感覚など、とうに消え去った。

 

 

 

―――腕に感じる微かな重み……実際はもっと重いんだろうけど、全然感じない―――

 

 

 

痛みなど、そんな軟弱なものは生まれた時に置いてきた。

 

 

 

―――銃弾が腕を打ち抜いていくけど、全然痛いなんて思わないから構わず進む―――

 

 

 

感情など、弱者の縋りつくようなものはとっくに切り捨ててきた。

 

 

 

―――目の前で女の人も、子供も、老人だって切り捨てたけど、何にも感じないな―――

 

 

 

涙なんて、もう枯れはてたと思っていた。

 

 

 

―――さっきまで一緒に戦ってた比較的親しいであろう人が私を庇って死んだ―――

 

 

 

なのにどうして……こんなにも、心が痛いのだろう……

 

 

 

―――小さくて、どこか少し尖った様な針みたいな物に突き刺されたこの感じはなんだろう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い翼の少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは私の書いた小説【斜陽】の2年後のお話です。

恭也の膝は治っていますが、もう御神の技は使えません。

オリキャラメインですのであしからず。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

私は息を荒くしながら、路地裏の汚い壁に背中をつける。

といっても、私の服装自体汚いし別段離れたいとも思っていない。

 

「いたかーー!!?」

「探せぇぇ!!!」

 

遠くで、私を探す声が聞こえる。

やだな、あんな人たち見るの。

少し息を整えて、顔を上げる。

「よぅ嬢ちゃん、こんなとこでなにしてんだよ?」

嫌なものだ。

どこからみても馬鹿丸出しの3人組の男。

ニヤニヤ笑って、私を見てる。

「こんなとこにいないでさ、俺たちといいコトしようぜ」

そう言って、ひとりの男が私の腕を掴む。

「触らないで」

言って、男の目に指を突き立てる。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」

思いっきり深く抉り込ませて、眼球を眼窩から刳り貫く。

「このアマっ!!!」

それを見た残りの二人はナイフを持ってこっちにきりかかってくる。

汚いし、触らないで欲しいな。

私は素早く目の前のキタナイ男から腕を離して、襲い掛かってくる男の鼻に拳を入れる。

「ぎゃぁっ!!」

ゴキッって、嫌な音がしたけど気にしない。

むしろ、私には心地のいい音だな。

そして、その反動を利用してもう一人の男の顔面に蹴りを放つ。

またゴキッっていう音がした。

二人とも多分鼻の骨が折れたのかな。

そして三人とも地面にのた打ち回ってる。

「私に触れようとするから」

私はそれだけ言って路地裏の奥へと歩き出す。

そして、先ほど眼球を抉りぬいて血のついた指先を見る。

綺麗な赤だなぁ……やっぱり、あんなキタナイ人間でも血だけは綺麗だなぁ……

もったいないから私は舐める事にした。

指先を口の中に入れて、舌を絡ませる。

ピチャピチャと音がするけど、気にしない。

だって、あんなキタナイ人間でも、血だけは美味しいから。

零すのも、捨てるのも勿体無いから舐めとる。

でも、すぐに舐め終わって、口から指を抜き出す。

「正当防衛……には見えないな」

口から指を離すと、目の前にまた男の人が立っている。

さっきの3人とは違って、凄く、普通の青年に見える。

だけど、彼から出ている気配は、一流の殺し屋みたいだ。

「どうしてあそこまでした?」

先ほどの3人の事だろうか……

私には全然わからない。

強いて言うなら……

「目の前にいて、嫌なものだったから」

そうだ。

顔を上げたら、あんなにキタナクテイヤナモノが視界に入ったのだ。

だから、排除しただけなのに。

でも、そんな私の言葉が不思議だったのか、目の前の彼は少し驚いたような顔をしている。

「それだけの理由か?」

何だか凄く怒ってるみたいな彼の声。

「そうよ、なにかいけなかった?」

だから、私は不思議に思って聞き返す。

私には彼が何で怒っているのかが全然わからない。

「こんな事は言いたくないのだが、君は少しおかしいようだな」

そこまで言って、彼は懐から綺麗なものを取り出す。

あれって、刀かな?

