一人の青年が……血溜りの中、立っていた……

両の手には血に塗れた2振りの小太刀。

足元には切り裂かれて肉片をぶちまけた人であったものの残骸……

そして青年の体は、血に塗れていた……

「終わったようだね、恭也?」

そこに、同じように全身に返り血を浴びて真っ赤に染まった男がやってくる。

「はい、恭慈さん……」

青年は空ろな眼をして、恭慈と呼んだ男に答える。

「龍も呆気なかったね……まぁ、まさか御神の剣士が二人だけで責めて来るとは思ってなかったんだろうけどね」

転がっている死体をどけながら、恭慈は恭也に近づく。

「俺は……もう、戻れないですね……」

自分の両手と、握られている血まみれの小太刀を見て、恭也は呟く。

「ああ……もう引き返せない……君はこの血と硝煙の世界に足を踏み入れたんだ……」

恭慈は己の小太刀を鞘に戻し、恭也に言う。

「死ぬまで足掻き通すんだ、恭也……そして、奪われる前に奪え」

「はい……師匠(マスター)

恭慈の言葉に、恭也は頷く。

「いい返事だ……君に教えられる事は全て教えたつもりだ、後は実践の中で掴み取っていくといい……これが、君と僕の最初で最後の共同戦線だからね」

そういうと恭慈はフード被り、部屋を出て行った。

「これで……復讐は果たした……あとは、この身が消え去るまで……戦うだけだ」

そう呟いて、恭也も小太刀を鞘に戻し、フードを被る。

そして、そのまま何処かへと消え去っていった…………

 

 

 

 

 

 

斜陽の剣士

 

 

 

 

 

これはリリちゃ終了からおよそ1年後のお話です。

恭也はフィリスと付き合っています。

これはかなりオリジナルの色が強いです。

そういうのがお嫌いな方にはお勧めできません。

それでもよろしければどうぞ……

 

 

 

 

「龍が……壊滅した?」

電話越しに、美沙斗が驚く。

ここは香港にある香港警防の四番隊室……その、隊長の机である。

『はい、さきほど私の隊に連絡がありました』

電話の相手は、六番隊副隊長をやっている弓華である。

「何処かの組織が動いたのかい? そういう情報は聞いていないが……」

『いえ、確認は取れていないんですけど、組織ではなく個人で襲ったという線が強いです』

美沙斗の疑問に、弓華は答える。

『死体を見る限り余り複数でない事がわかりました……あと、全員刀傷で死んでいるんです』

「刀傷……?」

その言葉に、美沙斗は一人の青年を思い出す。

「判った……忙しいのにありがとう、弓華」

美沙斗はそう言って、電話を切った。

「まさか……君なのか……恭也……」

背もたれに凭れて、美沙斗は呟く。

自分の全てを教える相手……いつか自分達をも越えて、高みに上っていくはずだった青年。

だが……

「恭也が失踪してから……半年、か」

哀しげに、美沙斗は呟く。

そう、恭也は半年前、忽然と姿を消した。

誰に知られる事なく……誰にも、その最後を言わずに……

美沙斗は八方に手を伸ばしたが、それらしい情報は依然ない。

だから、今回の件が引っかかる。

「しかし、恭也一人で龍を壊滅するのが不可能だろう……他に、誰か一緒にいたのか……」

美沙斗の呟きは、むなしく響いた。

 

 

そのころ、恭也は裏街道のさらに裏……法を犯し、表を歩く事が出来なくなったものばかりの場所である。

そんな場所を、歩いていた。

「へへへ、兄ちゃんよぉ、こんなところへ何のようだい?」

恭也に、いかにもな男が話しかける。

しかし、恭也は相手にせず、歩き続ける。

「おい!! 何とか答えたらどうなんだよっ!!」

それにきれた男が、恭也の胸倉を掴む……が。

「……黙れ」

次の瞬間、男の両腕が吹き飛ばされる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

吹き飛ばされた男は、血を吹き出しながら悲鳴を上げる。

それを聞きつけたこの場所にいる者たちが続々と現れる。

「おい、手前わけぇが新入りだろ……ここでのルールってもんをわかってんのか?」

一人に男が恭也に言うが、恭也は答えない。

「そうかい……なら、やっちまえぇっ!!!」

男の叫びと共に、何人もの男が恭也に襲い掛かる。

しかし、恭也は焦らずに、悲鳴一つせずに、腰の小太刀の柄に手を回す。

「…………御神無戒流(みかみむかいりゅう)

