『壊れかけの剣士たち』
〜第12話〜
これは『An unexpected excuse 〜沖田総詩編〜』に繋がるお話です。
原作がお好きな方はおススメいたしません。
それでもよろしければどうぞ
前回のお話
不穏な動きを見せているらしい討学派。
それでもいつものゴタゴタは納まることは無くて……。
果てさてどうなる事やら……。
いつものように学園の見廻りをする恭也とゲンちゃんと谷さん。
そして毎度のようにサボる為に屋上へ足を運ぶ恭也であった。
するとやはり先客の姿があるのであった。
「やっぱり今日もいたな」
そう言うとベンチで日向ぼっこしている総詩に声をかける恭也であった。
「おや、恭也先輩じゃあないですかぁ。先輩ここでサボろうっていうんですね、この悪党〜」
「ほう、という事は総詩も悪党だな。な、ゲンちゃん」
「ニャー(うん)」
総詩の冗談に冗談で返す恭也とゲンちゃん。
そのやり取りにお互い笑顔を浮かべるのであった。
「まあ俺も真剣に仕事をしたくはないからな」
「ですよねぇ」
「とりあえず四人でのんびり……」
言い切る前に屋上のドアが勢いよく開かれた。
「貴様ら!毎度毎度こんなところでサボりおって!!」
オニの形相とでもいうのか、オニの土方が叫ぶのであった。
「けほっ、けほっ、ボク病弱なんであまり運動できないんですよね……」
「俺も最近精神病が……盆栽たちの事を思うと夜も眠れず」
恭也の趣味が盆栽というのは以前の会議で新選組の知るところになったのだ。
それにしてもすごい理由の言い訳だ。
「ニャーン(かわいそうな二人)」
「クルックー(ゆっくり休む必要があると思うぜ)」
恭也と総詩の冗談にゲンちゃんと谷さんも便乗する。
何だか恭也に毒されてるな〜。
「ええいくだらん事言ってないで、見廻りして来ーーいッ!!」
土方が叫び、恭也たちは屋上から追い出されるのであった。
「なんだかんだで商店街まで来てしまったな」
「そうですねぇ。ではこんなに暑いんでそろそろ帰りましょうかぁ」
その案に苦悶の表情を浮かべる恭也であった。
「確かに俺も帰りたい。だがこのまま帰って大丈夫だろうか」
「恭也先輩、適材適所ってあるじゃないですかぁ。近藤さんがほんわか仕事してぇ、土方さんが馬車馬の
よーに働いて、そしてボクがみんなの分まで休む、と」
「なるほど、それでバランスが保たれてるわけだな」
「はい〜」
「だがどうするか……。このまま帰ればまちがいなく土方さんがキれるだろう」
「あの人、女性と刀と仕事大好きぃな人ですからねぇ。それ以外に対してはキれるでしょうねぇ」
「端から聞くとやばい人だよなw」
「ですねぇw」
「ニャーンw(だよね)」
「クルックーw(だな)」
そう言うとケラケラ笑う四人組。
すると学園の放送が流れるのであった。
「貴様らーーッ!!好き勝手な事を言っているんじゃなーーいっ!!それとしっかり見張ってるから
仕事しろ!サボればタダでは済まさんぞーーッ!!!!」
どういう耳をしているんだ、オニの副長は……。
「……どうする、見廻りするか?」
「仕方ないですねぇ」
「まあ唯一の救いは天気がいい事か」
「んー、きっとこの天気崩れると思いますよぉ?」
「なぜだ?天気予報でも見たのか?」
「考えて見てくださいよぉ。ボクが真面目に仕事なんてしたら、きっとお天道様もビックリして
引っ込んじゃうじゃないですかぁ」
そんな事をのんびり言う総詩。
だがその言葉にお天道様は正直なようであった。
"ゴロゴロゴロ……"
「ほぉ」
恭也が感心した。
太陽はしっかり引っ込み、空に暗雲が……。
"ドザーーーーッ!!"
突然の夕立に周囲の人たちは雨宿りする為に店などに避難している。
恭也は不思議なことに驚きもしていなかった。
「俺の周りには不思議な事がたくさんあったが、これもきっとその一部なのだな」
自分の境遇を再確認する恭也であった。
「ほらぁ、やっぱりこうなったじゃないですかぁ。全く土方さんは分かってないですねぇ。
ボクは働いちゃいけないニート系アイドルなんですからぁ」
「とりあえず学園に戻ろう。このままでは身体が冷える」
「そうですねぇ」
「ニャーン(うん)」
「クルックー(了解だぜ)」
そう言って学園まで駆け足で戻る四人であった。
「ふー、濡れてしまったな。みんな大丈夫か?」
「はいぃ、もうびしょ濡れですよぉ。まあ、おかげで少し涼しくなりましたけどぉ」
「とりあえずタオルでも借りてこよう。このままでは俺はともかくみんなが風邪を引いてしまう」
そう言うとタオルを借りる為に駆け出す恭也であった。
それからすぐタオルを持った恭也が戻ってくるのであった。
「待たせた、すぐにこれで拭いてくれ」
そう言って総詩にタオルを渡す。
ゲンちゃんと谷さんには恭也が拭いていくのであった。
拭き終わると二人は駆け足で学園内に駆けて行くのであった。
「それにしてもやっぱりボクが真面目に仕事したら良くない事が起こりましたねぇ」
「俺も本当に雨が降るとは思わなかった。やはり世界は広いな」
「あははは」
丁寧に拭いていく総詩の姿に見とれる恭也であった。
「(水に濡れる女性は色っぽいと聞くが、確かにそうだな)」
珍しくそんな事を考える恭也であった。
「う〜んここまで濡れちゃったらあとでシャワー浴びないといけませんねぇ」
「その方がいいだろう」
「恭也先輩、一緒に入りますかぁw」
「ば、ばかもの!」
