第二章 ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン
瞳子
1
「お姉さま!!」
いつもの挨拶「ごきげんよう」も無しに、クッキーの扉を開けながら松平瞳子は、ツカツカと小笠原祥子さまのもとに歩み寄った。
「ごきげんよう、瞳子」
祥子さまは少しばかり眉を上げたが、「こほん」っと軽く咳払いをすると、瞳子を諭すように挨拶を促がした。
「うっ・・・ごきげんよう、紅薔薇さま」
最初の「うっ」と言う響きに反応したが、話しを進める為あえて祥子さまは無視をしたのだ。
「それで一体どうしたの、瞳子?」
「そうですわ、祐巳さまを何とかしてくれませんか!!」
「祐巳がどうかしたの?」
突然自分のスールの名前が出たため、それまで優雅に紅茶を飲んでいた祥子さまだったが、思わず手にしていたティーカップを傾けてしまいテーブルにこぼしてしまったのだ。
「おいおい祥子、いくら愛しい祐巳ちゃんの事だからって、慌てなくてもいいだろう」
素早く布巾を手にしていた黄薔薇さま事、支倉令さまは、こぼれた紅茶を綺麗に拭き取っていた。
「あっ、令ちゃん私がやるのに」
黄薔薇のつぼみである島津由乃さまは、布巾を奪い取るのだが、すでにこぼれた紅茶の跡は無く、頬を膨らました由乃さまは「私の仕事取らないでよね」と文句を言いながらも汚れた布巾を洗いに台所に行ってしまった。
そんな黄薔薇姉妹を祥子さまは横目で見ながら「それで、祐巳がどうしたの」と、もう一度瞳子に話しを戻した。
「あっ、だから祐巳さまがしつこく瞳子に迫るんです」
「はぁ?」
思わず息を漏らしたが、祥子さまだけでなく令さまや布巾を絞って出てきた由乃さまも思わず疑惑の表情を浮かべていた。
「祐巳ちゃんが、瞳子ちゃんの事を迫ってるのかい?」
「やるわね、祐巳さん」
何を感心しているのか分からないが、由乃さまは一人頷いていた。
勘違い黄薔薇姉妹を無視して祥子さまは「それで」と瞳子に話し掛けた。
「祐巳さまが、その、瞳子にロザリオを受け取ってって言うんです」
少し困り気味に瞳子は言っていたが、嫌そうな表情はしていなかったのを祥子さまは気付いていた。
「それで瞳子はどうしたいの?」
「えっ・・・瞳子は、その」
答えに逡巡していると、令さまが横から話し掛けてきた。
「瞳子ちゃんは祐巳ちゃんの事嫌いなのかい?」
「そんな事ありません!!」
令さまの質問に思わず即答した瞳子に由乃さまは「即答ね」と言っていた。
「だっだら何故ロザリオ受け取らないの?」
祥子さまは瞳子を見詰めながら話し掛けた。
「それは・・・」
「それは?」
「祐巳さまのスールには相応しくないのでは、と思ったから」
力無く答える瞳子に祥子さまは、あきれた表情を浮かべていた。
「まったくあなた達ときたら」
「誰かさん達と同じ事やってるよな、祥子」
「本当ね、参っちゃうわ」
祥子さまと令さまが含み笑いをしていると、由乃さまがその場で固まっている瞳子に「祐巳さんとあなたが、一年前の祥子さまと祐巳さんと同じような事やってるから、それで笑ってるの」と話してくれた。
「大丈夫だよ、祐巳ちゃんは瞳子ちゃんの事大好きだからね」
と、令さまが答えると「そうね」と祥子さまが頷いていた。
第二章 第一話お届けしました。
この話しは、第一章より過去の話しです。
作り的には、第一章『現在』、第二章『一章から四・五ヶ月前』、
第三章『二章から三・四ヵ月後(つまり春)』、最終章は『現在に戻って夏休みのお話し』の予定です。
浩さん、ごめんなさい!!第二章は『ちーちゃん』出ないっす・・・(汗
なにぶん過去話しなんで・・・三章は『ちーちゃん』活躍の予定・・・予定って(汗
卯月東雲さん、投稿ありがとう!
美姫 「今回の話は、瞳子が祐巳の妹になるまでの話かな?」
多分、そうだと思うよ。そうか、ちーちゃんは出ないか、残念。
でも、今回の話も面白かったですよ。
まさか、あの瞳子の口から、『祐巳さまのスールには相応しくない』なんて言葉が聞けるなんて。
瞳子が可愛くなってますね。
美姫 「次回も楽しみだわ」
うんうん。果たして、祐巳は瞳子にロザリオを無事、渡す事が出来るんだろうか。
次回以降も、益々目が離せません。
美姫 「卯月東雲さん、次回も首を長くして待ってます」
いてててっ。俺の首を引っ張るな。
と、ではでは。