思うんだ」

「ちょ、ちょっと待って!」

 かおりは慌てた。

「何でいきなりそんな別れ話みたいなこと。わたしとあなたはそういう関係じゃないはずよ」

「ちょっと遊んでみただけだ」

「真面目な顔して遊ばないでよ」

「まあ、そう怒るなって」

 軽く謝ってから、優斗は今度こそ本当に真剣な顔になった。

「しかし、真面目な話。そろそろ本当にやめにした方がいいんじゃないか?」

「…………」

「今度は怪我じゃ済まないかもしれない。そこまでして続ける意味があるのか」

「それは……」

 かおりが何か反論しようとしたそのとき、不意に天井近くのガラスに亀裂が走った。

 ……この邪気、まさか!?

 優斗は反射的に立ち上がり、それとほとんど同時に二人の頭上でガラスが砕けた。




 ―――あとがき。

龍一「……ふぅ、えらい目にあった」

美里「大丈夫?」

――心配そうに作者の背中を摩る。

龍一「ごほごほ、……いつも済まないね」

美里「それは言わない約束だよ……って、似たようなのを浩さんのところでもやってなかった?」

龍一「っていうか、そのまんまだな」

美里「ダメだよ。人のネタパクっちゃ」

龍一「ふむ。少し反省」

美里「ってわけで、おしおきだね」

龍一「お、おまえまでそんな」

美里「えいっ!」

龍一「ぎゃぁぁぁぁ……って、あれ?」

美里「このこの」

龍一「な、何か首のあたりに柔らかいものが……」

美里「えへへ、気持ちいいでしょ。あたしの言うこと聞いてくれたらもっといいことしてあげる」

龍一「ま、待て待て。一体何の真似だ?」

美里「あれ、おかしいな。こういうことすると男の人は無条件で降伏するって本に書いてあったのに」

龍一「そ、そりゃ、こんなことされたら何だって言うこときいてしまうのは男の性というか」

美里「じゃあ、あたしの言うことも聞いてくれる?」

龍一「あ、ああ、でも、その前に次回の予告をしないとな(既に理性が飛びかけている)」

美里「えっと、次回はついに邪気の正体が判明するんだよね」

龍一「憎しみの炎をその目に灯した彼女の運命は」

美里「ここだけの特別書き下ろしバトルも入る予定なので、お楽しみに」

龍一「それでは次回、邪気来襲でお会いしましょう」

美里「まったね〜」

 

 




いよいよ、邪気の正体が分かるのか……。
美姫 「次回も益々、目が離せないわよ〜」
うんうん。
美姫 「所で、ああすれば、お願いを聞いてくれるんだ」
はい!?
美姫 「私も、出番が欲しいしな〜」
待て待て。出番って、何だ、出番って。
お前は毎回、後書きに出てるじゃないか。
美姫 「それだけじゃなくて、本編に出たい〜」
いや、だから、お前が出るとパワーバランスが崩れるんだって。
美姫 「えっと、確か、ここをこうして……。ねえぇ、お願い〜」
……く、首の辺りにつ、冷たいモノが。
しかも、ちくちく。
美姫 「ねぇ〜」
って、剣じゃねーか。って、アブねー!
美姫 「ほらほら〜」
お、おま、お前、これは全然、違うぞ。
美里ちゃんのやってる事と、180°違う所か、360°ぐるりと周って、さらに180°行くどころか、既にその円上からいなくなるぐらいに違うぞ!
美姫 「一緒じゃない。こうして、頚動脈付近に剣を突きつけて。
     ほら、これで男の人は無条件で降伏するでしょう」
いや、男女関係ないと思う。誰でも、降伏するんじゃなでしょうか。
美姫 「ほらほら〜」
や、やめろ〜!
美姫 「ほれほれ〜」
い、いや〜。今、プスって、プスって。
た、確かに刺さったよ、ねえ、ねえ。
美姫 「うふふふ、大丈夫よ。ちょ〜〜っと血が出てる程度だから」
ほ、本当に大丈夫なのか!
美姫 「……多分」
な、何だ、多分てのは! しかも、今の間は!
な、何で、目を逸らす!
美姫 「と、そうそう。次回も楽しみにしてますからね〜」
あ、楽しみに待ってます。
って、さっきよりも刺さってる、刺さってる!
美姫 「う〜ん、浩危機一発って言う名前で、こんなゲームが作れそうね」
作るな! って言うか、実際にやられたら、俺が死ぬ!
美姫 「またまた〜。首の一つや二つで」
首は一つしかないは!
美姫 「はいはい。と、パワーアップして二人が戻ると思うので、頑張ってみてね。多分、無理だろうけど」
…………って、人の事を心配している場合じゃないんだよ〜〜!!



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