「なかなか面白かったなあ、坊主」
「うん、そうだね真雪」
「…………」
真雪は考えていた、これを何とかパクって面白いことはできないだろうか…
リスティに自分の考えを話すと、予想通り話に乗ってきた。
「面白そうだね、僕ちょうどいい場所知ってるからこういうのはどうかな……」
「おっ、いいんじゃねえか、とりあえずここじゃ誰かに聞かれるかもしれないから、詳しいことはあたしの部屋で飲みながら……」
「そうだね」
二人は邪悪な笑みを浮かべつつ、二階へと消えていった。
とらハ・ろわいあ〜る
移動中のマイクロバスの中。
バスの中には、恭也・美由希・フィアッセ・レン・晶・忍・ノエル・那美・久遠・フィリス・知佳・薫・ゆうひの十三人が乗せられていた。
「真雪さんは私たちに何の用なんでしょうねえ」
那美は窓の外を見ながら誰にでもなくつぶやいた。
「お姉ちゃんのことだからどうせロクでもない用事に決まってるけど……」
その那美のつぶやきに隣に座っていた知佳が反応した。
「ノエルさんも何も聞いてないんですよねえ?」
那美が運転中のノエルに尋ねる。
「はい、私は真雪様にこの座標の位置に皆様をお連れするように頼まれただけですから、目的地がどんなところかも分かりません。ただあと五分ほどでそこへ到着する予定なのでそろそろ何か見えるかもしれません」
「あの学校に向かってるのかなあ」
晶の声に全員が窓の外を見た。
「どうやらそのようです」
ノエルがそう答えた。
海鳴よりはるかに田舎の町外れにぽつんと建っている学校、おそらくは小学校だろう。
遠目に見るだけではわからないが、もしかしたら既に廃校となっているのかもしれない。
バスが学校の校庭に停まると、みな続々と降りていく。
降りながら恭也は嫌な予感を感じていた。
「どうしたの、恭也?」
「いや、なんでもない、月村」
(まあ、真雪さんが関わってる時点でこの予感はほぼ当たっていると思うが……)
「きょうやー」
「ん?どうした久遠」
「なんか怖い……」
そう言って恭也の袖をつかむ久遠に恭也は頭をぽんぽんと叩いて、安心させるように微笑みを浮かべながら答えた。
「大丈夫だよ久遠、心配するな」
それを見ていた周りの皆は全員、恭也の微笑みを目撃して顔を真っ赤にしながら久遠に恨めしい視線を向けていた。
とりあえず皆で玄関に向かうと、玄関に「こっちに進め」と書かれた貼り紙があった。
「なんやえらい親切やなあ」
「そうかなあレン、私はかなり怪しいと思うけど」
「そやけど美由希ちゃん、何も書いてへんよりはうちはうれしいけどなあ」
「まあ、とりあえずこの貼り紙通りに進むしかないんじゃない?」
フィアッセの言葉に美由希も仕方なく賛成する。
その後も何枚かあった貼り紙の案内に従って、着いた教室には全員分の衣装が置かれていた。それぞれに名札もついてある。
「これセーラー服?これに着替えろってことかなあ」
「そうみたい、黒板にそう書いてあるし」
「……どうやら俺は廊下に出ていたほうがよさそうだな」
「恭也ならここにいても全然かまわないんだけどな〜」
忍の言葉に皆が一斉にうなずく。(数人は顔を赤くさせながらではあるが)
「皆が俺のことを家族のように扱ってくれるのはうれしいのだが、そういうわけにもいかないだろう」
そう言って恭也は自分の着替えだけを持って廊下に出て行った。
恭也の去った教室では皆が一斉にため息をついていたが……
十分ほどで全員が着替え終わり、恭也も教室の中に戻ってきた。
そのとき、突然美由希が「あっ」とつぶやいた。
「わたし、真雪さんが何を考えているのか分かった気がする……」
「ほんまか?美由希ちゃん、真雪さんが考えてること分かったって」
この中でも真雪との付き合いが長い部類に入るゆうひが美由希に詰め寄る。
「うん、わたし、この原作本読んだことあるから」
その言葉に全員が口をそろえて言った。
「原作ぅ?」
しばらくして教室に入ってきた真雪を迎えたのは、ほぼ全員の何の光もない目だった。
これにはさすがの真雪も狼狽する。
(な、なんなんだ、このどんよりとした雰囲気は……)
その空気を代表するかのように一本の手が挙がった。
「恭也か、何だ?」
「真雪さん、少しネタが古すぎませんかね?」
「ああ?お前ら分かってるのか、これから何をするか」
「ええ、これから黒板にでっかく『BR』とか書くんでしょ?」
「うっ……」
(バレるかも知れないとは思っていたが、何でこうもそろいもそろってやる気なさそうな態度なんだ!?)
