『リバース・ハート』

この作品は過去モノです。
ハッキリ言ってありえない設定ですので、
そういうのが容認できない方は読まないほうが無難です。




第三話



恭也は美沙斗とともに再び応接間に向かうと、既に静馬と一臣、琴絵、美影が座っている。
ただ先程と違い恭也には殺気が向けられていない。
この雰囲気は恭也自身が幼い頃味わっていた普段の5人の気配だった。
恭也が薦められた場所に座ると静馬が口を開く。

「まず恭也くん今回の件、御神の当主として正式に礼を言うよ。ありがとう」

深深と頭を下げる静馬に恭也はちょっと慌てる。
「いえ、そんな、俺はただ知っている事を話しただけです。
それに御神と不破に、いえ、俺の大好きな人達をただ助けたかっただけです。
むしろ俺の方が信じてくれてありがとうと言いたいくらいです。」

この恭也の言葉に真っ先に反応したのは琴絵だった。
「あの甘えん坊の恭ちゃんがこんな立派に育ってくれて嬉しいな〜。
でも、それだけ恭ちゃんは寂しい思いをしてきたんだよね。
これからはどんどん私たちに甘えていいんだからね」

そういう琴絵の眼差しは恭也を暖かく包み込むようなものだった。
恭也はその眼差しにドキっとしてしまう。

恭也にとって琴絵は初恋の相手だった。
病弱だった琴絵は恵まれた剣才を持ちながらもあまり鍛錬などできなかった。
その分幼い恭也の遊び相手をしていたのだ。
逆に琴絵の調子が悪いときは恭也はつきっきりで看病していた。
「琴絵と恭也はまるで親子、いや恋人同士みたい」
と、まわりから散々からかわれていた。
もちろん実際には年齢的にそんな事は無く、琴絵は一臣と婚約している。
だが、恭也にとっては初恋の相手であることは事実で、
ある意味では父の士郎よりも大事な人であった。

そんな事もあり一瞬固まった恭也を見逃す人々ではない。

「恭也くん、君が琴絵の事を好きだったのは知ってるけど、渡さないぞ」
と、ちょっと真剣な目をして言う一臣。

恭也は更に固まり、追い討ちをかけられる。

「あらあら、恭也はその年になるまで琴絵を思いつづけてたのね」
と、明らかに面白がって言う美影。

「ん〜、僕としては琴絵姉さんが幸せなら相手は選ばないよ」
こんな爆弾発言をしれっと言う静馬。

恭也は固まったまま動けない。

そんな中、更なる爆撃が恭也を襲う。
「恭ちゃんがそんなに私の事を想っててくれたなんて嬉しい。
一臣ちゃんの事も当然好きだけど、恭ちゃんも捨てがたいし。
二人で勝負してもらって勝った方に嫁ごうかしら」
と、琴絵がこれまた真顔で言う。

恭也はますます固まって動けない。
そして、一臣は顔面真っ青になりながら、
「ほ、本気じゃないですよね?」
みんなに問いただす。

それに対して琴絵は、
「冗談半分本気半分かな〜。だって恭ちゃんがここまでかっこよくなってるんだもんね。
しかも、私が死んだ後も想い続けてくれてたなんて嬉しすぎるわ女としては」
と言い、

「そうだねぇ。恭也なら琴絵の相手として文句は無いね」
と、火に油を注ぐ美影。

「御神の当主としては、御神と不破の絆が深まる事に変わりは無いし、どっちでもいいかな。
ただ琴絵を守るだけの力が無いと困るから二人に戦ってもらって勝った方にすればいいかな。」
と、これまた真顔で言う静馬。

すると、一臣はすくっと立ち上がって
「恭也君、そういう事らしいから道場へいくぞ。
君が今どの程度の強さかわからないが、琴絵は渡さん!」
殺気を放ちながら恭也に言い、そして出て行く。

その殺気に恭也は我にかえり、
「本気ですか?」
と、聞くが、無言で静馬と美影と琴絵に頷かれるだけだった。
ただ美沙斗だけはやや難しい顔をしていた。


実はこれは静馬と美影と琴絵の3人によって仕組まれた話であった。
一臣は不破の当主であり、その剣才は素晴らしいものがあった。
だが、その気性の優しさ故に、詰めの甘さが残っていた。
その為、静馬と士郎にいつも勝てずにいたのだ。
本来ならば互角の戦いになる才能同士であるにも関わらずである。
特に今回は運良く防げたが、今回のようなテロはこれからも十分考えられる。
恭也のいう世界で防げなかったのは一臣の甘さが原因と3人は考えたのだ。
そこで、3人は一臣を追い込み本来の力を目覚めさせようと考えた。
もちろん琴絵が今の恭也に対してまったく心が動かないわけではなかったが、
やはり、一臣を愛しているのも事実である。
だから、恭也は残念ながらかませ犬になってもらう予定であった。
これからの戦いを生き抜くためである。