「それって、刀ですか?」

気になって、聞いてみる。

でも、彼は答えてくれない。

どこか気難しそうな顔をして、こっちを見ているだけだ。

「無視しないで欲しいな、無視するんだったら、私もう行くよ?」

また語りかけてみるけど、答えは返ってこない。

もう良いや、いこっと。

返事も返ってこないから、早く行こう。

またさっきみたいなキタナイ人に会ったら嫌だし。

私が歩き出したら、目の前の彼も動き出した。

本当に一瞬で、こっちにきた。

そして、気づいたら壁にぶつけられてた。

「っ!! 大丈夫か!!?」

何も感じないし、ちょっと体がだるいけど立てないことはないから立ち上がると、目の前の彼が凄く心配そうな顔をしてこっちに来る。

どうしたんだろ。

「身じろぎしないものだから咄嗟にとはいえ当ててしまった、すまない」

彼はそう言って私に頭を下げる。

どうしたのかな?

「体は大丈夫か? どこか痛みはないか?」

本当に、どうしたんだろう。

彼はあわてたように私に質問ばかりしてくる。

さっきはあんなに無視してたのに。

そんなに私とお話がしたかったのかな?

「ねぇ、お兄ちゃん」

私も少し話がしたいから、声をかける。

「痛いって、なに?」

 

 

 

「彼女はきっと、無痛症……ですね」

「無痛症……ですか?」

フィリスの言葉に、俺は尋ね返す。

「ええ、生まれついてなのかはわかりませんけど」

それを聞いて、俺は考える。

あの言葉は、そういう意味だったのか。

「彼女ね、痛いって言葉を知らないんでしょうね……私が痛いかもって言ったら、彼女に痛いって何って言われました」

「俺も、先ほど言われました」

先ほどの路地裏での事を思い出し、頷く。

「それに付け加えて彼女、触覚も麻痺してるみたいなんです」

「!!?」

それを聞いて、俺は震える。

もしかして、先ほどのいっけんかも知れないと思うと、悔やんでも悔やみきれない。

「これは多分生まれついてだと思うんですけど……どうしました、恭也?」

そんな俺を不思議に思ったのか、フィリスが聞いてくる。

「いや、先ほどな」

隠し通してはいけないと思い、俺は素直にフィリスに先ほどの出来事を話す。

願わくば、こんな俺を裁いてもらうためにだろうか。

「そんなことが……」

それを聞いたフィリスは、考えるようなしぐさをする。

「大丈夫、きっと恭也のせいじゃないわ」

フィリスはそう言って、俺の頭を撫でる。

今の俺は座っているから、フィリスは簡単に俺の頭を撫でる。

「今ね、あの子ナースセンターの看護士さんたちにすごい可愛がられてるわ」

とても優しい手つきで、俺の頭を撫でながら言うフィリス。

「たぶん、私達が想像もできないような生活だったんじゃないかしら……根はいい子だと思うんだけど」

「それは……俺も、そう思うさ」

「うん、だからねあの子、私たちで引き取らない?」

「え……?」

突然のフィリスの言葉に、俺は一瞬思考が回らなかった。

そして、驚いたように顔を上げる。

「あの子にご両親の事を聞いても判らないの一点張りで、それにあの子の病気の事もあるから施設に入れるのは可哀想じゃない」

確かに、フィリスの言っている事はそうだろう。

施設に入れられても、あの子はきっと幸せにはなれないだろう。

「だから、私たちの養子って形をとりたいの……あの子と、恭也が望むんだったら」

真剣な顔で、フィリスは俺を見ている。

たぶん、昔の自分を思い出しているんだろうな。

だから、こんなにも真剣に……それでいて、慈しむ様に、あの子の事を見てやれる。

「俺は、反対しないさ……俺もフィリスと同じ気持ちだからな」

俺はそう言って苦笑する。

罪滅ぼしのつもりじゃないが、それでもあの子には幸せになって欲しいと思うから。

「うん、恭也だったらそう言ってくれるって信じてた」

フィリスも苦笑して、目を閉じる。

何をして欲しいか、俺は理解してそっと優しく口づける。

触れる唇は、とても暖かくて、優しいものだ。

「何してるの?」

そこに、突然声がした。

「!!?」

俺もフィリスも驚いて、急いで体を離す。

「ねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃん何してるの?」

そこには、先ほどの少女が不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

「どっ、どうしたの急に?」

フィリスは顔を赤くしながら少女に尋ねている。

俺もかなり赤いだろうが……

「うん、あっちのお姉ちゃん達がお姉ちゃんのところに行きなさいって言ったから来たの」

まるで、小さな子供のように少女は言う。

見た目はまだ8歳ぐらいだろうか。

そんな少女が、あんなことをしたなどとは誰も信じられないだろう……

「ねぇ、ちょっといいかな」

フィリスはしゃがんで、少女と目線を同じにする。

「もし貴女が良いんだったら、私たちの子供にならない?」

先ほどのことを話し出すフィリス。

随分と唐突だが……いいのか?

