『An unexpected excuse』

  〜伊吹萃香編〜




「俺が、好きなのは…………」



その場にいた全員が息を止めた。

その場にいる女子は皆眼に炎を宿して恭也を熱い、とても熱い視線を送っていた。

その視線は正に視線で人を殺せたら、と言わんばかりの鋭さだ。

勿論殺気など篭ってないが、篭っているのは殺意より性質が悪いのは確かだが。



「………………本当に聞きたいのか?」



コクコクッ!×いっぱい



首を凄まじい勢いで振る乙女達。

その姿は「命短し 恋せよ 乙女」、と言わんばかりだ。

ここで蛇足だが、命短し恋せよ乙女と言う言葉は、逆の意味なのだ。

恋する乙女の命は短いからこそ、大切に時を過ごしなさい、と言う意味。

また、一説には『恋』には『乞い』の意味も含まれているという。

命短し乞いせよ乙女と言うわけです。

短い命を惜しむなら、乞うてでも生を長引かせ、それでもって恋するなり自由な道を選びなさいという意味なのです。

以上蛇足でした。

さて、話が脱線しましたので元に戻します。

その死線(誤字に非ず)を物ともしない恭也。



「(さて、どうしたものか………………)」



先程問うたが、実は恭也、答える気など全く無いのであった。

それ以前にそんな感情など抱いた覚えすら無い。

だが、この死線を前に今更「居ない」、などと言った日には眼も当てられない光景が出来そうだ。

正直そんなことになるのは勘弁だと考えている恭也。



死線を眼に、一人の男に迫る乙女。

ソレを前に全く別のことを黙考する男。

男に集中する余り時の流れを忘れる乙女。

黙考から熟考に変わり更に時間を経過させる男。



今此処に混沌が小さく広がっていた。











「ゃ〜〜〜〜〜〜」



すると何処からか声が聞こえてきた。

しかし小さすぎて何を言っているか全くわからない。

しかも近くにはその様な気配は全く無かった。



「ぅゃ〜〜〜〜〜〜」



声は近づいてきたが全く気配が分からない。

思わず恭也は辺りを見回す。

が、何処にもソレらしき気配は見当たらない。



「恭也〜〜〜〜〜〜〜〜〜」



そして、ソレはやって来た。





――――――恭也の真上から。





さて、此処で問題だ。

恭也の真上から声の発生源が落ちてきたらどうなる?