だが、この3人は大きな勘違いをしていた。
美沙斗もそう思ったように3人もまた恭也の力を過小評価していた。
一臣が負けるという可能性を実は想定していなかったのだ。
もちろんこれは仕方の無い事でもあった。
美沙斗も考えたように、御神や不破の剣は独学で身につくものではない。
付け焼刃の剣に不破の当主が負けるはずがないという認識である。

こうして恭也は無理やり不破当主覚醒のための生贄として道場へ連れて行かれるのだった。


道場につくと殺気を纏った一臣がいた。
そこには普段の優しい一臣など一切感じられなかった。
恭也の記憶の中でも、このような一臣は一度として見た事が無い。
一臣はまさに修羅と化していた。
流石に暗躍した3人も息を呑む。
そして心配になった美沙斗は静馬にささやく。
「あれでは恭也くん殺されてしまいますよ」
それに対して静馬は
「まぁ一応木刀でやるし、いざとなったら俺と美影さんが割って入って止めるさ」
と、ささやき返した。

そんな中恭也は一臣に対して恐怖するどころか、
不謹慎にも自分の力が試せる事に喜びを感じていた。
そして恭也も勘違いをしていた。
元来恭也は己の力を過小評価している。その為自分が勝つ事どころか、
互角の勝負になるとすら考えていなかった。
もちろん心の奥底で、勝てたら琴絵さんが自分の妻となると考えてはいたが、
何か現実的ではなく夢といった感じで捕らえていた。

道場の中央に2人を呼ぶ静馬。
そして一臣と恭也に木刀や飛針、鋼糸を渡す。
「ルールはなんでもあり。ただ殺人は勘弁して欲しいから、お互い意地をはり過ぎないように」
と、言ってすぐ離れる。


御神と不破の戦いにはじめの挨拶は無い。
武器を受け取った2人はすぐ距離を取り戦闘体制に入る。
一臣は元から殺気を放っていたが、そこではじめて恭也は殺気を纏う。
そして、その動きを見た全員が自分たちが恭也を過小評価していたことに気づく。

恭也は考えていた。
己の膝の事や力量の差を考えた場合、先手必勝の短期決戦しかないと。
だからいきなり神速をかけて動く。

御神流・裏、奥義之参「射抜」

一臣は驚愕する。
本人としては恭也を過小評価したつもりはなかった。
だが、独学で御神を学ぶというのは限界があると考えていた。
せいぜい使えるのは「虎切」などだろうと考えていた。
事実として一般的な警備などをしている分家の者たちは
恭也の年齢くらいだと奥義には到達できていない。
何故なら分家にいるものは余程の才能が無い限り基本以外は独学である。
恭也の場合立場は違えど殆ど独学である事を考えれば至極妥当な評価である。
手は抜かないと思いつつ、深層意識で先入観があったのだ。

だが、これも甘さといえば甘さである。
本来ならば相手がどのような技を使ってこようと叩きのめすのが不破の剣である。
なまじ恭也を知っているだけ判断が甘くなったのだが、
不破の当主としてはあるまじき事である。

そこへいきなり神速を使われての射抜である。
急いで神速に入るものの射抜による刺突が迫ってくる。
一臣はなんとか回避を試みるが、3つ目の刺突が鎖骨に当たる。

「ぐっ!」
鎖骨が折れ動きが鈍くなる。
そこへ更に恭也は追い討ちをかける。
射抜は必殺の奥義であると同時に、その技の特性から次への派生が真骨頂である。
恭也が美由希に常々言っている事である。
だから、畳み掛けるのだ。

御神流・奥義の六「薙旋」

射抜は恭也もまだ極めている技とはいえない。
一臣が完全な不意をつかれたにも関わらず鎖骨にくらうだけで済んだのはそのせいである。
だが、今度は恭也にとっての必殺技である。
予想外の神速と射抜で動揺し、鎖骨まで折られている一臣にかわせるものではなかった。
一撃目でいきなり左の小太刀を弾かれ、二撃目で更に右の小太刀も弾かれる。
そして三撃目と四撃目がモロに一臣に入り、道場の壁に叩きつけられてしまう。

「ドォォーン」

という音とともに壁に叩きつけられた一臣はグッタリとしていた。


静馬は驚いて動けなかった。
確かに恭也は幼い頃見ているし、才能はあると思っていた。
だが、独学でここまでの力を得るなど想像できなかった。
一臣も恐らく同様に思っていたはずだ。
だからこそ、いきなりの神速と射抜に対応できずにやられたのだろう。
そして恐らくは自分があの立場でもやられていたはずだと感じていた。
更に言えば、射抜はまだ改善の余地を感じたが、薙旋の方は改善の余地を感じなかった。
むしろ、自分のよりも鋭さを感じたほどだった。

美影に美沙斗、そして琴絵も呆然としていた。
誰一人として一臣が負ける事を考えていなかったのだ。
その上、恭也がここまでの使い手だと思えなかった。
特にこの3人からすれば幼い恭也の印象が強く、剣士としての印象が薄すぎたのだ。
道場に凛々しく立つ恭也に見惚れても仕方の無い事だった。