「お兄ちゃんと、お姉ちゃんの?」

先ほどと同じように不思議そうな顔をして少女は言い返す。

「ええ、勿論強制はしないわ……あなたが良いんだったらだけど」

「うん、いいよ!」

フィリスの言葉に、間髪いれず少女は答える。

そんなにあっさりと決めていいのだろうか……

「そう、良かったわ」

少女の頭を撫でながら、フィリスは嬉しそうに言う。

「ちょうど私もこれから帰れますので、この子の服でも買いに行きましょうか?」

少女の手をとって、フィリスは俺に尋ねる。

「ああ、俺は構わないぞ」

俺は立ち上がって、この子の頭を撫でながら答える。

「そういえば、君の名前は?」

そういえば知らなかったことを思い出し、俺は尋ねる。

「名前? 名前って何?」

しかし、少女から返ってきたのは意外な答えだ。

「恭也、この子自分の名前も判らないみたいなの……先に言っておくべきだったわね」

申し訳なさそうにフィリスが俺に言う。

「名前と言うのはな、君自身を指す言葉のことだよ」

俺は再びしゃがみ込んで、少女の目線にあわせて言う。

「私自身の事?」

「そうだ」

本当に、不思議そうな表情をする少女だな。

「私ね、施設でLC05(エルシー・フィフティー)って言われてたんだけど、それが名前?」

「っ!!?」

その名前を聞いた瞬間、フィリスが声にならない声を上げる。

驚いた俺はフィリスの方を見る。

「フィリス……?」

体を抱きしめるようにして震えるフィリスに、俺はあわてて駆け寄る。

「どうした、フィリス?」

なるべく落ち着かせるように、フィリスにたずねる。

こんなフィリス、久しぶりに見たな……

「今あの子が言った名前……昔の、開発局の人がつけた私達姉妹の、名前」

震える声で搾り出すように言うフィリスに、俺は思い出す。

フィリスは確か、リスティさんの遺伝子から作られたと聞いたが……まさかこの少女も……

「ねぇ、どうなの?」

抱き合っている俺達を見て、少女が訪ねてくる。

「ううん、それは名前じゃないのよ」

フィリスは俺から離れて、少女に言い聞かせる。

「じゃあ、わかんない」

それを聞いて、少女は答えた。

たぶん、その形式番号のような名前でしか呼ばれたことがないのだろう。

随分と、悲惨だな。

「心配しないで……貴女にも、きっと似合う名前を私達がつけてあげるから」

そう言って、フィリスは少女を抱きしめる。

「お姉ちゃんって、お母さんみたい」

少女はそう言って、抱きしめ返す。

「そうよ、今から貴女は私の娘なんだから」

嬉しそうに、フィリスは呟く。

「フィリス、少々ここで待っていてもらっていいか?」

俺は立ち上がり、フィリスに言う。

「構いませんけど、どうしました?」

「何、少し所用が出来てな、すぐに戻る」

俺はそう言って病室から出て行く。

窓から見えたが、あの子を探している奴らか。

御神の技は振るえなくなったが、護るべきものがいる限り、俺は負けん!!

 

 

 

