3

 「瞳子ちゃん、何処まで行くのかなぁ?」
 
 「えっ」
 
 「それに私、ニ年だから下足箱違う場所だし」
 
 困ったように話す祐巳さまに、瞳子はキョロキョロと周りを見まわすと、何時の間にか玄関先まで来ていたのにようやく気が付いたのだ。
 
 「それとも今日は、山百合会の方の仕事は無いから一緒に帰りながら話す?」
 
 祐巳さまの提案に少し考えていた瞳子だが、「分りましたわ」と言うと、「それじゃ、マリア様の所で待っていてね」と言いながら、祐巳さまは早足で二年の下足箱に向かって行った。
 
 祐巳さまがいなくなった後も、瞳子はその場所に暫らくの間、佇んでいたのだ。
 
 瞳子は素早く靴に履き替えると、祐巳さまが来る前にマリア像に着くように急いで歩いて行った。
 
 「でも、どうして瞳子なんだろう・・・」
 
 マリアさまを見上げながら囁くと、「大丈夫だよ、祐巳ちゃんは瞳子ちゃんの事大好きだからね」と言っていた黄薔薇さまの言葉を思い出していた。
 
 「祐巳さまだったらもっと良いスールがいると思うのに、例えば、細川可南子さんとか・・・」
 
 最後の方は語尾を強めていたが、確かに祐巳さまと可南子さんは、この頃よく一緒に歩いている所や話している場面をよく目撃していたし、乃梨子さんが瞳子に何故だか報告してきたりしたのだ。
 祐巳さまと可南子さんの楽しそうに話している姿を思い出し、瞳子は少し頭を下げると、二人の姿を消すかのように左右に頭を振っていた。
 
 「大丈夫、大丈夫・・・」と言ってから、大きく息を吸って深呼吸をしようとした途端。
 
 「瞳子ちゃん、どうしたの?」
 
 「くっ!!ゴホンゴホン!!」
 
 突然、祐巳さまが瞳子に抱き付いたせいで、激しく咳き込んでしまったのだ。
 
 「だ、大丈夫?」
 
 「ゆ、祐巳さま・・・いきなり抱き付いて驚かせないで下さい」
 
 いまだに咳き込んでいる瞳子を心配そうに見詰めながら、祐巳さまがそれまで抱き付いていた腕を解くと、何故だか寂しい気持ちになる瞳子であった。
 
 「あっ・・・」
 
 「えっ、どうしたの?」
 
 「いえ、何でもありませんわ」
 
 小声で呟いたと思ったのだが、祐巳さまには聞こえていたらしく恥ずかしくなったが、何事も無かったように答えたのだ。
 
 「それなら良いんだけど・・・それじゃ、帰ろうか」
 
 「はい、祐巳さま」
 
 答えると、祐巳さまの隣に並び、歩き始めた。
 
 すると祐巳さまは、あたり前の様に瞳子の手を握ると楽しそうに歩き始めていた。
 
 瞳子はその事に不満なんて絶対無く、祐巳さまの暖かい手の温度や少し見上げるようにして見れる横顔が嬉しくてしょうがなく、ドキドキしながらも祐巳さまの歩く速度に合わせていたのだ。
 
 銀杏並木を歩いていると、すれ違う何人もの上級生のお姉さまや同級生達が、祐巳さまに「ごきげんよう、ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン」と言う度、祐巳さまが手を繋いでいる瞳子の事を見ては羨ましそうに見詰めていたのだが、当の祐巳さまはまったく気にしてない様子で「ごきげんよう」と答えていたのだ。
 
 実はその度「どうだ、瞳子は紅薔薇のつぼみさまと手を繋いで歩いてるのよ」と心の中で多いに呟く瞳子であった。
 
 「あ、そうそう、瞳子ちゃん」
 
 「はい、何ですか?」
 
 「今日はちょっと遠くに、綺麗な公園が有るからそこに行こうか」
 
 瞳子の了承を得ると、祐巳さまは嬉しそうに微笑み、手をぎゅっと握ると、「こっちこっち」と言って、今にも走り出しそうにしている祐巳さまに、「そんな、慌てなくても公園は逃げませんわ」と言いながら、二人は楽しそうに歩いて行ったのだ。
 
