それは……とある研究所。

「ついに……ついに完成したぞっ!! 私の最高傑作がぁっ!!」

白衣を着た一人の男が、狂気のように叫ぶ。

「もはや佐波田の作ったシリーズなどを遥かに超えているぞ……はは、ははははははは!!!!」

コンソールを叩きつけ、男は叫ぶ。

その後ろでは……たくさんの白衣を着た男や女の、死体があった……

「最後はあんただけね……」

その死体の山を掻き分けて、9歳ぐらい少女が現れた。

L-C09(エルシーナイン)よ……私の最高傑作よ……」

男はゆらゆらと揺らめきながら、その少女に近づく。

「だ・ま・れ」

刹那、男の首から上が綺麗に吹っ飛ぶ。

その顔には、先ほどのまでの狂気の笑みが張り付いていた。

「私はお前達の道具じゃない……私は私の意思で、ここにいるんだ」

男の首を蹴り飛ばし、少女はコンソールに座って、キーボードを叩く。

「でも、姉さんの事はちゃんとしてあげる……一人だけ、あの地獄から逃げ出した姉さんにはね……」

エンターキーを押すと、画面に地図が現れ、そこの一転が点滅する。

「海鳴ね……直感か何かかしら……他のL-Cシリーズのいる所に逃げ込むなんて……」

忌々しげに呟いて、少女は立ち上がる。

「あなたが己が事を‘フィーア’と名乗るなら……」

バサァッと、4枚2対の羽が現れる。

「私は私の事を‘ノイン’と呼ぼう」

少女はそう言って、研究室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

戦姉妹(ヴァルキュリア)

 

 

 

 

 

これは、私が書いた【声を合わせて歌いましょ】の2年後のお話です。

フィーアは皆に可愛がられています。

フィリスと恭也は、高町家の近くに一軒家を買っていて、そこに3人で暮らしています。

これはオリキャラがメインです。

フィアッセはコンサートを終えて今は高町家に住んでいます。

ではでは〜〜

 

 

 

 

 

その日は、朝からどこかフィーアの調子がおかしかった。

ご飯を食べるときも、話をしているときも上の空なのだ。

「はぁ……」

そして、こうしてため息をつく。

「フィーア?」

心配したフィリスが声をかけるが……

「はぁ……」

と、気付く様子もない。

「フィーア、どうした?」

恭也がフィーアの方を揺さぶって尋ねる。

「あっ……お父さん、何?」

「いや、朝起きたときからぼうっとしているからな、風邪か?」

恭也はフィーアのおでこに手を当ててはかってみるが、熱はない。

「大丈夫だよ……ご馳走様」

そう言って、フィーアは部屋へと戻っていく。

「本当に、どうかしたのかしら……」

フィーアが出て行った扉を見て、フィリスが言う。

「昨日までは別段いつもと同じだったからな……悪い夢でも見たのか……」

恭也も判らないと言った感じで言う。

「お父さん、お母さん……ちょっと出かけてくるね」

フィーアはダイニングにいる二人にそう言って、出かけていった。

 

 

家を出たフィーアは、高台にある草原に来ていた。

なのはに教えてもらった、とっておきの場所だ。

(朝から何だか変だなぁ……何だか、胸がざわつくって言うのかな……そんな感じがする……)

草原に寝転び、空を見上げるフィーア。

「お嬢さん」

そこに、声が掛かる。

驚いたフィーアは起き上がって、その声の主を見る。

「お嬢さん、隣、良いかしら?」

9歳ぐらいの少女がそこには立っており、フィーアの横を指差しながら尋ねる。

「いいですけど」

「そう、ありがとう」

フィーアの返答を聞き、少女は腰掛ける。

それから、幾ばくかの沈黙が流れる。

フィーアも、今日はあんまりお喋りしたい気分ではないし、知らない人にはついていかない等々恭也に言われているから何も言わない。

「お嬢さん、あなたに姉妹とかいるの?」

そんな時、隣の少女がフィーアに訪ねる。

「いないけど……」

「私には8人姉がいたわ……もっとも、皆血の繋がっていない姉妹だけどね」

フィーアの答えを聞いて、少女は言い出す。

「その中でも、特に5番目の姉が大好きだった……何をするにも一緒で……本当に大好きだったわ」

懐かしむように、少女は言う。

しかし、次の言葉で……雰囲気は一瞬にして変わった……

 