キンッ、と恭也の小太刀が鞘から抜き放たれる。

 

 

――――――――爆砕逝紅(ばくさいせいこう)――――――――

 

 

神速の中振るわれた剣が、男達を切り裂いていく。

斬りつけられた瞬間、男達は一気に爆裂し始める。

斬ったところから体内に向けて徹を込める。

その衝撃で体内が爆裂するのである。

10人はいただろう男達が、全て物言わぬ肉の塊になるのに……1分も掛からなかった。

それを見た残りの男達は逃げようとするが……

御神無尽流(みかみむじんりゅう)……」

神速で恭也は一気に男達の前に立つ。

 

 

――――――――紅断慟突(こうだんどうとつ)――――――――

 

 

先ほど小太刀に付着した血飛沫が、まるで一本の槍のごとく、男達に突き刺さっていく。

ただ、そう見えるぐらいの速さで男達に小太刀を突き立てているだけだが……

しかし、男達は誰もそんな事を理解する暇などなかった。

気付けば、もう皆は死んでいた……

誰一人とて……動くものはいない……恭也を除いて。

「………………」

そんな血塗れの惨状の中、恭也は眉一つ動かさずに小太刀に付着した血を懐から出した和紙で拭き取る。

そして、その紙を捨て去り、小太刀を納刀する。

そのまま血溜りの死体の中を……恭也はあてもなく歩きだす。

「いい腕だな……殺す事に対して微塵も容赦していない」

恭也の後ろから、恭也に声をかけるものがいた。

「あんた、フリーの殺し屋かなんかかい?」

「………………いいや」

男の言葉に、恭也は興味なさげに答える。

「まぁなんでもいい……ところで、その腕を……俺らのところで振るってみないか?」

その言葉の後、恭也は男の方を見る。

「金は言値で出そう…これからとある奴の始末に行くんだが、腕の立つ奴を探している……お前は合格だ、どうだ?」

「……良いだろう」

男の言葉に、恭也は頷いた。

「なら、これからある場所に向かってもらう……そこにいる奴がターゲットだ」

そう言って男はそのターゲットの写真を恭也に渡す。

「名は伊吹 直也……香港警防八番隊隊長だ」

香港警防、という言葉に恭也は反応する。

「止めるか?」

写真を見て何も言わない恭也に男は尋ねる。

「いや……強いものと戦わせてもらえるなら誰でも構わん……」

そう答え、恭也は歩き出した……。

 

 

それから10分後、恭也は指定された場所に来ていた。

「…………………………」

正面入り口を入ったところのすぐのホールのような場所の真ん中で、恭也は目を瞑って立っていた。

そこに、ドアを開ける音が響く。

「君が……龍壊滅の情報を持っているのか?」

入ってすぐに、男は尋ねる。

「…………香港警防八番隊隊長伊吹 直也だな?」

しかし、恭也は答えずに尋ね返す。

「そうだが……君には一体何者だ?」

直也は少しばかりの殺気を放ち、恭也に言う。

「お前を冥府より迎えに来た死神だ」

言って、恭也は駆け出す。

駆け出したときに巻き起こる風で、フードがはずれる。

ローブのような上着も脱ぎ去り、恭也は2振りの小太刀を引き抜く。

「なっ!!!!」

とっさの事で反応が遅れたが、それでも直也は恭也目掛けて銃弾を放つ。

「…………ふぅっ!!」

目掛けて飛んでくる銃弾に向かって、恭也は飛針を放ち撃ち落していく。

そして、恭也と直也の剣がぶつかり合う。

「お前は……何者だっ!!」

「言ったはずだ……お前を冥府より迎えに来た死神だと……これより先を知る意味はない」

言って、恭也は直也の腹に蹴りを入れ、直也は吹っ飛ぶ。

「ごふっ、ごふっ!!」

血と空気を吐き出し、直也は腹を押さえる。

「これが警防の隊長の実力ではあるまい?」

直也へと歩きながら、恭也は言う。

「不意打ちでは勝てないなどというなよ……法を守るためならば、いかなる法をも打ち砕く最強にして最悪の香港警防……その隊長なんだからな」

言い放って、恭也は構える。

御神無葬流(みかみむそうりゅう)…………」

「御神だと!!?」

恭也の言葉に、直也は反応する。

「お前はもしや……あの御神 美沙斗の……」

 

