『An unexpected excuse』
〜代官山すみれ編〜
「俺が、好きなのは…………」
いよいよ名前が発表されるといった時であった。
「こんにちはです」
と余りにも場に似つかわしくないのんびりと挨拶する少女がいた。
少女が着ている制服はあの魔法学と魔法工学のある事で有名なスズノネ学園のもの。
その少女をみた恭也は
「なんだ、すみれか」
とちょっと素っ気ない態度を取るのであった。
少女はその返答にちょっと不貞腐れたようで言い返す。
「なんだとは失礼ですね。私は恭也くんの可愛い可愛い彼女ですよ?」
「自分で可愛いとは言わないほうがいいぞ」
「じゃあ恭也くんが言ってください」
「何しにきたんだ?」
「……なんといういけずな彼氏。七億八千二百三十八万三千三百四十一回くらい可愛いと言ってくれてもいいのに」
「一生のうちにそんなに言えるか?」
「……言われてみると確かにそうですね」
「まあ、可愛いがな」
「……………///」
さり気なく言う恭也に言われた本人は少々混乱気味であった。
そのやり取りを黙って聞いていた面々であったが、美由希が真っ先に質問するのであった。
「恭ちゃん、誰その子!?」
「代官山すみれさんだ」
その美由希の質問を皮切りに色々な質問が飛ぶ。
「恭也先輩!その方とはどこで知り合ったんですか!?」
「スズノネ学園で」
「なんでここにいてはるんですか!?」
「俺もそれは知りたい」
「恭也の彼女ってどういうことよ!!??」
「そのままの意味だが……」
と質問に答える恭也に対し、すみれはというと
「……ふむふむ」
「何をしているんだ、すみれ」
なぜかやけにメモを取っているではないか。
「これですか?スズスポに載せるネタですよ?」
笑顔でそんな事をいうすみれであった。
「待て!また俺のことを載せる気か!?」
「いいじゃないですか〜。これでスズノネで恭也くんを狙う女子どもに恭也くんは私のもの。
私は恭也くんのものと再び知らしめる事が出来るんですから。ふふふ」
「以前も載せただろ……」
不適な笑みを浮かべるすみれにただ呆れる恭也であった。
二人の会話についていけない周囲。
そこで恭也が補足をする。
「スズスポというのはスズノネ学園で発行されているスズノネスポーツという新聞の略称だ。そしてすみれは
そのスズスポを一人でずっと書き続けているんだ」
なぜか疲れたように説明する恭也であった。
そこでふとある事に気づいた那美が口を開く。
「恭也先輩?さっきすみれさんが言ってた再び知らしめるって?」
「付き合い始めたときに……」
もうここまで来ると回答するのも疲弊したらしい。
「見ます?」
とすみれは新聞をふところから取り出した。
「……なぜ持ってるんだ?」
「備えあれば憂いなしですw」
どんな時に必要になるんだ、そんなもの……。
スズスポを高町一家は覗き込む。
「K氏、熱愛発覚!?お相手は魔法科のSさん!」
「最近スズノネに出没するK氏は魔法科一年のSさんと何やらただならぬ関係である事が判明した」
「Sさんは魔法科の中でも、童顔で可愛いと評判でK氏のロリコン疑惑が浮上してきたほどだ」
「独占インタビューに答えてくれたSさんはK氏に対し」
「"K氏は私を一生掛けて愛してくれると約束してくれました"と可憐な頬を赤く染めて語ってくれた」
「「「「「……………」」」」」
「ぐおー、やめてくれー」
恭也はそれを聞き悶え苦しんでいた。
「恭也くんも唸る素晴らしい記事です」
その記事を読んだ比較的スタイルのいい二人は
「恭ちゃん……ロリコンだったんだ」
「だから忍ちゃんのナイスバディにも靡かなかったんだ」
と考えていたらしい。
それに引き換え、スタイルに難ありの三人は
「「「(なんで俺(私)(うち)ではなかったんですか)」」」
と思っていたらしい。
なんとか復活した恭也は
「……というかこんな記事信じる奴いたのか!?」
「スズスポは真実の探求者ですよ?嘘なんか書くわけないじゃないですか。ふふふ……」
どうやら信じられてる云々はともかくスズスポは真実(?)を書いているようだ。
どこからの情報だか……。
「そう全てが素晴らしい記事なのです。ああ、スズスポよ永遠なれ…!!」
「頼むすみれ。これ以上は俺の平穏な生活を無くすような記事は書かないでくれ」
「しかし自分の記事に自信を持てないようでは、ピューリッツァ賞も狙えませんよ?」
「……そんなもの狙わないでくれ」
「でもですね、このままじゃ記事としては弱いんですよ」
「弱い?」
「やはり以前考えたように、あの場面を記事に載せるという方がインパクトがあると思うんです」
そんな事を力強く言うすみれ。
あの場面とはまあ大人の情事という奴である。
以前すみれはそれを恭也に言って却下されているのである。
「だからそれは却下だと言っただろう」
「ぶーーー」
「そんな写真載せたら発行禁止になるぞ」
「恭也くんは何を載せると考えているんですかw」
「だから……その……」
「私は恭也くんが私に言ってくれた言葉を載せようと思ってただけなんですけどw」
「なっ!?」
「ふふふふ、何を考えていたのか手に取るようにわかりますね〜」
