* * * * *

 ――アルシーヴ共和国・第2コロニー。

 リーセント宇宙港――。

 ライドシュナイトは港に停泊しているイブリースの艦橋から戦況の推移を見守っていた。

「あれがアルシーヴの新型か。中々高性能のようだが、奪われてしまっては意味がないか」

 まるでどこか他所事のような調子で呟くライドの目には目の前で起きている戦闘など入っていないようだった。

 クロイシア連邦軍の少佐である彼が、他国のこんな観光コロニーに立ち寄っている理由。

 それは極めて個人的な、それこそ上層部に知れたら軍法会議に掛けられそうなものだった。

 それはさておき。

 今は友軍の危機だ。これを見過ごすのは外交上いろいろと問題がある。

 オペレーターに命令して回線を開かせ、ライドは協力する旨を伝えるために席を立った。

「交戦中のアルシーヴ共和国軍各機へ。こちらはクロイシア連邦軍第13独立戦隊指令、ライドシュナイトだ。これより我が隊は同盟に基づき、貴軍を援護する」


   * * * * *

  第15話 強襲、シャドーミラー

   * * * * *


 ――アルシーヴ共和国・第2コロニー。

 リーセント宇宙港付近――。

 AMX001・グランディアはコロニー警備隊を相手にその圧倒的な能力を見せつけていた。

 通常は相手が一世代先を行く機体であってもその3倍の数をぶつければ倒せるものである。

 だが、このグランディアは、それを操るパイロットは4倍の数を前にして尚退かない。

 驚くべきはその装甲の厚さである。

 何とこの漆黒の機体はアサルトマシンガンの90o弾を全く受け付けないのだ。

 これを主力武器とする警備隊側のFFは中、近距離からの射撃を完全に封じられてしまった。

 こうなっては接近して切り掛かるしかないのだが、敵はその重厚なフォルムに似合わぬ高い機動性と全身に装備された火器の数々による濃密な弾幕射撃で容易にそれを許さない。

 それでも回避不可能な飽和攻撃を続けることで、警備隊は何とかこれの足を止めていた。

「くそ、このままじゃ次期に弾がなくなってこちらがやられる」

 恐ろしい勢いで減っていく残弾カウンターを見て、隊の指揮官が絶望しかけたそのとき、不意に後方から飛来したビームがグランディアの左手を捉えた。

 続いて両肩のレールキャノンと胴体脇の2門のビームキャノンが潰される。

 前者はアルフィニーの放ったガトリングビーム。

 そして、後者はコロニー内から出撃してきた2機のフォースフィギュアの攻撃によるものだ。

 この攻撃により総合火力を大きく減衰させられたグランディアのパイロットは慌てて機体を反転させて逃げ出そうとした。

「逃がすかよ!」

 援軍に駆けつけたライドの部下の一人、アークリアノルドはすぐさま機体を加速させた。

 AGX009XC・エクスカリヴァー。

 彼のその機体は接近戦に主眼を置いて改造されたアルヴァトロスのカスタムタイプだ。

 機動力向上のために増設されたスラスターは設計上、最大でノーマル機の倍近い速度を出せる。そんな機体に追いつけるものなど、連邦軍中を探してもそうはない。

 同じくアルヴァトロスの改造機であるカイトのAGX009W・ウインディーとてそれは例外ではなく、彼は珍しく熱くなっている同僚の背中に小さく溜息を漏らすと、生き残った警備隊とともに戦後の救助作業に当たるのだった。

