とらハ・ろわいや〜る
先頭のゆうひからだいぶ遅れて出発したレンはとりあえずどこかの部屋にでも入って様子でも見ようかと思い、近くにあった保健室に入り込んだ。
「あれっ、レン〜?」
その声を聞いたとき、レンは正直少しあせった。
(いきなり強敵と当たってもうたなあ)
「どうもです〜、フィアッセさん」
「さっそく対決やろ〜か♪レンの武器は何なの〜?わたしはこれだったよ〜」
そう言ってフィアッセはリュックから『バトミントンの道具一式』を取り出す。
「ちょう待ってください〜、うちまだ確かめてないんです〜」
そう言ってレンも自分のリュックの中を探し出す。
「あっ……うちの武器ってこれですかね〜?」
「あははは〜、いいね〜、これ。レン〜、こっちで戦わない〜?」
「まあこんな狭い場所やとバトミントンはできへんしな〜。うちもこっちでええよ〜」
(これやったら必要なんは運だけやしな〜)
というわけで、レン対フィアッセの勝負の方法は『黒ひげ危機一髪』に決まった。
ふぅ、ふぅ、ふぅ……
那美はゆっくりと廊下を歩いていた。
向かう先には美術室がある。
(重いなぁ、これ。別のリュックにしとけばよかったなぁ)
ちょっと進んでは休み、またちょっと進んでは休み、ようやく音楽室に着くと、すでに先客がいた。
「やっと着いた〜」
「その声は那美ちゃん?」
「えっ!?」
先に誰かいるとは思ってなかった那美は驚いたが、相手は那美ほど驚いてはないようだ。
「知佳さん……」
「そういえば那美ちゃんって私より先にスタートしてなかったっけ? もしかしてもう誰かと戦ったりしたの?」
「ち、違います。ちょっとお手洗いに行ってただけです」
「そうなんだ。そういえば那美ちゃんの武器って何だったの?」
「わたしは『囲碁』でした〜。ほんと、重かったんですよ、これ」
「た、大変だったんだね……」
「知佳さんは何でした?」
「私?私はこれなんだけど」
そう言って知佳はリュックから武器を取り出す。
「あっ、『人生ゲーム』ですね」
「うん、まあ二人でやるものじゃないと思うけど、私、囲碁のルール知らないんだ」
「わたしも知らないです」
「じゃあ、『人生ゲーム』やろうか?」
「はい!」
「いくら那美ちゃんでも恭也君との旅行は譲れないからね」
「わたしも知佳さんには負けないですよ」
そう言って二人は微笑みあうと、『人生ゲーム』のお金を分け始めた。
一方、保健室ではとうとう決着が着こうとしていた。
サクッ
「はい、次はレンだよ〜」
(フィアッセさん見とると、何も考えてへんように見えるなあ。やっぱこうゆうんは考えすぎんほうはええんやろか。あ〜、でもやっぱ考えてしまうわ)
「レン、まだなの〜?あんまり考えないほうがいいよ〜」
(うちもそう思っとるんやけどなあ。)
「よし、これやっ!」
こういうとき、たいがいは悩んだ末に失敗するというパターンが一般的で、この場合も同じパターンが用いられることになった。
そう、レンが差したのと同時に黒ひげが飛び出てしまった。
真雪は放送室で画面を見ながらにやにやしていた。
真雪が見てるのは知佳と那美の対決だった。
もう一つのレンとフィアッセの対決はリスティが見ている。
(まさかこんなに早く対決が始まるとはね。しかも二つも同時に。みんな遠慮しあって戦わなかったらどうしようかと思ってたぜ。これも副賞の効果だろうなあ)
そんなことを考えていると、リスティから声をかけられる。
「真雪、どうやらこっちは決着がついたようだよ」
その言葉を聞き、急いでリスティが見ていた画面のほうへ目を移す。
確かに、黒ひげは飛び出ていた。
「で、飛ばしたのはどっちだ?」
「レンのほうだよ」
「そうか」
「あ〜、飛んでもうた〜」
「あははは、わたしの勝ちだね〜」
「う〜、お師匠とのラブラブ旅行が〜」
「代わりにわたしが恭也との旅行を楽しんでくるからね〜」
明暗がくっきりと分かれた二人が対称的な顔をしていると、スピーカーから真雪の声が聞こえてきた。
「お前ら、違うぞ」
「え?」「ほぇ?」
「説明書をちゃんと読んでみな。黒ひげを飛ばしたほうが勝ち(*)になってるだろうが」
その言葉にレンとフィアッセは急いで『黒ひげ危機一髪』と一緒に入っていた説明書に目を通す。
「うそ〜」「ほんまや〜」
確かに真雪の言うように説明書にきちんと書かれてあった。