答え、恭也の上に落ちる。

結果――――――



「ぐぼはうおいうけっが?????!!!!!」



凄まじい勢い×重力×物質量etcetc

――――――その衝撃をまともに受けた恭也は堕ちる。

そして、その恭也に落ちてきた物は――――――



「いや〜、悪い悪い!」



口では謝っているが上から全く動かない人影。

それは少女なのだが、もっと完結に言い表せれる言葉がある。

それは――――――



――――――つるペタ幼女。



その少女、いや幼女の為だけに在る言葉と言っても過言ではない。

しかも何処からか酒の匂い。

足もふらついており、どこかおぼつかない様子だった。

顔は赤ら顔。

――――――完全無欠の酔っ払いつるペタ幼女、此処に在り。





ポカァ〜ン………





余りの急展開に固まる乙女達。



「ん?お〜恭也だ〜。どうした〜?こんなところで〜?」



因みに恭也だが完全に気を失っている。

それも白目を剥いて微かに泡が口から出ている。

乙女達は茫然自失となって居るため、恭也の今の惨状を視界に収められていない、故に乙女達の記憶に傷は付かなかった。

さて幼女の方だが自分のした事を棚に上げ、恭也を揺すって起こそうとしていた。

が、全く効果は得られなかった。



「しゃ〜ねぇ〜な〜。ほら、風邪ひいちまうぞ〜?」



一向に眼を覚ます気配が無い恭也。

それを悟ったのか、幼女はそのままその小さな体の何処にあるか分からないほどの力で易々と恭也を持ち上げた。



「そ〜れ、帰るぞ〜〜?」



そのまま恭也を持ち上げた恭也は幼女に運ばれて行った。

そして、皆の視界から消えたが、皆の意識は戻らなかった。

ついでだが、乙女達はその時間帯の出来事を一切忘れていた。






































「――――――うっ?」



光が顔に差し込んだ事で眼を覚ます恭也。



辺りを見渡す、どうやら神社の境内のようだ。

だが何時も自分が鍛錬に使う八束神社ではなかった。

しかも何時の間にか時間は夜、空に昇っている月が眩しく輝いている、月見酒にはもってこいの宵だ。

だがその光景は”通常”にはありえない光景。

在り得る事の無い、幻想の中のみの美しさを持つ風景。



――――――間違いない、此処は。



「あら恭也、眼が覚めたみたいね」



声がした方向に向くとそこには奇妙な巫女服を着た少女が居た。



「霊夢………、という事は矢張りここは幻想郷だな」



在り得る事の無い世界。

忘れられた世界。

幻想の住民のみが居る世界。

―――――― 一般にそこは幻想郷と呼ばれている。



「そうよ、でもビックリしたわよ。萃香があなたを連れて来たと思ったら気絶してるんだもん」



奇妙な巫女服を着た少女、霊夢と呼ばれた少女は恭也に簡潔に説明を行った。

話によると恭也はかなり危険な状況だったらしい。

分かりやすく言うならば片足を棺桶に突っ込んでいたらしい。

危うく小町が来る程だ、が小町ならサボっているだろうから来る事は無いだろう。

そのため急いで永琳を呼んで薬を調合してもらい治療していたそうだ。

自分の与り知らぬ所でそんな事が起こっていたとは知らず、背がヒヤリとする恭也だった。



「………………まさか、死に掛けていたとは」



死ぬような経験ならば何度か在る。

父の武者修行ならぬ無茶修行の旅路。

香港警備隊の仕事の手伝い。

ボディガード時での戦闘。

そのどれもが一つ間違えれば簡単に死ねるような物だ。

危ない言い方だがそう何度か死に掛ければ馴れるものである。

だが今回のは別だ。

しかもそんな危機とか全く無く、アホみたいな死因で死ぬのは正直勘弁だ。

いや、死ぬ事自体勘弁なのだが。



「?霊夢、萃香はどうしたんだ?」



自分を危険な目に合わせた張本人が近くに居ない事に気付く。



「こんな月夜なら酒を飲んでいても可笑しくない筈だが」



三度の飯より酒が好き、と言う言葉が当て嵌まる存在である萃香。

それも当然、何故なら彼女は”鬼”だからだ。

鬼が酒好きというのは古よりの習わしだ。



「あの子なら反省してるわよ」

「反省?そんな考えがあったのか」

「………凄くその気持ち分からなくも無いんだけど、まぁ流石に今回はショックだったみたいよ」

「………何故だ?」

「分かるでしょ?こんな事ぐらい。あなたをこんな目に合わせたんだから反省もするわよ」

「俺を?………………………ああ、成る程」



疑問の答えを得た恭也はその答えに苦笑した。



「それで、萃香は何処に居るんだ?」

「あの子なら鳥居に座って落ち込んでたわ」

「分かった、ありがとう」



そう言って恭也は立ち上がり鳥居を目指した。



「あ、恭也」

「なんだ」

「激しくし過ぎないでね?余り汚されると掃除するのめんどくさいから」

「………………善処してみよう」



経営者からの許可を得たので問題は無いだろう。



許可って、何の許可かって?