 「ここが、その公園ですの?」
 
 「うん、そうだよ」
 
 いつもはM駅に向かう為、バス停の方に歩くのだが、祐巳さまが向かったのは反対方向であった。
 
 公園は瞳子が思い描いていたよりかなり小さく、それでもちゃんと中央には湖があり、ボートが数隻だけ浮いているのだが、ボートに乗っている人影は無く十にも満たない人々が、ベンチに座っていたり芝生に寝転んで話していたりするだけの「寂しい公園ですわ」と思ってしまう瞳子であった。
 
 「それで祐巳さま、お話しってあの事ですよね」
 
 別に公園じたいに興味が無い瞳子は、話しを進めるべく祐巳さまに話し掛けたのだが、「ボートに乗ろうか」と言って、瞳子を引っ張って行った。
 
 でも、「この時期にボートなんて乗れるのかしら」と思っていると祐巳さまが、「ここ最近暖かい日が続いてるから乗れるのよ」と答えてくれた。
 
 確かに「過ごしやすい気温だなぁ」と思う瞳子であった。
 
 瞳子はおとなしく祐巳さまに引っ張られるままボート乗り場まで来ると、「ちょっと待っててね」と、瞳子を置いて祐巳さまは料金所まで行きさっさとチケットを買うと、「さぁ、乗りましょうか」と言ってボートに向かって行った。
 
 「祐巳さまはよくここに来られるのですか?」
 
 「ん〜、そうね、お姉さまと出会ってから色々あったからね、その度ボートに乗りに来たわ」
 
 祐巳さまは少し寂しそうに瞳子を見詰めると、思い出しながら話し始めた。
 
 「祐巳さま・・・」
 
 そうなのだ、今は二月半ば、もう少しで紅薔薇さま祥子お姉さまは卒業してしまうのだ。
 
 「さぁ、乗りましょう」
 
 祐巳さまはゆっくりボートに乗ると、「気を付けてね」と言って、手を差し出した。
 瞳子は差し出された手を掴むと、ボートに乗りこんだ。
 
 「じゃあ、漕ぐよ」
 
 ボートは意外に揺れずに進み始めた。
 それからの祐巳さま一言もお話しにならず、ボートを湖の中間まで漕いだ。
 
 「祐巳さま、お話しがあるのですよね」
 
 沈黙に耐え切れなくなり瞳子は話し始めた。
 
 「そうね」
 
 祐巳さまはおもむろに制服の中に手を入れると、ロザリオを取り出した。
 ロザリオは夕日の中でも銀色に輝いていた、本当はもう何十年と引き継がれているはずなのに、ここまで綺麗に輝くのはとても大切に大事に扱われている証拠でもあるのだ。
 
 瞳子は思わずロザリオに魅入ってしまっていた。
 何度も何度も祥子お姉さまに見せて頂いていた筈なのに、何故だがロザリオから瞳を離す事が出来ずにいた。
 
 それに夕日を背にした祐巳さまがとても美しく、手にしたロザリオと重なるとまるで。
 
 「マリアさま・・・」
 
 瞳子は呟いていたのだ。










 第二章 第三話 お送りしました♪
 読者さまの中にも多分『二月なのにボート屋ってやってるのか?』とか『氷張ってるだろう!!』と突っ込み(疑問)されると思うのですが・・・出来れば疑問を流して頂けると助かるのですが(汗汗
 どーしても、作者的にこのシチュエーションが外せなかったので・・・
 次は、瞳子がロザリオを受け取るのか!!・・・って言う(受け取らないと話にならないが・・・)展開です。

 とうとう第二部もラストです!!感想バシバシ受け付けてますので、一行でも一言でも良いので感想お願いしま〜す(笑



ぐわぁぁ〜〜。じ、次回が速く読みたいよー。

美姫 「瞳子ちゃんはこのまま受け取ってしまうのか?緊迫の次回、凄く楽しみです!」

いよいよ第二部もラスト。卯月さん、頑張ってください。

美姫 「では、また次回までごきげんよう」







頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