「ねぇお姉ちゃん」

私は今私を抱きしめてくれている人を呼んでみる。

さっきのお姉ちゃん達もそうだけど、皆綺麗な人だなぁ……

「お母さんですよ、今日からは」

ちょっと困ったみたいな顔をして、お姉ちゃんが言ってくる。

「お母さん?」

疑問に思って、聞き返してみる。

「ええ、私は今日から貴女のお母さんで、貴女は私の娘よ」

言ってまた抱きしめてくれた。

凄く、暖かいな……

「お母さん」

もう一度、言ってみる。

「なぁに?」

そして、また暖かい言葉で聞き返してくれる。

こういう気持ち、なんていうんだろ……

わかんないや。

「ねぇ、さっきのお兄ちゃんは?」

見回すと、先ほどまでいた彼がいなくなっていたのでお母さんに聞いてみる。

「あの人はね、あなたのお父さんなのよ」

「お父さん?」

また疑問に思って、聞き返す。

「そう……あの人はあなたのお父さんなのよ」

そしたら、またお母さんはちゃんと答えてくれた。

「じゃあ、お父さんとお母さんはもう結婚してるの?」

たしか、そんな話を聞いた事がある。

だから、たずねてみる。

「ええ、ついこの前にね」

そう言って、お母さんは左手の薬指にはめてる銀色のリングを私に見せてくれる。

お母さん、とっても嬉しそう……

「ねぇ、お母さ……」

言いかけて、すごい嫌な感じがした。

お母さんからじゃない……外からだ。

「どうしたの?」

心配になったのか、お母さんが尋ねてくるけど……

「お母さん、私行かなくちゃ」

そう言って、私は走り出す。

裸足に、廊下の冷たさが少し気持ち悪いけど構わない。

「あっ、どうしたの!!?」

突然走り出した私を、お母さんが追いかけてくる。

「嫌な匂いがするの」

そう言って、私は窓から一気に飛び降りる。

途中で悲鳴みたいなのが聞こえたけど、気にしない。

早く、この嫌なニオイの元を消さなくちゃ!!

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

病院の裏手の小さな森の中で、恭也は息を荒くしていた。

周りには、黒服の男が2,3人転がっている。

「その傷ついた体でよくやるな【斜陽の剣士】よ」

リーダー格らしき男が恭也に言う。

「気様らに……あの子は、渡さん」

そう言いながら恭也は構える。

「渡さん? 可笑しな事を言う奴だな……あの子はもともと我らのもの……早急に返して頂きたいものだな」

げひた笑いを浮かべ、男は言う。

「あの子を兵器としか見ていない貴様らには判らんだろう……だから、貴様らのような奴には渡せないと言ったんだ」

言って、すぐさま駆け出す。

「ふん【斜陽の剣士】といってもただの馬鹿か」

男がそういった後、男の部下らしき者達が一斉に銃を撃つ。

「ちぃっ!!」

幸い、あちらはサイレンサーの銃だし、木々がここは沢山あって盾になる。

致命傷とまではいっていなくても、かなりダメージはある。

「奴は殺しても構わん。 死体ぐらい持って帰れば、上は喜ぶだろうがな」

リーダーの男は笑いながら恭也を見て指示を出している。

「くそっ、体が思うように動かんな」

飛針を飛ばして牽制するが、大して役には立っていない。

「がっ!!」

そして、木から木へと移ろうとした瞬間に、恭也は足に銃弾を受ける。

体制を崩して、地面を転がる。

「ふん、無敵を誇っていた【斜陽の剣士】も今はこの程度か」

リーダーの男はそう言って、恭也に近づく。

「お前ら知ってるか? こいつが裏社会から足を洗ったのは女の為だって噂だぞ」

リーダーの言葉に、辺りに笑いが起こる。

「所詮こいつも男だったって事さっ」

言って、男は恭也の腹に蹴りを食らわせる。

「ごふっ!!」

少しばかり血を吐き、恭也は後ろに下がる。

「さぁ、あの世とやらで今まで殺してきた奴にわびて来な!!」

リーダーの男がそう言って銃の引き金を引こうとしたとき……

 

 

「お父さんに……触るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

私は、目の前に見えたお父さんの状況を見て思いっきり叫ぶ。

お父さんは見ると傷だらけで、さっきから感じてた嫌なニオイの奴らに銃を突きつけられてた。

「おっ、まさかそっちはからきてくれるとはなぁLC05

お父さんに銃を突きつけてた奴が、私を見て言い出す。

でも、そんなの聞いてやらない。

「おい、聞いたか……こいつの事、お父さんとか言ってやがるぞ」

そして、目の前の奴が言うと周りが笑い出した。

うるさい……

さっさと黙らしちゃおう……それの方が、お父さんも喜ぶよね。

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

叫んで、開放をイメージする。

あそこで教えてもらった事なんて、正直思い出したくないけど……

お父さんのためだったら、やらなきゃ!!