さあ?それはお答えできません。































「………………………………」



鳥居にもたれて座っている一人の幼女、もとい萃香は黄昏ていた。

薬師が言うには一歩間違えれば死んでいたという。

酒を飲んでいて思考能力が下がるのは致し方ないだろう。

だがソレのせいにして自分のした事を有耶無耶するのは許せない。

最初は同属だから共に居たいと思ったりはした。

何せ自分以外で唯一の鬼だ。

居なくなればなればまた自分は一人。

確かに霊夢や紫、他の面々とも知り合えた。

だがそれでも自分とは違う。

輪の中にいる時はどこか疎外感を感じてしまう。

だが恭也は違う、今まで感じた事の無い感覚が生まれてくる。

例えば傍に居ると胸の辺りが暖かくなったり、別の女と一緒に居るところを見ると締め付けられるように痛くなる。

だから飲んだ。

その痛みを紛らわせるために。

ドロドロに酔うまで飲んだ。

それでも痛みは収まらなかった。

だから、だから。

その痛みを無くすために、恭也の上に落ちてやった。

でも、酔いが醒めてきた時あれ程までに後悔した覚えは無い。

薬師は普段は、まあアレだが、頭の良さは確かだ。

死に掛けていたと言うならそうなのだろう。

そして、恭也は起きたらその顛末を聞くだろう。

そして、そして………………。

………………………わたしのことを嫌いになるだろう。

そうしたら恭也は私の前から居なくなる。



「………………!!」



そう考えたらたまらなく怖くなった。

また一人になるだけだ。

なんて事は無い。

そう思った。

そう、思っていた。

でも自分は変わってしまった。

恭也が居なくなったら私は………………。



「うっ、ううぅぅっぅ………………!!」



寂しい。

悲しい。

恭也が居なくなる事を考えただけで。

涙が止まらなくなる。

恭也。

恭也………………!

慰めてくれ。

暖めてくれ。

寂しい。

寂しいよ。



「きょうやぁ………………」





























「呼んだか?」

「っ!?」



唐突に掛けられる声。

愛しいあの声。



「恭也………」

「どうした萃香、何時ものお前らしくないぞ」

「恭也………」

「ん?その目、泣いていたのか?お前が泣くなんて珍しい事もあるもんだな」

「恭也ッ………!!」



愛しい愛しい者の胸に飛び込む。

たったそれだけのことで。

たったそれだけのことであんなにも苦しかった胸が、寒かった胸が。

暖まっていく。

満たされていく。



「恭也、あたしはあんたの事が………っ!」

「ああ、俺もだ」




























「俺もお前のことを愛しているぞ、萃香」

「きょうやぁ………………っ」









そういえば古よりの慣わしと言えば、酒以外にもう一つあったな。

ソレは極度の寂しがりや。

愛の温もりを与えれば休まるとかなんとか。














<おわり>




あとがき



はい、終わりました萃香編。
直正「案外書き始めて直ぐ出来たな」
だな、最近結構筆が進むんだよな。
直正「まあ、それは喜ばしいことなんだが」
なんだ。
直正「恭也が何か違くね?」
あ〜、確かになんだか書いてる時違和感あったんだよな〜。
直正「やっぱ長編の影響か?」
多分………。
直正「ま、蒼烏さんの以来は完遂できたな」
だな、しかし改めて読んで見ると萃香が滅茶苦茶な気がするな。
直正「全くだ。萃夢想やった事ある人が見たメールが殺到すんじゃね?」
そんなことの無いように願いたいものだ。
直正「じゃ、解説でもしてみるか」
だな。と言っても解説なんてもんじゃなくて補足みたいなもんだがな。
文中で同じ鬼って出たが、コレも慧音編からの設定引継ぎみたいなものだな。
直正「東方絡みはずっとその設定使うんじゃね?」
多分な。
後目立つはずの萃香の角だが。
読んでアレ?って想う人も居ただろうけど。
角は、ほら、ね?
正直言うと萃香の力で隠してる(?)と言う裏設定でした。
直正「じゃ今度は頑張って勉強と長編書き上げろよ?」
勉強は言うな。
直正「それでは皆さん」
今回はこの辺で、次回また読んで下されば幸いです。またお会いしましょう、さようなら。



甘々〜。
美姫 「最初のドタバタから一転ね」
うんうん。良いね〜。
美姫 「次は誰が出てくるのかしら」
次回もあま〜い展開になるのかな。



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