だが、それも一瞬の事である。
「一臣ちゃん!」
そう言って琴絵は叩きつけられた一臣に駆け寄る。

一方の恭也も呆然としていた。
まさか自分が勝つと想像していなかったのだ。
射抜でダメージを与え、薙旋に入った時でも、恐らくかわされると思っていたくらいである。
そしてもうひとつ驚いたのは膝が痛まないことである。
その為普段よりも下半身の踏ん張りが利き、射抜にしろ薙旋にしても威力が上がったのである。
確かにここで目覚めてから膝の痛みを感じてはいなかったが、
戦闘をすれば確実に痛むと考えていただけに予想外の事であった。
痛むと考えたからこそ、いきなり奥義で突っ込んだのである。

琴絵が一臣に駆け寄るのを見て恭也も我にかえる。
そして一臣の方へと駆け寄り、
「大丈夫ですか?」
とだけ言う。
本当は色々言いたい事があったが、ここで言うのは剣士として相手を侮辱する事になる。
だから安否だけ聞くのだった。

その様子を見て、静馬と美影、美沙斗も我にかえり一臣へ駆け寄る。
一臣は苦悶の表情を浮かべていたが、
鎖骨とアバラを数本が折れただけで済んだようで、意識はしっかりとしていた。

だから静馬は心を鬼にして一臣に言う。
「また甘さが出たな」

一臣も理解しているので一言だけ言うのだ。
「面目ない」

だが、静馬も人事とは思えないので、それ以上は言わないで救急車を呼ぶように美沙斗に伝える。
美沙斗は慌てて道場から出て行くのだった。

静馬は恭也のほうに向かい、
「恭也くん、君は本当に独学で学んだのか?
ハッキリ言って君の腕は僕とそう変わらないよ。
本当に独学だとすれば、ここで修行すればアッサリと僕を上回るだろうね」
半ば呆れ顔で言うのだった。

この言葉に驚いたのは言われた恭也本人であった。
だから意味不明の言い訳が口から出てしまうのだった。
「そ、そんな事無いですよ。
さっきのだって一臣さんが油断したからで、真っ当に戦えばかなうわけ無いですよ」

この言葉を聞いて呆れる静馬と一臣、美影、琴絵であった。
だが、ある意味で納得もしてしまう。
独学で学んだという事は真っ当な鍛錬の相手はいなかったはずである。
だから、比較対象が無いために、幼い頃の思い出が美化されてしまったのだと。

そして不意に一臣が呟く、
「もしかして、琴絵さんの結婚の相手これで本当に交代?」

「あっ」

黒幕3人が同時に声を上げる。
恭也が勝つことを想定していなかったのだから慌てて当然である。
3人は一度顔を見合わせた後同時に恭也を見る。

恭也も一臣の言葉でこの戦いの意味を思い出したのか顔を真っ赤にして固まってしまう。

そんな中救急車が到着し一臣が運ばれていく。
本来なら婚約者である琴絵がついていくはずなのに、美沙斗にそれが任される。
それを見て絶望的な表情をする一臣だが、負けた為に何も言えず救急車で病院へと運ばれるのだった。











<ミカミ道場>
弟子一号:またまたミカミ道場の時間がやってまいりました。
衛門:毎回毎回ダメSS読んでくれてありがとうっす。
弟子一号:ホントにそうだよね。普段もダメだけど、戦闘シーンが本当にダメね。
衛門:明らかに経験不足っす。描写が上手くいかない。
弟子一号:SS経験一応10年くらいあるんじゃなかった?
衛門:う〜ん。実は推理モノとかばっかり書いててバトル初体験だったり(汗
弟子一号:じゃあしょうがないわね。みなさんにどんどん突っ込んでもらって精進しなさい。
衛門:うい〜す。(なんか俺の方が弟子みたいだ・・・)
弟子一号:あと、ヒロインが前回言ってた事と違うようだけど?
衛門:ギクッ!
弟子一号:このままだと琴絵さんがヒロインになりそうね。
衛門:いや、だって、美沙斗さんヒロインってのはあるけど、琴絵さんってないし・・・
弟子一号:じゃあこのまま琴絵さんヒロインで決定なのね?一臣さんも可哀想ね。
衛門:まだわかんない。
弟子一号:ここまでやっといてそれはないんじゃない?
衛門:もちろん琴絵さんは色々なSSで好きになったキャラだし、ヒロインにしたいのだが・・・
弟子一号:要するにこのままスンナリとはいかないって事かしら?
衛門:ま、そういうことにしといてよ。
弟子一号:(なんにも考えてないだけに思えてきたわ)
衛門:まぁ、そういうわけなんで、じゃね!
弟子一号:あっ逃亡しちゃった。まったく困った作者だわ。ろくでもない作者だけど応援してあげてね。



このまま琴絵がヒロインに決まってしまうのか?
美姫 「はたまた、意外な伏兵が現われるのか」
美影さんとか?
美姫 「いや、それはあり得ないでしょう」
あははは〜。
でも、それらも次回以降の楽しみと考えて。
美姫 「そうね。一体、誰が真のヒロインとなるのか」
楽しみに次回も待っております。
美姫 「じゃ〜ね〜」



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