「そういうわけで、勝ったのはレンのほうだな。負けたフィアッセはあたしらがいる放送室に来ること。分かったな?以上」
ちなみにこの真雪の声はこの部屋の中にしか聞こえないようになっているので、まだ他の参加者たちはフィアッセの敗北を知らない。
真雪の声が聞こえなくなってしばらくしてから、フィアッセがようやく口を開いた。
「だってさ、レン。恭也と旅行行きたかったんだけどな〜。まあ、がんばってね〜、応援してるから」
(レンや晶が優勝してくれたら、忍やゆうひが優勝するより安心だからね)
「あ、おおきにです〜。うち、フィアッセさんの分までがんばります〜」
フィアッセ、レンとの『黒ひげ危機一髪』対決にて敗れる。
【残り12人】
フィリスは恭也を探して校舎内をさまよっていた。
どうして恭也を探しているのかというと、フィリスが自分の武器を確認したためだ。
(恭也君を見つけたらこれで勝負してもらおう)
自分の武器、そう『ツイスター』を。
以下、フィリスの妄想。
「恭也君、次は左手を緑の位置だよ」
「は、はい。し、しかし……」
緑は恭也の位置からフィリスをはさんで反対側にある。
つまり、左手を緑に置くためにはフィリスに覆いかぶさるような形にならなくてはならない。
「いいのよ、恭也君、これはゲームなんだからね」
「分かりました」
仕方なく、恭也は極力自分とフィリスの体との距離をあけて、左手を緑に置く。
それでも、かなり恭也とフィリスの体は接近していることになる。
(ああ、恭也君の匂いがする。なんていい香りなんだろう)
「次は右足を赤の位置だよ」
赤はほとんどが恭也の位置からは届かないか、もしくは埋まっているかだ、たった一つを除いて。
その一つ残った赤はフィリスの両足の間、根元付近にある。かなり際どい位置である。
恭也の目にはフィリスの白い生足が映っている。
ごくっ
フィリスの耳に、恭也が生唾を飲み込んだ音が聞こえた。
「……いいんですよ、恭也君」
「フィリス先生……」
「フィリスでいいわ、恭也君」
「分かった……フィリスも恭也って呼んでくれないか」
「分かった……恭也……」
「フィリス……」
恭也がゆっくりとフィリスの体を押し倒す。そして、二人の唇の距離が近づいていき……0になる。
「あの〜……」
「あ!恭也、そこは……」
「あの〜……」
「でも、恭也になら……」
「あの〜……」
「……いいわよ、恭也」
「フィリス先生!」
「わっ、え?……み、美由希さん!!!」
「そうですけど、フィリス先生、どうしたんですか?」
「な、なんでもありません」
「さっき、恭ちゃんの名前が出てきたような気がしたんですけど」
小太刀を持っていないのに、今にも『閃』を発動しそうな美由希の殺気にフィリスは何とか話を逸らそうとする。
「き、気のせいですよ。それより、対決しましょうよ。美由希さんの武器は何ですか?」
「わたし?わたしはジェンガだったよ」
「じゃ、じゃあ、そのジェンガでいいですからさっそくやりましょう」
「フィリス先生の武器は何だったんですか?」
「え……ま、まあいいじゃないですか。そんなことより早く近くの教室にでも入ってジェンガをやりましょうよ」
「う〜ん……まあ、いっか。じゃあ、フィリス先生、あそこの教室でやりましょう」
そう言って、美由希はフィリスを先導していく。フィリスはいつの間にか美由希の殺気が消えていることにほっとしながら、美由希の後について2年1組の教室に入っていった。
美由希のほうはただ、早く優勝して恭也と旅行行くことしか考えてなかっただけだが……。
(*)フジテレビの某『へぇ〜』番組でも言ってました。
あとがき
ようやく第2話が完成したのはいいけど、脱落者がまだ一人しかいない……
一体全部終わるまで何話かかるのだろうか……ま、いっか。
ちなみにこのとらハ・ろわいや〜るは、優勝者以外は書く直前に適当にくじを引いたりして組み合わせと勝敗を決めたので、ご了承ください。(優勝者は最初の段階で決めてあります)
永瀬さん、僕の駄SSを載せていただきありがとうございます。
これからもがんばって精進しようと思います。
フィアッセが最初の脱落者でした〜。
美姫 「さて、知佳と那美、美由希とフィリスが勝負してますが一体どちらが勝つのか!」
そして、副賞となっている恭也は…。
美姫 「次回が物凄く楽しみ〜♪」
では、また次回をお待ちしてまするるるる〜。