「あはははは、―――兄さん、―――兄さん待ってよ」
無邪気に笑いながら、一人の女の子が駆け回る。
「ははははは、こっちだよ―――」
「早くしないと置いてくぞ、―――?」
その前を、二人の男の子が走っている。
「えぇぇぇぇいっ!」
そんな男の子二人に、女の子が飛びつく。
「おっと」
それを少しよろめきながらもしっかりと受け止める二人の男の子。
「そぉら」
そして、片方の男の子が女の子を肩車する。
「あはっ、高いね―――兄さん」
笑顔を振りまいて、女の子が言う。
「あぁ、ここは高い……ここからなら―――――が見えるだろう」
ある一点を指差しながら、男の子が言う。
「うん、それに……ここからなら―――――も、見えるね」
少し声のトーンを落として、女の子が言う。
「昨日また何人かが―――――行きになったそうだよ」
悲しそうに、男の子が言う。
「私はね……―――――でも―――――でも、兄さん達と一緒ならどっちでも良いな」
少し微笑んで、女の子は言う。
「あぁ、そうだな……」
「3人一緒なら、どこでも耐えられるだろう……」
女の子の言葉に、頷きながら言う二人の男の子。
「おい、被験体#1057・被験体#1099・被験体#1025」
そこに、野太い男の声が響く。
その後ろには、なにやら白衣のような服をきた男や女が数名いた。
そして、声に気づき、女の子は男の子の肩から降りて男を見る。
「被験体#1057と被験体#1099は―――――へ、被験体#1025は―――――へと行く事が決まった」
その男の言葉に……3人は驚愕した。
「早く準備をしろ」
そんな3人にお構いなく、男は言う。
「いやっ!! 兄さん達と離れるなんて絶対いやよっ!!!」
女の子が、唐突に叫ぶ。
「粋がるな、被験体#1025。 これは命令だ」
「いやぁっ!! 絶対にいやぁっ!!」
涙を流しながら、女の子は叫ぶ。
「聞き分けのないやつめ……おい、取り押さえろ」
男に言われ、白衣をきた男が複数で女の子を取り押さえる。
「やめろぉっ!! ――――に触るなっ!!!」
それを見た二人の男の子が白衣の男達に組みかかろうとするが……
「がっ!!」
「ぐぅっ!!」
首筋に、鋭い痛みが走る。
白衣の女が、二人の首に注射器をつきたてていた。
「――――兄さんっ、――――兄さんっ」
女の子はその男の子達の名前を呼ぶが……
「にい……さ…ん…………」
急速に刈り取られていく意識の中……少女の目には連れて行かれる二人の男の子の姿だけがあった。
「ここ……は…………」
女の子が次に目を開いた場所は、薄暗い部屋の中だった。
「私は……なんで、こんな所にいるんだろう……」
一人、首を傾げる女の子。
「被験体#1025、出てきなさい」
部屋の外から、声がした。
そして、その被験体#1025というのが自分の名前だという事を瞬時に思い出し、女の子は部屋を出て行く。
「被験体#1025、今からあなたにフィンの適合手術を受けてもらいます」
言われながら、声の主について行く。
声の主は女性だった。
そしてそのまま数分歩いて、どこかの手術室のような場所に入った。
「あぁ、主任……その子が新しい被験体ですかな?」
中には、白衣を着た複数の男たちがいた。
「えぇ、今までの成功した4人と同じようにこの子にもある程度の発露は見られるわ……頼むわね」
そう男にいって、女は出て行った。
「では、始めようか」
男がそういい、女の子に近づこうとする。
「……や……いやぁ」
反射的に、女の子はあとづさる。
「おやおや、精神操作が巧くいっていないようだな」
そう言って、男は後ろに控えていた男達に何かを言う。
そして、男が注射器を持ってくる。
それを見た瞬間、女の子の体が震えだす。
「いやぁっ、兄さんっ!!」
叫んで、女の子は思いっきり手を振りかざす。
刹那……
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
注射器を持っていた男の腕が千切れ飛ぶ。
「がぁぁぁぁぁぁっ!!」
男は千切れ飛んだ腕の部分を押さえながらのた打ち回る。
「これはこれは……もう、適合手術は要らないみたいだねぇ……」
男はぼやきながら目の前の女の子を見る。
その女の子の背中には……光り輝く6枚の昆虫のような羽があった。
「だけど、記憶の方が邪魔だな……」
いって、男は耳下のピアスを弾く。
その瞬間、男の背中にも紅い4枚の羽根が現れる。
「眠っててくれよ」
言葉と共に、男は軽く手を振りかざす。
その直後、女の子は背中の羽根を消し去って……倒れた。
「やれやれ、これはまたとない素質の持ち主だねぇ」
呟いて、男は女の子を診察台のようなものの上に寝かせる。
「この子の力は感情によって左右されるみたいだね……海馬の方を弄くるかな」
男はそう言って、何人かの男達に指示を出す。
その際、先ほど腕を千切れ跳ばされた男を部屋から出した。
「じゃあ、手術を開始する」
そうして……女の子は知らずの内に……禁断の海馬を弄られた……
気づけば、薄暗い部屋の中だった。
「………………」
辺りを見回すが、石積みの、牢屋のような部屋だった。
何もない、部屋。
「被験体#1025」
鉄柵越しに、呼ばれる。
女の子はゆっくりとそちらの方を振り向く。
「お前の適合は見事成功した……これより新しい名が与えられる」
「は…い……」
微かに、女の子は言葉を返す。
「今からお前はL-C計画の重要被験体であるL-Cナンバーだ」
言葉に、頷く。
「5体目よ、コードネームは……」
[L-C05]
言葉を聞いて、女の子は小さく頷いた。
物語は……闇より出でて、始まってゆく……
あとがき
プロローグの三つ目ができました。
フィーア「フィーアの、さらに過去?」
まぁ、そんな感じかな。
フィーア「冒頭の兄二人は誰なの?」
それは秘密。
フィーア「って言うか、伏字使いすぎ」
だって、それは今ここでは言えないからさ。
フィーア「あと、あの海馬って何?」
海馬って言うのは、脳の内部にある古い大脳皮質のこと。その形がなんか海馬に似てるからそういわれてるんだ。
フィーア「ふ〜ん、で他には?」
感情の統合とか、いろいろ。 詳しくはわかんないけど……
フィーア「そんなんで使うなっ!!」
あべし!!
フィーア「で、これでやっと本編に入るわけね」
一応はね。
フィーア「その前に人物設定も書かないといけないわね」
結構変わってるからなぁ……
フィーア「さっさと書きなさいよね」
ラジャー
フィーア「ではでは〜〜〜」
今、初めて出てくるフィーアの更なる過去。
美姫 「今回の物語でフィーアはどうなるのかしら」
どんな辛いことも、姉妹に父母に囲まれたフィーアならきっと大丈夫。
美姫 「アンタが良い事を言うのは、1000万とんで、2年早いわ!」
ぶべらぁっ! って、その半端な2は何だぁぁぁ!
美姫 「いよいよ本編ね。一体、どうなるのか今から楽しみ♪
次回も楽しみにしてますね〜」