 一方、グランディアの左腕にガトリングビームを当てたティナは続く攻撃で敵が戦闘を放棄したのを見て銃を下ろした。

 ――なぜ機関部を狙わなかったんですか?十分に当てられる位置だったのに。

 ――狙ったわよ。でも、あのパイロットは腕一本犠牲にしてそれを防いでみせた。

 ――ただのこそ泥、というわけではないということですか。

 ――たぶんね。それに後から出てきた2機も射撃の腕はすごかった。

 他は実際に戦ってみないと何とも言えないけど。

 ――これからどうします?わたしたちも救助作業に参加するべきでしょうか。

 ――ここで目立つのは避けたいわ。それに多分、幾らもしないうちに次が来る。

 さすがにこの装備じゃ連戦はきついから、一度戻って体勢を整えておきましょう。

 ――了解です。

 ティナの言葉にアルフィニーも頷き、二人は体を反転させてシャトルの後を追った。

 だが、彼女たちがstaytionに到着するよりも速くそれは起こった。

「A307エリアに重力フィールド発生!」

 イブリースの艦橋にオペレーターの声が響く。

「来たか。

 一人小さくそう漏らすと、ライドシュナイトは艦長席から立ち上がった。

「M級及びS級質量多数、フェイズアウトしてきます!」

「全艦発信だ。港を出ると同時にフォースフィギュア隊、全機出撃させろ!」

 ライドの命令でメインエンジンに火が入り、艦体が僅かに振動する。

 デッキでは整備班が慌しく機体に取り付いて出撃準備を進めている。

 同じ光景がstaytionのドックでも見られ、いよいよ戦争が始まろうとしていた。

   * * * * *

 ティナがstaytionに戻ってみると、そこには何やら緊張した空気が漂っていた。

 こちらでも所属不明の艦隊の接近を捉えており、幾つかの艦で発信準備が進められている。

 その中にアルフィスの姿がないのを訝ったティナは、司令官オフィスから出てきたイリアを捕まえてそのことを問い質した。

「あの、イリアさん。アルフィスは出られないんですか?」

「艦の回収がまだ終わっていないのよ。残念だけど、今は動かせないわ」

「じゃ、じゃあ、せめてフォースフィギュア隊だけでも出さないと」

「わたしもそう思ってたった今、基地指令に進言したのだけど……」

「却下されたんですか?」

 信じられないといった表情でそう尋ねるティナに、イリアは溜息を漏らしつつ頷いた。

「ここの司令官は古いタイプの人間でね。余所者に手柄を横取りされるのが面白くないのよ」

「はぁ、そんなこと言って、もし敵が彼らの手に余る相手だったらどうするんです?」

 呆れたようにそう尋ねるティナに、イリアはなぜかニヤリと笑みを浮かべて答える。

「心配しなくても既に指示は出してあるわ。あなたもデッキに急ぎなさい」

「えっ、でもうちからは出ちゃいけないんじゃ」

 困惑した表情でイリアを見るティナに、彼女は満面の笑みを浮かべてこう言うのだった。

   * * * * *

 ――アルフィス・艦載機デッキ。

 奇抜なデザインの機体ばかりが居並ぶ中を作業服姿の少女たちが駆け回っている。

 整備班長らしい年長の少女が周囲の喧騒に負けじと声を張り上げ、数人がそれに答える。

 それはアルフィスにとっていつもの、出撃前の光景だった。

「でも、本当にいいんですか?」

 整備員に混じって自分の機体をチェックしていたシェリーがディアーナへとそう声を掛ける。

 彼女はブリッジから送られてくる報告を聞きながらそれに答えた。

「手伝いは不要とは言われたが、出撃するなとは言われなかったからな。っと、来たようだな」

 ブリッジからの報告を受けてディアーナは表情を引き締めた。

「あの、本当に敵なんですか?民間の輸送船団とかじゃ」

「敵だよ」

 不安げに見上げて聞いてくるアリスにディアーナは隠すことなくきっぱりとそう言い切った。

「既にアルシーヴの哨戒部隊が一つ消息を絶っている。方角から考えてまず間違いないだろう」

「遅くなりました」

 難しい顔でそう根拠を述べるディアーナ。そこへボディスーツ姿のティナが駆け込んでくる。

「ちょっとお姉ちゃん、何て格好してるの!?

