スレイヤーズクエスト〜時空流離〜

  4 交渉決裂


「さて、これを譲って欲しいとのことでしたよね」

 そう言うと、わたしは例の神像をテーブルの上に置いた。

 ここはわたしの部屋。正確には宿でわたしが泊まっている部屋ですね。

 わたしの向かいには白いフードの人がいて、それに付き従うようにミイラの人が立っている。

「わたしはこれに高い価値を認めています。半端な条件ではお譲り出来ませんよ」

「具体的に幾らくらいなんだ。言ってくれれば、その値で引き取らせてもらうが」

「そうですね……」

 フードの人の言葉に、わたしはしばし顎に人差し指を当てて考える素振りをみせた。

「金貨3000よ」

「リナさん。どうして」

「あんたの部屋で気配がしたから。それで、どうするの?」

 ドアを開けて入ってきたリナさんはわたしにそう言うと、白い人たちに目を向けた。

「なぜ、あんたがそれに値を付ける。それはこのお嬢さんのものなんだろう」

「あたしがこの娘と交換した品にはそれだけの価値があるってことよ」

「ほう、それほどの品とは何か興味があるが、その前にあんたは本当にそれをそんな非常識な値で売るつもりなのか?」

 白い人がわたしを見てそう聞いた。

「そうですね。それくらいでお願い出来ますか?」

「正気か!?

「……失礼なことを言う人には譲ってあげませんよ」

「いや、そうは言われてもなぁ」

 そう言って、ミイラの人と顔を見合わせる白い人。

「この間金に困ったどこかの領主が城と兵士と使用人付きで土地を売りに出していたが、確かそれくらいの値段だったぞ」

「へぇ、良いですね。では、わたしはこれを売ったお金でその土地を買ってそこに落ち着くとしましょうか」

「あ、あんたはどういう金銭感覚をしてるのよ。……まあ、いいわ。それで、どう?」

「いや、どうと言われても困るのだが。出世払いというのはダメか?」

「ダメです。そんな不確かな条件では取引には応じられません」

「では、提案なんだが、あんた、俺たちの仲間にならないか。協力してくれれば、数ヶ月後には最初に言った額の2倍、いや、3倍の額を払ってやる」

「お断りします」

 彼の誘いをわたしはきっぱりと断った。元々、渡すつもりなんてなかったのです。

 確かめたかったことも大体分かりましたし、彼らが敵に回るのも想定していたことです。

 そう、問題はないのです。

 後はわたしが干渉したことで少々ずれてしまったシナリオを修正するだけ。

「交渉決裂、だな。明日の朝、この宿を出た瞬間から俺達は敵同士になる」

「残念です」

 そう宣言する彼に、わたしは少しだけ悲しそうな表情を作ってみせた。

 それを演技と見抜いているのか、彼は見向きもせずに扉へと手を掛ける。

「そうそう、忘れるところだった。俺の名前はゼルガディスだ」

 最後にそう名乗って出ていくあたり、彼もなかなか気障な人のようですね。

   *

「ファイヤー・ボールっ!」

 リナさんの放った火球が狂戦士たちの間で炸裂し、ガウリィさんの剣がトロルの首を跳ねる。

「スプラッシュ・アローっ!」

 そして、わたしの放った水流の矢が最後に残った一体を貫いた。

 ゼルガディスと名乗った彼が去った翌日、宿を出たわたしたちに魔物の群れが襲い掛かった。

 リナさんが言うにはこれが彼らの放った刺客らしいけれど、はっきり言って役者不足です。

 リナさんはさすが自分で言うだけのことはあって、魔術師としては超一流。

 ガウリィさんの剣の腕もそこらの王宮戦士より遥かに上を行っているのです。

 そして、このわたし。今や完全に安定した……の前に、有象無象など無力に等しい。

 まあ、この器に収まっているうちはそんなに派手なことも出来ないのだけど。

   *

 ――ふと気づいたこと。

 ある時点を境にリナさんの魔力が少しずつ弱くなってきている。

 リナさんはそれをごまかすようにあまり魔法を使わないようにしているみたいだけど。

 ガウリィさんに指摘されるまで怪我のことを黙っていたことといい、割と見栄っ張りです。

 けれど、彼は本気で心配して、町までリナさんを担いでいってしまいました。

 女性としては恥ずかしいでしょうね。まあ、見栄を張った罰です。

 それはそれとして、彼女の魔力低下はどうにかしないといけませんね。

 いつ彼本人が出てくるかも分かりませんし……。

 今日も一人、腕の立つ戦斧使いがいました。

 そして、赤法師と名乗った盲目の男性……。

 彼らとは敵対していると言っていたけれど、わたしには寧ろあの人のほうが禍々しい気配を発しているように見えた。

 ――魔王シャブラニグドゥの復活、か。

 この世界の住人でないわたしにはそれがどれ程の脅威となり得るのか分からない。

 リナさんが言うには世界が滅びかねないそうだけど、そんなことはわたしがさせないし。

 まだ来たばかりで目的の一つも果たしていないのだから、壊されては困るんですよね。

 さて、どうしましょうか。

   *

 ――そして、夜襲があった次の日の朝。

 ついにリナさんは隠していた事実をわたしたちに伝えました。

 即ち、魔法が使えなくなっているということを。

 ガウリィさんはその理由をなぜか知っているようで、顔を真っ赤にしたリナさんに叩かれてましたけど。

 その、理由というのが女性の生理現象に関わるものだったので。

 そして……。

「いよいよ御大自らご登場ってわけか。え、ゼガルディスさんよ!」

「ゼルディガスでしょ」

「お二人とも失礼ですよ。人の名前はちゃんと覚えておかないと」

 そう言ってわたしはにこにこと笑顔を浮かべながら彼へと近づく。

「ねえ、ゼディルガスさん」

「……俺の名前はゼルガディスだ」

 米神を痙攣させながらそう言う彼、ゼルガディスさん。

 あらあら、怒らせてしまいましたね。

「最後にもう一度だけ言う。例の物を渡せ。そうすれば手荒な真似はしない」

「散々刺客を差し向けておいて、今更それを信じろって言うの?」

「自分の思い通りにならないからって力に訴えるというのもわたしはどうかと思いますよ」

「渡す気はないんだな」

 やれやれというふうに溜息を漏らすゼルガディスさん。

 手荒なことはしたくないというのはおそらく本心なのでしょう。

 尤もお連れの方のほうはそうではないようですけど。

「まどろっこしいのは抜きにしましょうぜ。ゼルガディスの大将よ。要はこいつらからオリハルコンの神像を奪っちまえばいいんだからな」

「まあ、そういうことだな」

 獣人、狼とトロルのハーフですか。なるほど。血気盛んなようですね。

 それに頷いて剣を構えるゼルガディスさん。そして、もう一人。昨夜の戦斧使いも姿を現す。

「ガウリィさん。リナさんを。後二人、出来れば抑えてください」

「やってみる」

 こちらも短く言葉を交わし、ガウリィさんがわたしたち二人の前に出る。

「フレア・アローっ!」

 そして、ゼルガディスさんが放った魔法が合図となって、戦いが始まった。

   *

 





姿を見せたゼルガディス。
美姫 「始まる戦い」
そして、ユイナの目的とは!?
美姫 「これからどうなるのか、非常に楽しみ〜」
うんうん。次回も楽しみにしてます!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」



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