 

 

 

少女の雄たけびと共に、辺りの木々がゆれはじめる。

そして、そのゆれが収まったかと思うと……少女の背中に、36枚の昆虫のような羽が展開されていた。

「まずい!! おい、取り押さえろ!!」

それを見たリーダーの男が指示を出すが……

「うるさいよ……」

一瞬にして、少女がリーダーの男の両目に指を突き立てる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

血が吹き出し、男が絶叫を上げる。

「うるさいよ」

そう言って、少女は男の腹を思いっきり蹴り飛ばす。

そして、男は背中を木に思いっきり叩きつけられ、気絶する。

「こんなお父さんの困らせた奴の血なんか……いらない」

少女はそう言って、指先についた血を払うようにしてぬぐう。

「ばっ、化け物ぉぉぉっ!!!」

それをみた男達はがむしゃらに銃を撃っていく。

しかし、そんな出鱈目な銃は一発たりとも当たらない。

「…………えい」

少女が手を翳すと、銃を持っていた男達の手と足があらぬ方向に曲がっていく。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!」

そして、ボキッっと、嫌な音が連続して鳴り響く。

少女は、男達の両手両足の骨を砕いたのだ。

「もういい!!」

それを見た恭也は、少女を後ろから抱きしめる。

「もういいんだ、それ以上はやらなくていい」

悲しそうな声で、恭也は言う。

「なんで? お父さんどうして止めるの?」

少女は本当にわからないといった感じでたずねる。

「お前が……そんな事で手を血に染める事はないんだ」

思いっきり、恭也は優しく、少女を抱きしめる。

「お父さんが、そういうんだったら」

少女はそう言って、背中に展開した羽を消す。

そして、思いっきり恭也に抱きつく。

「恭也ーーーーっ!!!」

そこに、フィリスが走ってくる。

「フィリス!!」

「お母さん!!」

恭也と少女は一緒にフィリスを呼ぶ。

「二人とも大丈夫!!?」

傷だらけの恭也と、指先に少し血がついていた少女を見てフィリスはたずねる。

「俺は大丈夫だ、この子もな……ただ」

周りの男達を見て、恭也は言葉を濁す。

「取りあえず、皆死んではいないが……」

「判ったわ、リスティに連絡しておくわ」

恭也の言いたい事が判ったのだろう、フィリスはそう言って病院の方へと戻っていく。

「ふぅ……取りあえずは、ひと段落か」

恭也はそう言って息を吐く。

「お父さん、血が出てるよ」

そして、傷だらけの恭也をみた少女が恭也に言う。

「ああ、大丈夫だこれぐらいならな」

心配ないといって恭也は少女の頭を撫でる。

「お父さんの血……綺麗だね」

そう言って、少女は徐に恭也の血をなめだす。

「おっ、おい!!?」

突然の事で、恭也も驚きの声を上げる。

「んっ……ぴちゅ……」

銃弾を受けた手足や、返り血を浴びたであろう首筋なども舐めまわす。

「はぁ……お父さんの血って、美味しいね」

そして、何の邪気もない笑顔で言った。

「お〜お〜、恭也、やっぱりロリコンだったのか?」

そこに、フィリスと、リスティがやってくる。

「リスティさん!! 誤解するような事を言わないでください!!」

リスティの言葉に、恭也は思いっきり否定する。

「いやだって、フィリスと結婚したのにそんな小さな女の子と抱き合ってる時点で何を言っても無意味だぞ」

煙草をふかして、リスティは笑いながら言う。

「お父さん、あの人は?」

リスティを指差し、少女は訪ねる。

「恭也……ボクの聞き間違いかな……今その子、恭也のことお父さんって言わなかったか?」

「いいえ、リスティの聞き間違いじゃないわよ」

「お母さん!」

そう言って、少女は今度フィリスに抱きつく。

「え〜っと、恭也とフィリスが結婚したのってつい最近だよな?」

「リスティもちゃんと呼んであげたでしょ」

くすくすと笑いながら、フィリスは少女の頭を撫でる。

「恭也、この子をお願いね」

フィリスはそう言って少女を恭也の方へと行かせる。

「リスティ、あの子ね……私たちと同じなの」