 姉の姿を見たアリスは思わず顔を赤くして声を上げてしまった。

 ティナの体に密着したスーツは彼女のボディラインをくっきりと浮かび上がらせている。

 問題なのはその色で、無地の純白は遠目に見ると何も着ていないように見えるのだ。

 実際、ティナの素肌は雪のように白い。

 近くで見ても着ているはずのボディスーツと首の境界がほとんど分からないほどだ。

 当の本人はそんなことを気にしているふうもなく、逆にきょとんとした表情で聞き返した。

「これ、どこかおかしい?」

 そう言って自分の姿を見渡す姉に、アリスは顔を真っ赤にしつつ小声でそっと耳打ちした。

 それを聞いたティナは一瞬蒼くなり、次いで赤くなって妹を睨んだ。

「へ、変なこと言わないでよ」

「だ、だって、お姉ちゃん。肌、すごく白いんだもん」

「それはあなただってそうでしょ。ほら、ここは危ないから居住区のほうに行ってなさい」

 ごまかすように半ば強引に追い出そうとするティナを見て、アリスはポツリと言った。

「そうやってお姉ちゃんはまたわたしを置いていくんだね」

「えっ」

 小さくだがはっきりと聞こえたその言葉に、ティナの体がびくりと震えた。

「言ってくれたよね。一緒に行こうって。嬉しかった。わたし、すごく嬉しかったんだよ」

「アリス……」

 やっと本音を言ってくれた妹に、そんな場合ではないと分かっていても表情が緩んでしまう。

 しかし、すぐにその意味に気づいてハッとする。

「ダメよ。危険すぎるわ。だって、あなたのその翼は……」

「大丈夫だよ。お姉ちゃんと、その白い翼がわたしをわたしでいさせてくれるから。だから」

 真っ直ぐに目を見てそう言うアリス。

 その瞳に亡き母の面影を見たティナは思わず溜息を漏らしてしまっていた。

「絶対にわたしの側から離れないって約束出来る?」

「うん」

「本当に絶対だからね。どんなことがあってもよ」

「わかってるって。お姉ちゃんこそ、もう約束破って一人でどっか行っちゃったりしないでよ」

 冗談めかしてそんなことを言うアリスに、ティナは小さく苦笑する。

「心配しなくてもわたしはもうどこにも行ったりしないから」

「本当?」

「だって、わたしの居場所はあなたの側だもの。守り抜いてみせるわ。今度こそ」

 不安げに見上げてくる妹の頭を優しく撫でながら、ティナは決意の篭った声でそう言った。

「ありがとう。でも、お姉ちゃん。一つ勘違いしてる」

「勘違い?」

「だって、わたしもう前みたいに弱くないから。だから、今度はわたしがお姉ちゃんを守るよ」

 そう言って微笑むアリスの横顔は普段の彼女とは違う、どこか大人びたものだった。

 この一年、彼女も成長したということなのだろう。

「十年早いわよ」

「はぅ……」

 しかし、そんな妹の様子にも姉は変わらず優しい笑みを浮かべて返す。それが今の彼女に出来る精一杯の強がりだから。

   * * * * *

 ――そして、戦場へと飛び立っていく少女たち。

 そこで彼女たちを待っていたのは先日交戦した連邦軍の新型、アルヴァトロスだった。

「ちょっと、あれこの間の新型じゃない。敵は連邦軍なの!?

「そんなはずありません。正規軍ならきちんと宣戦布告してから攻撃してきますもの」

 逸早く気づいたシェリーが悲鳴のような声を上げ、それにクレアがいつものおっとりとした調子で答える。

「だが、攻撃してきている以上は敵だろう。ならば、撃ち貫くのみだ!」

 そう叫ぶとディアーナは、突撃仕様に改装されたRCで敵陣目掛けて突っ込んでいった。

   * * * * *

 

 

 




敵の正体とは…。
美姫 「何やらきな臭い予感もしつつ、今回はとりあえず終わり…」
この様子だと、次回も戦闘かな?
美姫 「みたいね。果たして、敵の正体が分かるのか」
緊迫したまま次回を待つとしよう。
美姫 「それじゃあ、次回を楽しみにしてますね」
ではでは。



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