「あははは」
本当に楽しそうに笑顔で言う総詩。
その笑顔に恭也も笑顔を浮かべる。
だがすぐに恭也はある事に気づいて顔を背けるのであった。
「?どうかしましたか?」
「あ……いや……その///」
恭也が顔を赤くして総詩に指を指すのであった。
その意図を理解して総詩も顔を赤くするのであった。
まあイメージできるだろう。
制服は雨に基本的に弱い。
となれば
「恭也先輩…見ちゃいました?……///」
「……すまん、わざとではなかったんだが///」
「そうですかぁ。まあ仕方ないですねぇ」
「本当にすまん。恥ずかしい思いをさせて……」
そう言って頭を下げる恭也。
どんな罰でも受けるという意思を総詩に向けるのであった。
「え〜といいですよぉ。確かにちょっと恥ずかしかったですけどぉ……。それにボク、その辺の意識が
他の人とちょっとズれてるんですよねぇ」
総詩はちょっと照れくさそうに話し出すのであった。
「ボク、感情の起伏が若干オカシイんですよぉ。喜怒哀楽の"喜"と"楽"は得意分野なんですけど、
"怒"と"哀"は掴みづらいといいますかぁ」
「そうだったのか……」
「はいぃ。怒ったり哀しんだりっていうのが苦手なんですよぉ。そのぶん一度表に出ると加減が出来なくなる
と言いますかぁ。以前見せましたよねぇ?」
「ああ……あの時か」
以前、道場でイサミと土方の着替えを盗もうとしてた佐都間の生徒に対し、恐ろしい形相で総詩は
斬りかかっていった事があった。
それはいつもの総詩を知っているなら、考えられない表情であった。
「昔からというか、生まれつきこうだったんで気にしてないんですけどぉ。だからこういう時
どういった反応をすればいいのかちょっと悩むんですよねぇ」
「まあ普通はビンタの一つでも与えるものかな?」
なるほど〜と感心する総詩であった。
「まあ、ボクが学内最強って言われる剣士でいられるのも、これが理由ですけどねぇ」
「なるほど……つまり特定の感情が抱きにくい為、恐怖感も薄いというわけか。だからこそ、他の
人間が踏めこめない領域に総詩は踏み込め、自分のギリギリの間合いに引き付ける事が出来る。
だから皆総詩に勝つ事が出来ないというわけか」
「はいぃ。でも恭也先輩にはやっぱり勝てないでしょうねぇ」
「確かに今の事を聞けばある程度対策は……」
「いえ、この話をしなくてもきっと恭也先輩には勝てないですよぉ」
「…………」
新選組最強剣士、沖田総詩の強さの秘密。
それは先天的な感情の欠落。
それは恭也もよく分る事だ。
実際護衛の仕事中相手を斬る必要があった時、余計な感情は剣を鈍らせる。
その為恭也は感情を押さえ込む事も辞さないのだ。
「(……ある意味、生まれつき備わった天性の才能だな)」
「やだなぁ恭也先輩、そんなシリアスな顔しないでくださいよぉ」
総詩はからかうように言うのであった。
「ボクはこんな自分に不満は持ってないですからぁ。むしろそのお陰で最強の剣士になれましたから、
感謝してるくらいです。ボクは剣術しかやってきませんでしたからねぇ。その剣で近藤さんや土方さんの
力になれる、こんな嬉しいことはないですからぁ」
「……そうか」
「あ、これ土方さんにはナイショですよぉ?あの人こんなの聞いたらチョーシ乗りますからぁ」
総詩の新選組に対する強い思いを感じ取る恭也であった。
自分とは違う形で護ると決めている表情に恭也は心を打たれていた。
「偉いな、総詩は」
そう言って総詩の頭を撫でる恭也であった。
そしてもう一度謝罪をする恭也であった。
「実はボクも斉藤さんやゲンちゃんみたいに恭也先輩に頭撫でて貰いたかったんですよぉ。
二人が恭也先輩の事を気に入ったのわかりますねぇ」
「そうか?」
「……はい、それに恭也先輩の何でも包みこんでくれそうな所、ボクは好きだなぁ。こんなボクでも
今までと変わらず接してくれるから。恭也先輩、いくらボクでも見られたくない人にはそれなりに
怒ると思うんですよぉ」
「え?」
「え〜と……こんな時なんて言えばいいのか分からないんですけど、もう一度見たいですか?」
そう言うともう一度顔を逸らす恭也であった。
「ま、まったく……あまり人をからかうものではない///」
「あははぁ、恭也先輩っていつもクールなんですけどからかいたくなるんですよぉ。
……んっ、けほっ、けほっ……」
「いつまでもこんな所にいたら本当に風邪を引く。早く寮に戻って風呂に入れ、総詩」
「はい、先輩。……それと一緒に入るのはまだ……///」
「そんな冗談が言えるなら大丈夫だな」
「はいぃ」
そう言うと恭也と総詩は廊下を一緒に歩き出すのであった。
この時恭也は総詩の事を護りたいと思い始めたのかもしれない……。
そして降り続いていた雨は、いつの間にか止んでいるのであった。
総詩の思いの強さを知った恭也。
そしていよいよ大きな出来事が起こるのか!?
恭也の過酷な日々が更に激しさを増す!!??
<おわり>
総詩の剣の強さの秘密か。
美姫 「まさか、そんなのがあったとわね」
それを話してもらえるぐらい、恭也は信用を得たと言う事なのかな。
美姫 「そうなのかしらね。ちょっとずつだけれど、二人の距離が縮まっている感じ?」
いやー、いいですな〜。
美姫 「確かにね。次回はどうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」