その言葉に、リスティは驚いたようなかをする。

LC05……あの子自分はそう呼ばれてたっていってたわ」

「なるほど……ボクの前に作られてたシリーズか」

煙を吐いて、リスティは言う。

「そこにいる人たちはあの子を兵器として扱っていたみたいで、恭也とあの子が」

フィリスに言われて、リスティは辺りを見回す。

「あの子はきっと昔の私と同じだから……私達が引き取る事にしたの……人の温もりや、愛情を教えてあげたから」

フィリスの言葉を聞いて、リスティは考える。

「まぁ、それが一番いいんじゃないかな……あの子にとってもね」

リスティはそう言って煙草を形態灰皿に入れて、少女に近づく。

「お姉ちゃん、誰?」

近づいてくるリスティに、少女は訪ねる。

「ボクは君のお母さんのお姉ちゃんだよ」

「お母さんのお姉ちゃん?」

不思議そうに少女は訪ねる。

本当に、見るもの聞くもの全てが新鮮なのであろう。

「ああ、そうだぞ」

それに、恭也が答える。

「お姉ちゃん、よろしくね」

無邪気な笑みで、少女はリスティに言う。

「う〜ん、Very cute

その笑みを見たリスティは少女を抱き寄せる。

「そういえばフィリス、この子の名前は?」

抱きしめてから、リスティは名前を聞いてないことを思い出す。

「まだ決めてないの、さすがにあの名前じゃあね」

「なら、ボクが決めよう」

そう言ってリスティは少女を見る。

「フィーア……うん、フィーアがいい」

「ふぃーあ?」

少女がリスティの言った事をそのまま真似する。

「ちっちっ、ちがうよ、フィーア」

「ふぃーあ……フィーア」

「そうそう」

無邪気に微笑むフィーアをみて、リスティはまたフィーアを抱きしめる。

「ドイツ数字の4番って意味ね、理由はなんなの?」

大して反対はしていないが、意味を尋ねるフィリス。

「それは勿論、ボク達は同じ遺伝子が使われているんだ、姉妹も当然だろ?」

その言葉を聞いて、フィリスは頷いた。

4番目の姉妹って、事ね」

「そういうこと」

リスティは頷いて、フィーアを離す。

「これからもよろしくな、フィーア」

「うん、お姉ちゃん!!」

リスティの問いかけに、元気に答えるフィーア。

「お父さんとお母さんの事も、忘れないでね」

フィリスが恭也の隣に立って言う。

「判ってる、二人とも大好き!!」

そう言ってフィーアは二人に抱きつく。

 

 

 

過酷な運命をたどってきた少女は、やっと平穏を掴んだ。

その小さな手に、溢れんばかりの幸福を彼女に……

    

   


あとがき

 

 

斜陽シリーズとしてスタートしました。

フィーア「またもや無謀な事を」

ある意味短編集みたいなものだから。

フィーア「まぁ、ちゃんと繋がってるわけじゃないしね」

ふぅ、やれやれ……劇中のフィーアのほうはあんなに可愛いのに。

フィーア「失礼ね、私だって可愛いじゃない」

やってる事が凶暴なんだよ、美姫さまと一緒で(ボソッ)

フィーア「なんか言った?」

いっ、いいえ!! 別になんでもないです……あは、あははははは……

フィーア「とにかく、さっさと残りのSSを書きなさいよ」

アイアイサー

フィーア「ではでは〜〜〜〜」




ああ〜、素直で可愛いなフィーア。
美姫 「……お兄ちゃん、私は可愛くないの」
ぐはっ! そ、そう来たか。って、お前、その身体でその呼び方は…。
美姫 「駄目?」
ぐはっ。だ、駄目じゃないぞ〜。
美姫 「私、可愛い?」
おお、可愛いぞ〜。よしよし〜。
美姫 「えへへ〜」
ぐおぉぉぉ。た、堪らん。
美姫 「お兄ちゃ〜ん。美姫ね、お願いがあるの」
おう、何だ?
美姫 「SSをいっぱい、いーっぱい書いて欲しいの」
そうか、そうか。分かったぞ〜。
それじゃあ早速、書き始めようかな〜。
美姫 「うん、頑張ってね〜」
はははは、任せなさい!
美姫 「……この手は当分、使えるわね」
うん? 何か言ったか?
美姫 「ううん、な〜んにも言ってないよ〜」
そうか。それじゃあ、やるぞ〜。
美姫 「…………よし。それじゃあ、まったね〜」



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