7月30日
僕の幼なじみが死んだ。
僕がそれを知ったのはクラブから帰って来て、一人で食べている夕食のBGM代わりにつけていたテレビのニュースだった。
−コンビニに押し入った強盗に胸部を刺され死亡−
そうキャスターは告げていた。
同じく殺されたコンビニの店員と一緒に映る幼なじみは、僕が2年前に引っ越すときに最後に見た顔そのままで
僕は、強い悲しみも衝撃も持てず、そして現実感をも掴みそこね、もう消えてしまった友の面影をいつまでも見いだすかの様に、只ブラウン管を見つめていた。
・・・その3日後のあいつの葬式での事だった、僕が知ったのは。
あいつが死んだとき持っていた鞄、その中に遺書が入っていたと知ったのは。
僕はまた衝撃も悲しみも持てず、式の間只じっと遺影をながめていた。
そこに映るあいつはやっぱり2年前 のそれで、僕は「2年間」に捕らわれ、ここでも現実感を掴みそこねていた。
MESSAGE
〜From Two years Before〜
第1回
8/9
「新王子〜・新王子〜」
嗄れたアナウンスをきっかけに電車の扉は開き、そこからまるでところてんのように人が押し出されていく。
その人津波に載るようにはじきだされ、前中 勇は駅に降り立った。
しばらく立ち止まり、ホームの隅で乱れた服を直し、
-時間もっと早くしたら良かったかな?-
そんなことを考えながら、人波がおさまるまで待機することにした。
新王子市は電車で30分の所に大都市を抱え、近在の他都市よりいち早くベットタウンとして発展してきたところである。
その為、17時を過ぎると電車は鬼のような混雑にみまわれる。それは夜も深まる頃まで収まることはない。
現在20:17 混雑はピークを迎えている頃である、少し早くしたところで状況は何ら変わりはない。
むろん勇はそんなことは十分知っている。 2年前までここに住んでいたのだから。
2年前、勇が中学を卒業する時まで、この新王子市に住んでいた。
父親の仕事の任地変更、それに勇の進学が重なり前中家は家を叔母に譲り、そろってこの新王子市を離れたのだ。
そしてそれは勇にとって 年間一緒にいた幼なじみ波島 健一との別れでもあった。
波はひとまず落ち着いたらしく、改札は取りあえずの落ち着きを見せていた。
これ以上待つと次の電車が到着しまた再び津波にのみ込まれてしまう、勇は頃合いと判断し改札へと向かった。
改札を抜け外にでる。すると駅前は喧噪に包まれていた。
これは夜に限ってのことではない、有名大型スーパーだけでも2軒、その他中小の小売店を含めると無数の商店が、ここ新王子駅前には軒を連ねている。
その為ここ駅前に人の喧噪が来消えるときは決してない。しかし、やはり夜の駅前の騒がしさは昼のそれとは別物である。
−タクシーを待つ列− −バスターミナルのフォークのような並び− そして、スーパーのイルミネーション。
それらの生み出す雑音はまさに街の心音のように時には弱く、時には強く勇の耳に聞こえてきた。
勇は顔を少し上に上げ、スーパーの壁にある大時計を確認した。
−20:27−
よかった。勇はほっと胸をなで下ろした。 叔母の家−つまり2年前までの勇の家迄、バスであと20分ほどかかる。
しかしバスも例により地獄の混雑に見まわれる為、叔母に車で迎えに来てくれくれるよう頼んでおいたのだ。
その時間が20:30である。 こっちから依頼して遅れていては(しかも人を避ける為なのにそれを理由に)洒落にならない。
しかしすでに到着しているかも知れない、勇は辺りを見回した。
タクシーの列、到着しては流れていくバスそして車、耐えることない人の河・・・しかし叔母は見あたらなかった。
・・・しまったなぁ駅前と言うだけで具体的な場所を決めてなかった。
まぁ、何とかなるだろう。そう思い道からそして道を見渡せるところで立つことにした。
ふっ と風が吹き勇の頬を撫でた。夜になり昼のうだるような暑さは冷め、幾分涼しくなったとはいえ8月夜はまだ十分に暑かった。
・・・何より排気ガスくさかった。
車のホーンと排ガスの臭いに辟易しながら勇は、時間つぶしにとひっさげていたショルダーバックを下ろし中をあさった。
中はかっらぽに近かった、大きな荷物は先に叔母の家に宅配便で送って置いたからだ。
中にあるのは電車の中で読み終わってしまった本、筆箱。それと、動かない腕時計と白色の一般的な封筒が一つ、それだけであった。
勇はその中から封筒を取り出した。
8/2 新王子中央郵便局、どこにでもある80円切手の上にそう消印が押されていた。
宛先は 前中 勇 様、そして裏の差出人氏名は波島 健一そうなっていた。
奴が死んで2日後に出されたモノであった。
<あとがき>
暁燈です。
とりあえず、昔書いていたものをここで掲載させて頂きます。
ツッコミ所、満載ですので、遠慮なく。
ではでは。