 

――――――――珀死閃断(ひゃくしせんだん)――――――――

 

 

直也がいい終わる前に、恭也の奥義が直也を捕らえた。

御神無葬流 珀死閃断……

百の死がまるで具現化した剣閃のごとく対象を断つ……

無に還す御神流の封じられし六奥義が四……無葬流。

その死を内包したかのような剣閃が直也を切り裂いた……

全てを無に還し、破壊する無戒流……全てを尽きる事ない無に還す、無尽流。

御神の封じられし六奥義のうちの一つを使い、恭也は直也を殺した。

「弱い……な」

恭也は脱ぎ捨てたローブのような服を着て、深くフードを被る。

「おいおい、すげぇじゃねぇか」

そこに、先ほどと同じ男がやってくる。

「…………」

しかし、恭也は答えようとはしない。

「ただ、やりすぎちまったみたいだな……悪いが、ここで死んでくれや!」

言って、男は銃を取り出すが……

「消えろ……屑がっ」

一瞬にして男の腕と足が切断される。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

血が噴出し、男は地面に転げる。

「たっ、助けてくれ!! 上に命令されたんだ!!」

男は恭也に助けを求めるが……

「………………………………」

無言で、恭也は男に止めをさした。

男を突き刺したときに舞い上がった血飛沫が、恭也の顔やローブに付着する。

「玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする―――――」

言って、恭也は小太刀を男から抜き去り、鞘に戻す。

「この命、尽きるなら尽きてしまえ。 この気持ちを抑える事に耐えきれなくなる前に……か」

そこに、別の声が響く。

「…………お前が、こいつの上司か?」

「ああ、そういうことになっている」

恭也の質問に、男は答えた。

「見たところ日系の男っぽいが、出身は日本かい?」

質問してくる男に、恭也は答えない。

「まぁいい……あんた、強い奴と戦いたいんだろ?」

その質問には頷く恭也。

「なら紹介してやるよ……その代わり、あんたは俺達の下で働いてもらうぞ?」

「言ったはずだ……強い者と戦わせてくれるのならば……俺はどこにいようが構わんと」

力強く、恭也は言った。

 

 

後に裏社会で恭也はその名を轟かす事になる……

その剣を使うという古き戦闘スタイルから【斜陽の剣士】……と……

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

斜陽シリーズ番外編第2弾。

フィーア「恭也が堕ちたときの話ね」

フィリス達との会話はないけど、とりあえずそこのところは番外編一でも少しは説明しているからね。

フィーア「で、これから本編に繋がるのよね」

本編の約1年前ぐらいの話だからね。

フィーア「で、結構オリジナルな技が3つほど出てたけど?」

あれはね、違うSSで使おうとしてた技なんだけど、堕ちた恭也が御神の正当な技を振るうとなんかおかしい気がしてね。

フィーア「そのわりには本編では使ってた気がするけど?」

あれは美沙斗さんとの戦いだからさ、御神同士の戦いって感じで。

フィーア「ちなみに【斜陽の剣士】以外にも【堕ちた御神】っていう名前も考えてたのよね」

守るべき御神が奪うものに変わったって言うのをあらわしたかったんだ。

フィーア「ちなみ次回は?」

とりあえず本編かな、ノインを入れた。

フィーア「フィーアの話し方はどっちにする気?」

最終の話し方なんだけど、昔の子供の話し方のほうが人気があるのだよ。

フィーア「まぁ、どっちつかずってところかしらね」

そういうなよ……

フィーア「ではでは、また次回で〜〜〜」




今回は番外編でした〜。
美姫 「アハトさん、ありがと〜」
今回は、話が恭也が堕ちた時の話だけに、シリアス。
美姫 「うんうん。次回は本編の方になるみたいだけれど」
果たして、ノインが加わってどうなるのか。
美姫 「本編も楽しみにしてますね〜」
ではでは。



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