前書きなるもの・・・

細かい設定等は皆さん知っているので省きますが、この物語は『祥子さま』達が既に卒業した状態から始まります。
そして、『祐巳』『由乃』『志摩子』は同じクラスになっています。
『瞳子』は祐巳の《スール》になってます。
んで、最後にオリジナルキャラの『佐伯千鶴』ですが、『瞳子』の《スール》です。








マリア様がみてる外伝
 良き日に会えたら・・・

 
                                      作 卯月 東雲


 「ごきげんよう」

 「ごきげんよう」

 朝から少女達の明るい声がこだまする、ここは私立リリアン女学園。
 その中でも、一際目立つ女性達、そして多くの少女達の憧れの存在薔薇さま事、福沢祐巳はそんな多くの少女達の視線に気付かずトコトコと歩いていた。

 「はぁ、今日はどうして祐麒のやつ起こしてくれなかったのよ!!遅刻する所だったじゃない」

 そうなのだ、祐巳は紅薔薇(ロサ・キネンシス)さまになったのだから、遅刻なんかしてお姉さまである小笠原祥子さまに恥をかかせてはいけないと、いつも朝早く自宅を出ていたのだ。
 でもまぁ、祐巳はリリアン女学園に入ってから一度も遅刻などしていないのだからそんな心配は必要無いんですが・・・

 「ごきげんよう」

 何度目かの挨拶が過ぎた時、祐巳のセーラーの袖を引っ張る感覚がして、ようやく物思いにふけっていた祐巳をこっちの世界に引き戻した。

 「あれっ瞳子ちゃん、どうしたの?」

 「お姉さま!!瞳子ちゃん、どうしたの?じゃありません」 

 そんなあっけらかんと答えた祐巳に対し、少しむっとしながらも何とか気持ちを落ち付かせて、指を祐巳の前まで持って行くと右から左に孤を描くように動かすと祐巳もつられて頭を動かした。

 「うわっ!!」

 祐巳は考え事をすると周りの事が見えないたちなのだ、そこの所はいつも祥子さまに注意されていたのだけど治らないのが祐巳の良い所なのだが、今回ばかりは流石に反省しないといけない状況にあった。
 数多くの生徒達が、祐巳達を取り囲む様にして見詰めていたのだ。

 「お姉さま・・・口が開けっ放しですわ」

 「いや、だっていつの間に・・・」

 「それは良いですから、まず挨拶をなさってはいかがですか?」

 「それもそうよね」

 祐巳と瞳子はヒソヒソと話し終えると、背筋を伸ばしニッコリと微笑むと一言。

 「皆さま、ごきげんよう」

 と、挨拶をしたのだ。
 すると、今まで見詰めていた生徒達も呪縛が解けたかのように次々「ごきげんよう、紅薔薇さま」と挨拶を交わしていったのだ。

 「はぁ・・・」

 そんな状況を見ながら瞳子は祐巳が見ていない所で溜息を付くのであった。

 「う〜ん、またやっちゃったね」

 同意を求める様に情け無い表情をしながら話し掛ける祐巳に、それまで袖を握っていた瞳子は。

 「そんな情け無い顔をなさらないで下さい!!いつもの事ですから誰もお姉さまに失望なんてしてませんわ、多分下級生なんかは、「物思いにふけっている紅薔薇さまって素敵」なんて考えてるに違いないんだから」

 「そうかなぁ?」

 「大丈夫です、もしお姉さまの事を悪く言う方がいたら、この瞳子が黙ってませんわ」

 「うわぁ〜、瞳子ちゃん嬉しい事言ってくれるね」

 いきなり抱き着いてきた祐巳に反応できなかった瞳子は、腕の中でその事に気付くと必死にモゾモゾ動きはじめたのだ。

 「ちょ・・・ちょっとお姉さま、お止めになって下さい」

 顔を真っ赤にして上目使いにみる瞳子に、「え〜どうして?」と言いながらも渋々祐巳は腕を離したのだ。

 「あっ、そう言えばち〜ちゃんはどうしたの?」

 「えっ、千鶴は・・・もうすぐ来ますわ」

 腕時計を見詰めてから、校門の方に目をやる瞳子につられる様に顔を向けるとちょうど門を抜けて来た一人の女生徒と目が会ったのだ。
 その女生徒は二人を見付けると、スカートのプリーツを乱さないようゆっくりだがそれでも早歩きで祐巳達に近づいて行った。

