第25話 優奈の初デート
いつもより少し早めに家事を終わらせると、優奈は身支度を整えに自分の部屋へと戻った。
お気に入りのワンピースに袖を通し、蓉子からもらった淡いリップを薄く引く。
おしゃれなんてあまりしたことがないから、これでいいのかどうかわからないけれど……。
少しの不安と期待を胸に、彼女は先に待たせていた優斗の元へと向かう。
「お待たせしました」
玄関先にそっと現れた優奈の姿に、優斗は思わず感嘆の息を漏らした。
「あの、どうでしょうか」
「ああ、よく似合ってるよ」
お世辞ではなく、本心から優斗はそう思った。
「それじゃあ、行こうか」
優斗はそっと彼女の手を取った。
柔らかな手の感触に、少しどきどきする。
優奈は一瞬きょとんとして、それからとびきりの笑顔で頷いた。
「……はい」
昨夜、ボードゲームに疲れた美里が眠るのを待って、優奈はその話を切り出した。
……あの、こんなものがあるんですけど。
そう言って差し出した映画のチケットはもちろんペアで、有効期限が明日までになっていた。
これは策だよ。あいつはこういうの無駄にしたがらないから、見せれば絶対乗ってくるはず。
確信に満ちた蓉子の言葉通り、優斗はあっさりその誘いに乗ってくれた。
――そして、今二人は手をつないで映画館への道を歩いている。
八月も中旬に差し掛かったある日曜の昼下がりのことだった。
空は昨夜の嵐が嘘だったかのように、遠くどこまでも晴れ渡っている。
―――――――
「ねえ、やっぱ止めようよ。よくないよ、こういうのって」
物陰に隠れて様子を見ている蓉子の服を美里が後ろから引っ張った。
「何言ってんの。事の成り行きを見守るのは発案者の義務ってもんだよ」
「そんなこと言って、本当は単に楽しんでるだけじゃないの?」
「まあね」
「そんな、簡単に認めないでよ」
「いいじゃない別に。美里だって、あの二人がどうなるか気になってるんでしょ?」
「それは、そうだけど……」
口ごもる美里。
「大丈夫だって。そのうちこっちに気づく余裕なんてなくなるから」
「どうなってもあたしは知らないからね」
軽い調子で笑う蓉子に、美里はかなりなげやりな気分でそう言った。
―――――――
映画を見て、レストランで食事をして、それから二人で少し街を歩いた。
二人だけの時間は何だかとても穏やかで、少し不思議な感じがする。
楽しかった。
食料や日用品の買出しには何度か二人で行ったけれど、こんなに心が弾むことはなかった。
「映画、おもしろかったな」
「そうですね」
「レストランの料理もなかなか美味かった。あ、でも、一番はやっぱり君の作ったものかな」
「ありがとうございます」
優奈は少し照れたように微笑んだ。
「それで、これからどうする?」
「よかったら、もう少しだけ付き合ってもらえませんか。行きたいところがあるんです」
「いいけど、どこへ?」
「……大切な場所です」
そう言って歩き出した優奈の手はしっかりと優斗の手を握っていた。
……決して離れず、いつの日も傍らにあり続けていられるように。
願い、叶えるために……。
―――あとがき。
龍一「長くなりそうなのでここで一度切ります」
かおり「草薙君と優奈ちゃん。二人がどうなるか続きが気になるという方は続けてどうぞ」
龍一「しかし、何気に最後までいられないあとがきが続いているよな〜」
かおり「それは自業自得というものよ」
龍一「しくしく」
気になるぅぅぅ。
美姫 「本当よね。急いで続きを読まないと」
果たして、かおりはメイド服を着たのか!?
美姫 「いや、そっちなの!?」
あ、あはは。じょ、冗談だよ。
そ、それよりも早く、続きを読もう〜。
美姫 「こら、待ちなさいよね」