第19話 聖夜のデートと模擬戦と

   *

 ――アルシーヴ共和国 第2コロニー。

 リーセント近隣宙域――。

 改修された真紅の機体から8つのファンネルが飛び立ち、相対する白い機体へと襲い掛かる。

 それを見たディアーナは迷わず眼前の敵機に向かって機体を加速させた。

 オールレンジ攻撃が可能な無線誘導の兵器にも死角は存在する。それが人間の操るものであれば尚更だ。

 ディアーナはそれを突く形で一気に相手の懐へと飛び込むと、ビームソードを振るった。

 これに対してファミリアは一時的にファンネルの制御を放棄すると、自分も愛機にソードを抜かせて迎え撃つ。念動兵器主体の戦闘を得意とするファミリアではあるが、決して接近戦が弱い訳ではない。だが、それ以上に彼女の姉は接近戦に強く、そして彼女の乗る機体はそれに特化した仕様になっていた。

 咄嗟の反応でRCアサルトのソードを受け止めたルビームーンの機体に横からビームを展開したクロートライデントが迫る。

 慌てて機体を後退させたファミリアの眼前を横薙ぎの爪の一撃が掠めた。それに冷や汗を浮かべつつファミリアは距離を取るべく更に機体を後退させる。

 すぐにそれを追おうとしたRCアサルトに、上方からビームが降り注いだ。ディアーナは機体に急制動を掛けてこれをやり過ごすが、今度は背後からファンネルの一斉射撃を受けて左腕を破壊されてしまった。

「やるじゃないか。だが、まだ詰めが甘い」

 コクピットで一人ごちると、ディアーナは拡散ビームを撃ったことで一瞬動きが止まった上方の敵へと狙いを定める。

「切り裂け、アサルトブレード!」

 RCアサルトの背部に装備された4本のアサルトブレードが展開し、こちらに銃口を向けているミレーニアのエターナルソードへと襲い掛かる。有線のためファンネルほどの射程も自由度もないが、中・近距離では十分だった。

 狙われたミレーニアは慌てて機体に回避行動を取らせるが、同時に間合いを詰めながら撃ってきた120oアサルトキャノンに右足と左肩を貫かれてバランスを崩してしまう。それを見てファミリアがファンネルで援護に回ろうとするが、それはディアーナに読まれていた。

「それが甘いというんだ。行けっ、アサルトブレード!」

 引き戻された4本のブレードがそれぞれ別々の軌道で動いてファンネルの動きを阻害し、あるいは破壊する。ファンネルが破壊された瞬間、ファミリアはリバースを防ぐためにそれらに向けていた思念をカットし、そこに一瞬の隙が生まれる。

 ディアーナはその隙に先に動きの鈍ったESへと突っ込んでいった。

「もらった!」

「わわっ!?

 慌てて砲を構えるES。だが、その銃口が光を放つより速くRCアサルトのソードがESのコクピットに突きつけられていた。

   *

「うう、勝てると思ったんだけどなぁ」

 艦へと戻った後、機体から降りたミレーニアは開港一番悔しそうにそう言った。

 あの後ファミリアもすぐに落とされてしまい、二人は機体をペイントで青く染めての帰還となった。

「わたしは姉さん相手に5分持てば十分だと思いますけど」

「そうなの?」

 驚いた顔でそう聞いてくるミレーニアに、ファミリアは端的に頷いた。

「あの人は一人でFF一個中隊を相手に出来る人ですから」

「化け物じみてるね」

「本人に聞こえていたら地獄の猛特訓決定ですね」

「あ、あははは……」

 さらりと恐ろしいことを言うファミリアに、ミレーニアは渇いた笑いを漏らす。

 更衣室のシャワーの水音に混じってその声はやけに大きく響いていた。

   *

 ――アルシーヴ共和国 第2コロニー。

 リーセント宇宙港――。

 港近くの喫茶店に、ドレスで着飾った一人の銀髪の少女の姿があった。

 誰かを待っているのか、その様子はどことなくそわそわとしていて落ち着きがない。

 約束の時間にはまだ少しあるのだが、彼女にとってはこれが初めてのデートだ。

 落ち着いて待てというほうが無理な相談というものである。

「ごめん、待たせちゃったかな」

 相手は約束の時間に現れたにも関わらず、そんなことを聞いてくるような青年だ。

 そして、テーブルへと近づいた彼は以前とは違う彼女の姿に言葉を失くして立ち尽くす。

「……えっと、シェリーさん、だよね?」

「あ、うん。そうだけど……」

 やっとの思いで発した彼の言葉は途端に彼女を不安にさせた。

「やっぱり、あたしにはドレスなんて似合わないよね……」

「そ、そんなことない。そんなことないから」

 落ち込む彼女の姿を見て、青年は慌ててそう言った。

「でも、あたしだって分からなかったんでしょ?」

「それは、その、……あんまりきれいだったものだから」

 悲しげな目で見上げてくる彼女に、青年は恥ずかしそうに、それでもはっきりとそう言った。

 ありきたりな、けれど、嘘ではないと分かる彼の言葉に、少女の頬に朱が差す。

「さあ、それじゃあ、そろそろ行くとしましょうか」

 そう言って青年、カイトは少女、シェリーの手を取って彼女を立ち上がらせる。

 それにシェリーは恥ずかしそうにただ、はいと小さく頷くだけだった。

 ――聖夜。

 イルミネーションに彩られた夜の街で、恋人たちの時間が始まる。

 ドミニオンのレストランで、シェリーとカイトは夜景を見ながら豪華なディナーを楽しんだ。

 お互い会うのはこれが二度目だったが、交わされた言葉はさほど多くはなかった。

 二人とも聖夜の幻想的な雰囲気に、無粋な詮索は無用と考えたのだろう。

 日常においてシェリーはIPKOの実働部隊に、カイトはクロイシア連邦軍に所属する身だ。

 流れる時間は決して安息ばかりではなく、寧ろ何時死ぬかも分からない。

 ――だが、今は、今だけはそんな現実のすべてを忘れて夢を見ても良いのではないだろうか。

 そんな思いを胸に、二人の時間はゆっくりと流れていくのだった。

   *

 





おめかししたシェリー。
美姫 「うんうん。クリスマスの夜♪って感じよね」
静かに夜が過ぎて行く。
美姫 「さて、次回はここからどうなるのか!?」
楽しみにしております。
美姫 「それでは、また次回を〜」



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