「その姉の名前はね……L-C05(エルシーフィフティ)って言うの」

 

バッと、フィーアは立ち上がった。

「どうしたの、そんな恐い顔をして……姉さん?」

少女はまるで挑発するかのような笑みを浮かべて立ち上がる。

「忘れているようだから思い出させてあげるわ……私の名前はL-C09……あなたの妹よ」

その言葉を聞いて、フィーアはガチガチと歯を振るわせる。

「思い出したかしら……あの地獄を……血と硝煙の支配する、あの忌まわしき戦場を」

 

「嫌ァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

両手で頭を押さえ、ガチガチと震えながら蹲るフィーア。

「眼を逸らさないで、姉さん……思い出して、私達は協力してL-C01(エルシーワン)L-C02(エルシートゥエニー)の姉さんを殺したわね……あぁ、L-C08(エルシーエイト)は姉さんに受けた傷の再生が間に合わなくて死んでいったわ」

妖艶な笑みを浮かべ、少女はフィーアの隣にしゃがみ込む。

L-C04(エルシーフォーティー)姉さんは最後まで姉さんのことを呼んでいたわ……五月蠅いから、私が殺したけどね」

クスクスと、少女は語る。

「思い出した? でもね、思い出しただけじゃ不公平よ……姉さん」

刹那、フィーアが吹っ飛ぶ。

「私達は無限地獄とも思えるあの施設で……生きてきたのよ……それなのに、姉さんは逃げ出した……私達を捨ててね」

忌々しげに呟き、少女はフィーアを見る。

「今姉さんは自分の事をフィーアって言ってるみたいね……だから、私は自分の事をノインと呼ぶわ」

「ノイ……ン?」

フィーアは少し蹲りながらも、顔をあげてノインを見る。

「ねえ、早く思い出して……じゃないと、姉さんの大事な人が死ぬかもしれないわよ……」

クスクスと、ノインは実に楽しげに言う。

「でも、これを見たら思い出すかもね……」

ニヤァっと、ノインは笑う。

そして次の瞬間……ノインの背中が光りだす。

「現れよ……4枚2対の我がフィン……Phantom(ファントム)よっ!!!」

叫びと共に辺りが光に包まれ、ノインの背中に……4枚2対の羽が現れた。

出たと同時に、ノインの足元に生えていた草花が……一気に枯れて、朽ちていった。

「どうかしら……思い出せる?」

愉快な笑みを浮かべ、ノインはたずねる。

「あ……あぁ、あぁああぁぁぁぁあああ!!!!」

そのノインのフィンを見た瞬間、フィーアはまた頭を押さえ蹲る。

そして、その背中に……3対6枚の羽が現れる。

「思い出せたようね……そのフィン、姉さんの能力を具現化し、人類の夢を詰め込んだフィン……immunity(イムニティ)

