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――赤い法衣を纏った賢者はその顔に狂気の笑みを浮かべてその言葉を叫んだ。
「さあ、魔王シャブラニグドゥの復活だぁ!」
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――金色を携えし、母なる少女は新たな世界への展望を胸にその力を呼び起こす。
「我が名において、ここに世界――そら――の扉を開かん。リメンジョンディスォーダ!」
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――そして、今。ここに世界が交錯する。
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スレイヤーズクエスト〜時空流離〜
1 出会った彼女は異邦人?
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――あたしは追われていた。
ほんのちょっと盗賊団のアジトを襲ってお宝をいただいただけなのに。
それなのに、あいつらときたらしつこくしつこくしつこくあたしのことを追いかけてくる。
こうして街道を歩いている今も、そこらへんの茂みに隠れてこそこそしてるのが丸分かりだ。
まあ、怖くて手が出せないってのもあるんだろうな。
何せ、このあたし、剣士にして美少女天才魔道師のリナ=インバースが相手なのだから。
盗賊無勢にしては賢明だけど、こっちとしてはいつまでも付きまとわれるのは迷惑なのよね。
そう思ってあたしがちらっと周囲に視線を走らせると、ほら出てきた。
冴えない顔の盗賊その1である。
最初の勢いはどこへやら、あたしがちょっと脅しただけでたちまち萎縮して下手に出てきた。
しかも、やり合う気はないからお宝全部返せば許してやるとかなかなかふざけたことを言う。
当然、あたしがそんな要求に応じることはなく、
「悪党に人権はない」
この一言であっさり切り捨てた。
「このアマ、人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって。野郎ども、やっちまえ!」
これまたお約束の台詞を吐いて剣を抜く盗賊その1、以下数人。
あたしはやれやれといったふうに肩を竦めると、腰のショートソードに手を掛けた。
「ちょっと待った!」
突然割って入ったその声に、あたしは思わず動きを止めた。
*
――で。
あたしは今、ちょっとばかり疲れを感じていた。
目の前には金髪碧眼で長身の傭兵風の青年が一人。
いきなり現れて盗賊どもをあっという間に切り捨てたまではよかったんだけど……。
何とこの兄ちゃん、人が気にしてることあれこれ並べ立ててくれるではないか。
本人は聞こえないように言ってるつもりなんだろうけど、あいにくと全部聞こえてたりする。
……人より高性能な耳を持ってるってのも考え物よね。
そんなことを考えている間にも兄ちゃんは勝手に納得したようで、今度はあたしを子供扱いしだした。
これがまた何というか、むかつくのだ。
まあ、悪意とか下心とかは無いようだし、害はそんなにないのかもしれない。
そう思って気がついてみれば、アトラスを目指すあたしの旅に同行を許していた。
これがあたし、リナ=インバースとガウリィ=ガブリエフの最初の出会いだった。
*
こうして、しばらく一緒に旅することになったあたしとガウリィはとりあえず、近くの村でお昼にすることにしたのだけど。
「きゃぁぁぁっ!?」
もう少しで村というとき、突然横手の森の中から悲鳴が聞こえた。
あたしとガウリィは顔を見合わせると、同時に駆け出した。
木々を掻き分けて少し進むと、一人の少女がモンスターどもに囲まれているのが見えた。
ゴブリンが3匹にオーガが1匹、どっちもポピュラーな種族で普段は滅多に人を襲ったりはしないのだけど……。
「はぁっ!」
ガウリィの剣がオーガの爪を弾き、あたしの放ったファイアーボールの呪文がゴブリン達の間に炸裂する。
それで本能的に危険を悟ったのか、モンスターたちは森の奥へと逃げていった。
「ふっ、他愛ないわね」
あたしが不敵に笑ってる横で、地面に手をついて上半身を起こしている少女へとガウリィが手を差し伸べる。
「嬢ちゃん、怪我はないか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう言って少女はガウリィの手を借りて立ち上がると、軽く服に付いた埃を払った。
膝より少し上あたりまでのスカートと、上はライトアーマーだろうか。
見慣れない格好にあたしがじっくり見ていると、不意に少女と目があった。
……なんだろう。吸い込まれそうな、そんな深い闇色の瞳……。
ほんの一瞬だったけど、あたしはこの娘の目に故郷の姉ちゃんと同じものを見た気がした。
「それにしても、あなたどうしてこんなとこでモンスターに襲われてたの?」
ごまかすようにそう聞いたあたしに、少女は困ったような顔をして訳を話してくれた。
「実は道に迷ってしまって。森の中を彷徨っているうちに、昼寝をしている魔物たちの邪魔をしてしまったんです」
「なるほどね。それであいつら気が立ってたわけだ」
「森の中だから上手くすれば逃げ切れるかと思ったんですけど」
苦笑する少女に頷きつつ、意外と冷静なんだなと感心する。
「とりあえず、移動しないか?さっきの奴らが戻ってきても面倒だし」
「それもそうね」
そう言ったガウリィにあたしと少女は頷くと、3人で近くの村へと向かう。
聞けばこの娘も旅をしているらしく、初めての土地で途方に暮れていたのだという。
「先程は本当に助かりました」
「何、いいって。困ったときはお互い様って言うからな」
丁寧に礼を言う少女に、ガウリィは笑顔でそう答える。
こいつ、あたしのときと微妙に態度が違う気がする。
そりゃ、この娘は美人だし、悔しいけどあたしより胸もあるように見える。
身長だってあたしより高いし、何より雰囲気が柔らかいんだ。
……そういえば、まだ名前を聞いてなかったっけ。
「そういやまだ名乗ってなかったな。俺はガウリィ。んで、こっちがリナだ」
「リナ=インバースよ」
ガウリィに紹介されて、考え事をしてたあたしは少し素っ気無くそう言ってしまった。
「リナさんにガウリィさんですね。本当に助けていただいてありがとうございました」
彼女は改めてそう言うと、一礼して自分の名を口にした。
「わたしはユイナ。ユイナ=ルシフェルです」
遂に始まったスレイヤーズSS〜。
美姫 「これから、一体どんなお話が待っているのかしら」
ああ〜、早くも次回が楽しみだ!
美姫 「本当よね〜。次回も楽しみに待ってますね」
ではでは。