真雪はとりあえず先に進めようと思い、黒板に『BR』と書いた。それを見て、他の皆は、やっぱりか、と一斉にため息をついた。
「で、一体なんでこんなことをさせるんですか?」
あきらめたような表情を浮かべながら、一応恭也は真雪に尋ねる。
「ああ?んなもん面白そうだからに決まってんだろ」
誰がいつ決めたんだ?と思いつつも、また一斉にため息をつく。
そして、ちょうどカメラなどの最終チェックを終えたリスティが前のドアから堂々と入ってくるのを見て、皆は抵抗をあきらめた。
「もういいです。先に進めてください」
そう疲れたような声を出しながら、恭也も着席する。
そのあとを受け継いで、フィアッセがまとめる。
「つまり、ここにいるわたし達でバトルロワイアルをするってことだよね〜」
真雪とリスティが肯定の意を表す。
「まあ、それだけならみんなやる気出ねえだろうから、ちゃんと優勝賞品も用意したぞ。二泊三日の温泉旅行、しかも副賞として恭也とペアで行ってもらう。これでどうだ!?」
その商品(特に副賞の部分)を聞いて、恭也以外の参加者全員の目の色が変わる。
「あの〜、真雪さんとリスティさん、ちょっといいですか?」
「なんだ、恭也?」
「何でわざわざ俺とペアでなんですか?俺なんかと旅行してもつまらないでしょうし、どうせなら他の人と一緒のほうが……」
「じゃあ他の人に聞いてみるぞ。この賞品でゲームに参加したい人!……うん、恭也以外全員だな。ということで決定!恭也、これで分かっただろ、これからリスティが詳しい説明するからお前も座れ」
恭也はどうして自分以外全員の手が挙がったのか分からず真剣に悩みながら、仕方なく真雪に言われたとおりに席に着く。
予想はしていたが、その様子を見て、周りの人たちは落胆のため息をついた。
そして、全員のため息が終わるのを待ってから、リスティが説明を始める。
「ルールは、各自ばらばらに分かれていって、出会った奴と1対1、つまりタイマンで戦っていき、最後まで勝ち残ったものが勝ち。原作と違って、手を組んだりとかの馴れ合いは一切禁止だからね。あと、知佳、フィリス、フィアッセのHGSの能力や、ノエルや久遠の力は禁止だからね。戦う方法は、これからみんなに渡すリュックの中に入っている『モノ』で対決してもらうから」
「あのぅ、質問なんですけど、本当に戦うんでしょうか?」
那美が恐る恐る手を挙げながら、リスティに尋ねた。
その問いにリスティは含みを持たせた笑顔で答えた。
「それは支給された武器しだいだね。全員違うもの入れてあるからお楽しみにね」
『武器』、その言葉に皆が不審そうな顔を浮かべる。
「範囲はこの学校の内部全体。つまり校庭やプールは駄目だけど、体育館や他の特別教室なんかは全部OK。各部屋には何台かづつカメラを設置してあるから、そのカメラに映るように正々堂々戦うこと。いいね?じゃあ出て行く順番はこっちが勝手にくじを引いて決めてあるから。まずはゆうひからね」
「うちかいな」
いきなり名前を呼ばれ、驚いた声を出しながらもゆうひは立ち上がり、危なげない足取りでリュック置き場に向かい、そこから一つのリュックを選び取り、そのまま教室を出て行った。
その後、三分ごとに、晶、那美、フィアッセ、知佳、ノエル、美由希、久遠、フィリス、忍、薫、レント次々に出て行く。
そして最後に恭也が残される。
最後に残ったリュックを持って教室を出る前に、恭也は少し疑問に思っていたことを真雪に尋ねる。
「あの、もし俺が勝ったら、温泉は誰と行くことになるんですか?」
「う〜ん、そうだな〜……あたしと坊主がついていってやるよ」
「……真雪さんとリスティさんが?」
「ああ」
それから恭也は教室を無言で出て、数歩歩いた後、これまでで一番大きなため息をついた。
(……負けよう)
一方、最初に出て行ったゆうひは、教室を出てすぐ近くにあった階段を上がり二階に行き、一番近くの教室に入ると、すぐにリュックの中を確かめた。
中には、この学校の見取り図、ペットボトルのお茶が一本、コンビニのおにぎり一個(中身はツナマヨ)、そして『武器』が入っていた。
その『武器』を見て、ゆうひは目を丸くする。
「これで戦うん?」
(これで戦うんやったら、一体誰が弱いんやろ?
那美ちゃんに…あと美由希ちゃんも弱そうやなあ。
忍ちゃんとかノエルさんは駄目や、得意そうな気ぃする。
そやけどなあ……)
「『UNO』ってふつう二人でやるもんとちゃうと思うんやけどなぁ」
あはははは。
恭也が優勝した時の商品って、罰ゲーム?
美姫 「確かに、恭也にとってはそうなるかもね」
しかし、対決方法が色々あるみたいだね。
美姫 「でも、どっちのモノで戦うんだろう?」
それは、当事者同士で決めれば。
美姫 「葵さん、次回も楽しみにしてますね」
ではでは。