そう言って、ノインはフィーアに向かって歩き出す。

足を一歩踏み出すたび、ノインの足元の草は枯れはてる。

「姉さんは、ただ愛される事を望んだ……それが、私達との記憶に勝った。 その結果、姉さんは私達の記憶を封印していたわけだけど……もう思い出したでしょ」

ノインの言葉の後、フィーアはゆらゆらと立ち上がった。

その眼は、今までの無邪気なフィーアのものではなかった。

狂気に満ちた、その瞳……飢えた獣を思わせる、その唇。

「ノイン……久しぶりね」

髪をかきあげ、フィーアは言う。

「ええ姉さん……4年ぶりかしらね」

対して、ノインは先ほどとは違う笑みを浮かべ答える。

L-C03(エルシーサーティー)姉様とL-C06(エルシーシックス)L-C07(エルシーセブン)はどうしたの?」

先ほど、ノインから聞かされなかった他の3人の事を尋ねるフィーア。

L-C03姉さんは私が殺してあげたわ……頭と心臓を吹き飛ばしたもの、あれで死ななかったら本当の化け物よ。

L-C06姉さんとL-C07姉さんはL-C01姉さんとの模擬戦で戦闘不能になって廃棄処分になったわ」

実に可笑しそうに、その言葉には悲しみも、憐れみすらない……ただ、嘲笑うだけ。

「ようは皆死んだって事よ……私と、姉さん……あなたを除いてね」

太陽の下……風が、吹きぬける。

「それで、あなたは私を殺しに来たの?」

褪めた目で、フィーアはノインに言う。

「そうね、開発者の倉屋敷博士はそう私に命令したわ……でも、私は己の意思でここに来たのよ」

「あなたらしいわね……他人の意見に従うのが嫌いなとことは。 でも…いえ、だからこそあなたという人格がある」

ノインの答えに、フィーアは納得したかのように答えた。

「最後のお別れの時間くらいはあげるわ……今日の深夜零時丁度に、またここで会いましょう……最狂で最高の姉妹喧嘩になりそうね……うふふふ、あははははははは!!!!」

狂気を孕んだ笑い声を上げ、ノインは消えていった。

そんなノインを、フィーアは黙ってみていた。

「もう、返れないのね……あの頃には……」

ツゥッと、フィーアの頬を一筋の涙が零れ落ちた。

 

 

あの草原から帰ってくる途中、フィーアは翠屋の前に来ていた。

(ありがとう……桃子姉様、美由希姉様、なのは姉様、晶姉様、レン姉様、フィアッセ姉様、忍姉様、ノエル姉様)

心の中で、最大限の感謝を……そして、勝手にいなくなってしまうことへの、謝罪を。

(もう会う事はないでしょう…でも、どうか私の死に心痛まないで欲しい……ただの兵器が壊れるだけですから)

涙を流して、フィーアは礼をする。

「さよなら、私の‘日常’の居場所……心安らぐ、癒しの場所」

呟いて、フィーアは歩き出した。

フィーアが人込みに消えるのと同時に、桃子が外に出てくる。

「どうしたの、母さん?」

入り口にいた美由希が、急に外出に出る桃子を見て尋ねる。

「フィーアちゃんがいたような気がしたんだけど……気のせいかしら……」

桃子は人込みを見つめて、そういった。

 

 

次に、フィーアはさざなみ寮の前に来ていた。

(耕介兄様、愛姉様、真雪姉様、知佳姉様、薫姉様、那美姉様、みなみ姉様、ゆうひ姉様…ありがとうございます)

先ほどの翠屋の前と同じように、フィーアは心の中で感謝と謝罪の言葉を告げる。

(こんな兵器の私に優しくしてくれて、心から一緒に笑ってくださって……本当に、感謝しています)

思い出せば思い出すほど、離れたくなくなってくる。

でも、いかないわけにはいかない。

(そして……リスティ姉様……いえ、リスティ母様、あなたのお陰で私はここにいます……あなたのお陰で、私には‘フィーア’と言う立派な名前があります……感謝しても、しきれません)

自分に名前をつけてくれたリスティ、自分の遺伝子にも刻まれている、リスティとの絆。

(最後に一度だけ、あなたの事をお呼びしたかったです……リスティ母様……と)

ポタポタと、涙が地面に落ちる。

「ありがっ、とう……」

そう言って、フィーアは走り出した。

「あら……今フィーア様の気がしたと思ったのですが……」

走り出した後に、十六夜が庭から出てきた。

 

 

そして最後に、フィーアは自分の住んでいた家……高町家にやってきた。

フィリスは仕事で病院に、今日は恭也も足の検診で病院にいっているので、家にはいない。

それを知っていたフィーアは家に入り、手紙を書く。

あて先には、恭也父様・フィリス母様と書いて……

書いているとき、何度も涙がこぼれた。

離れたくない、死にたくない、まだ、二人の娘でいたい……

そう思うと、涙は止まらなくなった。

後から後から、涙は枯れることなく……

でも、行かないと始まらない……終われない。

自分と、自分の妹の戦いに……皆を巻き込むわけには行かない……巻き込んではいけない。

「うっ……うぅぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

でも、でもっ!!