 「ごきげんよう、紅薔薇さま、お姉さま」

 ニッコリ微笑みながらも大好きなお姉さま方に会えた事が嬉しいのか、まるで子犬が尻尾を振っている様に見える千鶴に、二人のお姉さまは思わず抱きしめたい症状が出てしまうのであった。

 「ごきげんよう、ち〜ちゃん」

 「ごきげんよう、千鶴」

 先程から「ち〜ちゃん」とか「千鶴」とか呼ばれているこの女生徒は、松平瞳子のプティ・スール佐伯千鶴である。
 瞳子と千鶴はまだスールとなって月日が経っていないのだが、それはそれは仲の良いスールなのです、でも何故七月にもならない季節に瞳子にスールがいるのかは「新聞部部長」の山口真美さんと「写真部部長」の武嶋蔦子さんのいる前で宣言してしまった「瞳子は早くスールを作りますわ!!」発言は、その場に居合わせた真美さんはメモ帳を素早く取り出すと一語一句聞き漏らさぬよう走り書きをしていたし、その横では蔦子さんがカメラを構えて何度もシャッターを切っていたのだ。
 しかし、それだけならまだ「リリアンかわら版」の記事にはそれ程大きく載らないのだが、紅・白・黄の薔薇さまがそろいも揃って「無理ね」「無理よ」「無茶よねぇ」と発言したもんだからさぁ大変、ただでさえ気が強い瞳子は引っ込みが付かなくなりお姉さまである祐巳を一度見詰めると、頬を膨らませそのまま薔薇の館から出て行ってしまったのだ。
 それからと言うもの「リリアンかわら版」には毎週の如く記事が載る始末、困った祐巳は真美さんに記事の差し止めを促がしてはみたものの真美さんの嬉々とした表情を見る度強く出られない祐巳であった。

 「はぁ、なんでこうなっちゃうのかなぁ」

 薔薇の館で、隣に座っている由乃さんに机にうつ伏した状態で溜息を付きながら祐巳はぼやいていると、クッキーの扉を開けながら志摩子さんが「ごきげんよう」と挨拶をしながら入ってきたのだ、勿論志摩子さんの後には彼女のスールである乃梨子ちゃんが続いて「ごきげんよう、紅薔薇さま、黄薔薇さま」と言って入って来た。
 机にうつ伏している祐巳に気付くと。

 「どうしたんですか?祐巳さん」

 「まだ例の件で悩んでるみたいよ」

 祐巳が答える前に、由乃さんが答えた為持ち上げかけた頭をまた元に戻していたのだ。

 「あれは仕方が無かったような気がするんだけどね」

 「売り言葉に買い言葉・・・じゃないにしろ、あの時は皆ビックリして何気に出た言葉だったから祐巳さんが気にする必要は無いんじゃないかしら、それに瞳子ち
ゃんだって冷静になればあの時の言葉だって気にしないと思うけど」

 志摩子さんの暖かい慰めにようやくいつもの祐巳に戻りかけた時。

 「でも・・・あの時、せめて紅薔薇さまだけでもちゃんと話しを聞いてらっしゃれば瞳子さんだってあそこまでムキにならなかったと思いますけど・・・」

 乃梨子ちゃんの一言で祐巳は撃沈したのだ。

 まぁ、色々ありながらも結局瞳子は千鶴と出会えた訳だが、その話しはまた別の機会にでも・・・




ちーちゃんの活躍を期待!
美姫 「それにしても、祐巳ちゃんたら、立派になって…。聖さまみたいな事をするようになるなんて、成長したわね」
祐巳の妹の妹というパターンのSSは初めてです。
卯月東雲さん、次回も楽しみにしてますんで。
美姫 「瞳子と千鶴の出会いがちょっと気になるわ〜」
まあまあ、落ち着け。
ではでは。


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