不適な笑みを浮かべるすみれ。
「まあ恭也くんが見たいというのでしたら、載せてもいいですよ〜」
目玉記事の為なら己も差し出す素晴らしい自己犠牲心である。
「駄目だ!以前も言ったがすみれの全てを見ていいのは俺だけだ!!」
顔をすみれに向けて言う恭也。
滅多にそんな恥ずかしい事は言わない恭也だが、それだけは絶対させないと考えているのだ。
「……………///」
その言葉に照れてしばらく惚けていたすみれであったが、すぐに恭也に抱きつくのであった。
「あ〜も〜、そういうところにメロメロです///」
そっぽを向きながらもしっかり抱きとめている恭也であった。
先ほどの人ごみが嘘のように恭也とすみれの周りには誰もいなくなっていた。
いつの間にかすみれは恭也の膝を枕にして寝転がっていた。
ふと恭也は思い出した。
「しかしすみれ、どうしてここに?」
「恭也くんに逢いに来たんですよ」
「それだけの為に?」
「それだけとは失礼ですね。……心配……なんですから」
「最近は護衛の仕事もないから、特に怪我することもないと思うが?」
「それも心配ですけど……浮気とか……」
どうやらすみれは普段一緒にいられない不安から、恭也に会いたくなり行動を起こしたようだ。
「浮気?すみれがいるのにそんな事はしないぞ」
「でもですね、さっきいた忍さんでしたっけ?あの人仁乃や美奈都と同じくらいの巨乳じゃないですか。
だから私の胸でガッカリして忍さんにくらくら〜と来ちゃうんではないかと……」
「……確かに大きくはないが」
「人の胸を凝視(服の上から)しながらなんという酷い感想」
ちょっと不貞腐れるすみれであった。
「う〜、いいですよいいですよ〜。どうせ胸はありませんよ。ちょっと自分がいい身体だからって。けっ」
舌打ちしながら言うすみれに、
「俺はすみれだから一生愛していきたいと言ったんだが?」
とすみれの頭を撫でながら、微笑む恭也であった。
その笑顔を見て、すみれは真っ赤になりながら答えるのであった。
「……そんな事言われたら許しちゃうじゃないですか」
「許してくれるか?」
「……はい///」
そう言うすみれをしばらく撫で続ける恭也であった。
しばらくすると恭也は立ち上がり、すみれを立たせた。
「よし!ならば行くぞ」
「どこにですか?」
「翠屋だ」
「恭也くんのお母様が経営してる喫茶店ですか?」
「母さんとなのはだけにはすみれの事を話してあるからな。今度来たら連れて来いと言われている」
「遂にこの時が来ましたね?」
「この時?」
「私をお義母さまに紹介してそのまま結婚、そして子作りに励む気ですねw」
「ば、ばかもの!!」
「さあ早く行きましょう。そして高らかに"すみれは俺の嫁"と宣言してください」
「すみれは俺の嫁だ!」
「……………///」
その場で言うとすみれは固まってしまったが、すぐに復活すると今までで一番可愛い笑顔だったそうだ。
おまけ
「すみれちゃ〜ん、孫は早くお願いね〜」
「大丈夫ですよ〜、お義母さま。恭也くん頑張ってくれてますからすぐに抱けると思います」
「本当!?やったーー!なのは良かったわね、恭也とすみれちゃんの子供抱けるって!!」
「はやや?」
すみれと桃子は人をからかう事が趣味みたいな二人。
すぐに意気投合してしまい、このようなやり取りが後を絶たなくなってしまった。
いつの間にやらすみれは風校に転入してきて、高町家に居候している。
どうやらすみれの祖父(スズノネ学園学園長)が手を回してくれたようだ。
あとでその事を学園長に聞いてみたところ
「すみれの奴、ワシを殺してでも恭也のそばに行くと言って魔法攻撃を永遠にしてきたんじゃ……。
寝てる時や食事の時まで攻撃されてたんじゃ本当に死んでしまうワイ」
優しさではなく自分の身の安全を優先した結果らしい。
「まあお前さんとすみれならきっと可愛い曾孫を産んでくれると思っとるがの。のーふぉっふぉっふぉっふぉ」
学園長はそんな言葉と笑い声を残して消えていった。
すみれにもその時の事を聞いてみると
「お姉さまと一緒にあのお爺様を失脚させ、私がスズノネの学園長になって恭也くんを編入させるのもいいかと思ってましたけど」
ととんでもない事も考えていたらしい。
学園長が許可を出してくれてよかったと心から思う恭也であった。
そんな事を思い返している恭也に、すみれが声を掛けた。
「どうしたんですか?」
「いや、色々あったなと……」
「ふふふ」
するとすみれは笑顔になり抱きついてくるのであった。
「これからも色々な事があるんですから、がんばってくださいねw」
「……まずは結婚だな」
「はい///」
「一生共にいて、護ってやるからな」
そんな恭也の言葉にすみれは顔を赤くしながら言うのであった。
「だ〜い好きです、恭也くん」
<終わり>
いやー、恭也をからかえる人物がまた一人。
美姫 「桃子と組まれた日には恭也も逃げるぐらいしか手がないかもね」
ってな訳で、今回も新しい作品を頂きました。
美姫 「元ネタはスズノネセブンというゲームらしいわね」
未プレイですみません。
美姫 「それでも、楽しんで読む事ができました」
うんうん。投稿ありがとうございます。