心と体が、別の反応を示す。

心では行きたくない、死にたくないとしきりに叫んでいる。

だが、体は命令する……敵を破壊しろ……立ちふさがるものを、蹂躙せよ……と。

そんな二つの命令がフィーアを悩ませ、フィーアは自分のベッドで思いっきり叫び声をあげながら、泣いた。

もう泣かないために……涙なんか、捨ててしまうために……

あの頃と同じ、痛みも、感覚も、感情も、何もかも、判らないように。

ただただ、戦うために……

それから、フィーアは時間まで当てもなく街を歩き回った。

これが最後のように……最後に自分の街を眼に、焼き付けるために……

 

 

時刻は午後11時55分……

フィーアはあの草原に座り込んで空を見上げていた。

(父様達……今頃私を探しているんだろうな……)

こんな遅い時間にフィーアが帰っていないことなど、今まではなかった。

だから、恭也もフィリスも、勿論桃子達も心配して探しているかもしれない。

でも、後5分は来ないで欲しかった……

ここはすぐにバレると、フィーアは踏んだ。

なのはが、知っているから……

そして時計が……0時を指した……

その刹那、フィーアの周りが一気にドーム状に包まれる。

「始めましょう……姉さん」

そう言って、すでにフィンを展開したノインが現れる。

手には、2本の剣が握られていた。

「勝負は簡単よ……施設でやったのと同じ……剣と、フィンを使った勝負よ」

そう言って、ノインは剣の一本をフィーアに投げる。

剣を受け取ると、フィーアはその柄の部分を見た。

そこには【L-C05】と刻み込まれている。

これは明らかに、施設でフィーア自身が使っていた剣である。

「態々とってきてあげたのよ……感謝してね」

ノインの言葉に答えず、フィーアはその剣を抱きしめる。

「戦いを避ける事は無理なの?」

「くどいわね……私達は最後はどちらか一人になるまで殺しあわないといけないのよ……生き残って、死んで行った他の姉様の分まで地獄を見る」

フィーアの言葉を、ノインは一笑に伏した。

「判ったわ……ノインッ!!」

剣を抜き去るのと同時に、フィーアの背中にフィンが現れる。

3対6枚の……抗体を意とする紫の翼……immunity

「そうよ、それでいいのよ……さぁ、最後にして最高の姉妹喧嘩をしましょうよぉっ、フィーアァァァッ!!!!」

二人の剣戟の音だけが、夜空に響いていった……

 

 

その頃高町家には、皆が集まっていた。

フィーアがいなくなって、皆慌てているのだ。

「フィーア……どこに行ったんだ……」

リビングの机を叩いて、恭也が言う。

先ほどからさざなみ寮、月村邸などにも連絡を入れたが、来ていないという。

皆の心の中に、最悪の事態が浮かび上がる。

「恭也ぁっ!!」

そこに、フィリスが必死の形相で現れる。

「フィリス、フィーアが見つかったのか!!?」

「違うの!! これっ!!!」

恭也の問いに、フィリスは先ほど郵便受けに入っていた一通の封筒を恭也に見せる。

あて先には、恭也父様・フィリス母様と書いてある。

それを見た恭也は急いで封筒を破り、中を見る。

中には、一通の手紙が入っていた。

「これは、フィーアの字だな……」

手紙を見て、恭也はそう判断する。

そして、桃子が視線で読んでと言うのを見て、恭也は読み出す。

「これが父様と母様、もしくは皆さんの手にあるという事は、すでに私はいないのでしょう……」

そこまで呼んで、恭也は息を呑む。

しかし、それでも読まなければいけなかった。

 

 

【これが父様と母様、もしくは皆さんの手にあるという事は、すでに私はいないのでしょう……

 ですけど、悲しまないでほしいです。 私は皆さんには黙っていた事があります。

 私は、とある施設で生まれた戦闘の兵器です、HGSという特殊な病気を戦争に使おうと考えた人達が創りだした、化け物です。

 私はある日、その施設から逃げ出しました……兵器になる事を恐れ、拒み……一緒にいた他の8人の姉妹を捨てて逃げました。

 それから数日間宛もなくさまよい、この街に辿りつきました……そして、父様と母様にあったのです。

 お二人には、感謝しても感謝しきれないほどの恩をお受けしました……言葉にする事が、出来ないくらいに。

 それからの日々は、本当に輝いていて、私には眩しいぐらいに……

 リスティ姉様に‘フィーア’という名前を貰ったときの嬉しさ……桃子姉様達と一緒に料理をした時の楽しさ…さざなみ寮の皆さんと一緒に過ごした、あの日々。

 私にとっては、掛け替えのない4年間でした……生きていて、一番輝いていた、4年間です。

 私は、これから最後の姉妹との決着をつけます……これは、避けて通れる道ではないのです。

 父様、母様……今まで私を娘として一緒に暮らしてくださって、ありがとうございます。

 何一つ恩返しもできない事が悔やまれますが、私はもう行かなくてはなりません……

 最後に、今まで出会ってきた全ての人に感謝を……そして、さよならを……

 私は皆を……愛しています】

 

 

恭也がフィーアの手紙を読み終えると、美由希や晶達は泣いていた。

恭也も、その手紙の所々に滲んでいるフィーアの涙であろうものを見て、胸が締め付けられるように痛かった。

「なぜ……なんで気付けなかったんだっ!!!」

恭也は自分を責めるように叫んで、机を叩く。

「俺はあの娘の父親なのに……あの娘を幸せにしてやると言ったはずなのにっ!!」

恭也の瞳にも、涙が溢れ出す。

「今からでもまだ遅くないはずよ!! フィーアちゃんを探しましょう!!」

桃子が涙を拭いて、立ち上がる。

「皆!! フィーアちゃんの行きそうな場所に心当たりはない!?」

「さざなみ寮も忍さんの家にもいない……あとは……」

「お母さん、一つだけあるよ!」

そんな中、なのはが桃子に言う。

「あそこの、高台の草原だよ! フィーアちゃんと前に一緒に行ったとき気に入ったって言ってたよ」

なのはの言葉に皆は頷き、一気に外へと駆けて行った。

 

 

「っああああぁぁぁぁっ!!!」

フィーアの叫びと共に、フィーアの剣が横凪に空を切る。

「はぁぁぁぁぁぁあああっ!!」

それに呼応するかのように、ノインの剣がフィーアの剣とぶつかり合う。

「そらぁっ!! そらぁっ!! そらぁぁぁぁっ!!!!」

怒涛の勢いで、ノインはフィーアに剣戟を繰り出していく。

「腕が落ちたんじゃないのかしらねぇ……フィーア姉さんっ!!!」

最後の大振りの一撃を剣越しに受け、フィーアは吹き飛ぶ。

「つまらないわね……もうすぐ決着がつくわよ」

ザッ、ザッっと、ノインは歩きながら言う。

歩くたび、その地面の草は枯れていき、最早ほとんど足元は茶色くなった草なっている。

「他人の生命力を触媒とする高戦闘型フィン:Phantom……最後に作られた、血に塗れた羽よ」

4枚2対のその朱い羽根を広げ、ノインは言う。

L-C01姉さんに聞いているのよ……姉さんの本気を……その瞳が、擦れた赤色になる事も」

その言葉に、フィーアは反応する。

「その瞳になった時が姉さんの一番の本気の時だって……さぁ、私にもその瞳を見せて」

狂気に満ちたその笑みで、ノインはフィーアに言う。

「後悔……しないでよ……」

刹那、フィーアの雰囲気が変わる。

今までのような雰囲気ではない……まるで、触れるもの全てを斬り捨てる刃物のように……近づくもの全てを凍てつかされる吹雪のように。

そして、3対6枚の羽が……10枚の羽へと姿を変える。

「真っ黒ね……漆黒の黒……全てを飲み込む、狂気の色!!」

ニタァと笑みを浮かべ、ノインは言う。

「なら私も……本気を出すわね」

そう言ってノインは体を抱きしめるようにして力をためる。

 

「ああああああぁああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!

 

体の各部分や顔に、血管が浮き上がる。

そして、眼も危ないぐらいに見開かれる。

だが、次の瞬間……4枚2対の羽が……フィーアと同じように10枚の羽へと姿を変えた。

しかし、その羽は擦れた様に揺ら揺らとしていて、その色は朱に近いものだった。

「さぁ、行くわよ……」

その言葉の後、二人は一気に上空まで飛び上がる。

「だぁぁぁぁぁっ!!!」

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

ガチガチガチっと、二人の剣が鬩ぎ合う。

 

「「ブレイクっ!!!」」

 

そして、二人は同時に叫び、片方の手から強烈な雷が放たれる。

その雷がお互いに相殺しあい、一瞬にして弾け飛ぶ。

それと同時に二人は離れ、距離をとる。

「ハァ…ハァ…ハァ…」

「ゼェ…ゼェ…ゼェ…」

地上に降り立ち、二人は荒い息を整えようとする。

「流石ね……」

フィーアの言葉の後、フィーアの左肩から血が吹き出す。

「ふぅ…ふぅ…ふぅ……」

ノインは、まるで獲物を追い詰めた飢えた獣のように、息を荒げる。

「っだぁぁぁぁぁぁ!!!」

まずは一度地面を蹴って加速……そしてすぐさまもう一度地面を蹴って2回目の加速をしてフィーアに詰め寄るノイン。

「ぐぅぅっ!!!」

痛む左肩を押さえ、フィーアはノインを迎え撃つ。

防戦一方で、フィーアはノインが築いた結界の端の方まで追い詰められた。

フィーアがそれに気付いたのは、何もないはずなのに背中が何かにぶつかったからである。

「しゃぁぁぁぁぁっ!!!」

そして、ノインの剣がフィーアの剣を弾く。

「ちっ!!!」

フィーアは舌打ちをして、その剣を拾いに行こうとする。

「行かせないわよっ!!!」

しかし、ノインが雷を放ち、その行く手を阻む。

(あと少し……っ!!)

後一歩、というところで……フィーアの眼にある人物が映った。

「フィーアッ!!!!」

恭也と……フィリスである。

「来ちゃ駄目ぇっ!! 父様ぁっ!! 母様ぁっ!!!」

それを見たフィーアは手を伸ばしながら叫ぶ……が。

 

「サンダー・ブレイクゥゥゥッ!!!!」

 

雷を纏った剣が……フィーアの腹に突き刺さる。

「ガハァッ!!!」

大量の血を一瞬にして吐き出すフィーア。

「フィーアァッ!!!」

「いやぁぁぁぁぁ!!!!」

それを見た恭也はフィーアの名前を呼びながら叫び、フィリスは手で顔を押さえて悲鳴を上げる。

「がふっ……ごほっ」

血を吐き出しながら、フィーアは突き刺さった剣を抜き取る。

「フィーアッ!!」

恭也はフィーアに近寄ろうとするが、見えない結界に阻まれる。

「ふふふふ……結界が……私の背を支えてくれるなんてね……」

左手で傷口を押さえ、フィーアは立ち上がる。

「父様……母様……探さないでって、言ったのに……」

フィーアは軽く顔を恭也たちに向けて、言う。

「フィーアッ!!!」

恭也はもどかしさと戦っていた。

手を伸ばせば……届く距離にいるのに、ここにあるこの薄い結界の壁一枚が……今は憎く感じる。

「父様……母様……もし生まれ変われるなら……今度も、二人の子供がいいな」

儚い笑みを浮かべ、フィーアは恭也とフィリスに言う。

その言葉を聞き、二人は息を飲んだ。

「さぁ姉さん……もう最後のようね」

ノインがそう言って手を翳すと、フィーアに捨てられた剣が戻ってくる。

「さぁ!!! 最後よっ!!!」

叫び、ノインはフィーアに向かって急降下する。

「「フィーアァァァァァッ!!!!」」

恭也とフィリスの悲鳴のような声が響く。

「バイバイ……父様、母様」

フィーアは勢いよく上を見上げ、ノインを見据える。

そして、空高く舞い上がる。

「ノインっ!! こんな平和な時代に、私達のような兵器は必要ないのよっ!!!!」

フィーアの剣が、ノインの剣が……お互いに……突き刺さった。

フィーアの剣はノインの心臓を、ノインの剣は、先ほどとほぼ同じところを……

「ガハァッ!!!」

「ごふっ!!」

ノインとフィーアは同じように血を吐く。

「私の勝ちよ……もう、止めましょう」

フィーアはノインの手を持ち、そう言う。

「甘い……甘いわね……姉さんは最後まで……」

そういうと、ノインはフィーアに組み付いた。

「ノインっ!!? なにを!!?」

「私には……秘密漏洩阻止の為に……体に爆弾が詰め込まれてるわ……そこまで言えば、判るでしょ?」

ノインは狂気の笑みを浮かべ、フィーアに言う。

「私一人じゃ逝かない……必ず姉さんも連れて逝くわ……」

「ノイン……」

「一人は……寂しいわ、姉さん」

今まで見せた事のないような、哀しげな表情で、ノインはフィーアに言う。

「ええ……もう離さないわ……」

フィーアとノインは、抱き合う様な形になる。

「お父さん、お母さん……今までありがとう」

フィーアは恭也とフィリスのほうを見て、そう呟く。

「そして……さようなら……」

 

 

次の瞬間、ノインに内蔵されていた爆弾が……爆発した。

その爆発は結界内で何倍にも爆縮し、威力は想像を超えたものだった。

爆発が収まり、恭也とフィリスが見たものは……

一面の焼け野原だった……

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

斜陽第6弾 戦乙女、いかがだったでしょうか?

フィーア「ちょっと!! フィーア死んじゃったじゃない!!?」

うむ、あれで生きている確立は零に等しいな。

フィーア「じゃあ次回はどうなるのよ?」

とりあえず、まだ考え中……

フィーア「さっさと書きなさい!!!」

モゲラッ!!

フィーア「フィーアはちゃんと生きてるのかしらね……」

考えてるとこまででよければ予告を……

フィーア「そんなものがあるならさっさと出しなさい!!!」

びでぶー!!

フィーア「全く……」

 

フィーアはいなくなった……その事だけが、皆の胸を占めていた。

悲しみに暮れる皆……恭也とフィリスは、一番悲しみの中にいた。

フィーアが居なくなった日々を、皆はいつもと同じように過ごしていた。

そこにフィーアがいないという真実を、受け入れるのが恐くて……

奇跡は起きるのか!! フィーアはどうなったのか!!?

次回 斜陽第7弾 Twilight

 

とまぁ、こんな感じ。

フィーア「Twilight……ねぇ」

ちなみに意味は次回に書きますので。

フィーア「ではでは〜〜〜〜」




あうあうあう。
美姫 「フィーアはどうなってしまったの!」
ぐげぇ! く、首ぃぃぃ……。
美姫 「うぅ、次回が気になるじゃない!」
ガクガクガク。
フィ、フィーアの前に、俺がどうにかなる……。
じ、次回以前に、俺はす、既に……ヒューヒュー。
美姫 「次回が待ち遠しいわ!」
…………。
美姫 「それじゃあ、また次回でね。……あ〜ん、フィーアはどうなったのかしら」
……(あ、綺麗なお花畑が……)



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