MESSAGE
〜From Two years Before〜
第2回
勇はただ取り出したその封筒をじっと見つめていた。
勇が健一の葬儀からわずか一週間足らずのうちにこの街に再び足を運ぶことになった理由が、この手紙であった。
健一の葬儀のあと、勇は叔母の「久々に来たのなら暫くゆっくりしていけば?」という言葉を振り切り、その日の内にこの街を出た。
あのTVを見たときから感じている、何か漂うような、何か落ち着かないようなそんな気持ちが勇の背中を押したのだ。
そして、この街にはもう来たくない・・・そう思っていた。
家に帰ってからも、勇はまだ気持ちを引っ張っていた。
しかしだからといってそれを理由にだらだらとするわけにはいかなかった、生活というものがあるのだ。
重い気持ちを引きずったまま顔を出した部活の帰り、その時ポストに手紙が入ってるのを見つけたのだった。
−君と会えなくなってから、君と一緒にいた頃のことばかり思い出している。
これじゃあ駄目だなと思っていても、どうしてもどうしても思いでを反芻してしまう。
・・・君はよく言っていたね「過ぎたことは過ぎたことだ」と、君はいつも前向だったね・・・−
パパ−ッ
ひときわけたたましく車のフォーンが鳴った、同時に「勇、ゆう!」と呼ぶ声が聞こえた。
えっ?何事だ?!と驚き勇は顔を上げた。そこに車の助手席のウインドウを開け身を乗り出した叔母、栄 和子がいた。
手紙を鞄に戻し、慌てて勇は助手席へと滑り込んだそして後続車のフォーンに押されるように車は動き出した。
「ごめんね〜、思ったより道混んでてさ〜」
走り出してすぐ、和子は遅れたわけを説明しだした。車の時計を見ると 20:46 思ったより時間が過ぎていた。
「いえ、そんなことないですよ」
実際、15分くらいしか待ってないし。
「おや〜、しおらしいこと言うよになったじゃいの」
そう言ってにやりと笑い、和子は助手席の勇の頭を ポンポン と叩いた。
「ちょっと、ちょっと、運転!前!!ひだりて!!!」
・・・ちなみに和子の車はマニュアルである。
車はまだ駅前の混雑から抜け出ておらずトロトロとしか進めない状況であったとはいえ、あまり気持ちのいいものではない。
「うんうんやっと、らしくなったわね〜〜」
そう言って、和子はまじめくさった顔を作りうんうんとうなずいた。
栄 和子、勇の母の妹で今年38歳になる。
28歳の時に夫に先立たれて以来、子供もいないため一人身の気楽さから、
いつも遊びまわっては勇の母に「何時になったら落ち着くのか」とため息を付かれている。
性格も行動と同じく奔放でがさつな印象を受けるが、相手の気持ちを常に気にする気配りの人である。
「で、どうしてまたこんな時期に来たの?」
「へっ?」
急に和子が悪戯をやめ聞いてきた、余りに唐突だったので間抜けな声がでてしまった。
「だって、前『しばらく居てたら』って言ったら『部活が忙しいから・・・』って言って帰ったじゃない。」
前回の滞在の折り、和子の誘いをける為に適当な事を言ったのを思い出した。
あの時はとにかくこの街を出たい一心で、何でもいいからそれらしい理由を言って逃れたのだ。
「えぇ・・・まぁ、部長が『一週間ほど休みにする!!』って、急に宣言しまして、それで・・・まぁ、暇でしたし家にいててもする事なかったので・・・」
本当の理由を言うのは気が重かったし、事情を説明するのはもっと気が進まなかったので適当なところでまた、誤魔化した。
しかし、勇にしても実際のところ何でここに来たのかよくわかっていない。
今ここにいるという結果だけを見れば、「健一から手紙が来た。しかもそれは出しようのないときに出された物である。
よってどういう訳か調べに来た」ということになる。
しかし、冷静に考えればその手紙は「偽物」「もしくは健一が出しそびれたのを誰かが出した」と言うことでしかあり得ない。
それなら、健一の家族に電話するなり無視すればそれですむことである。
しかし、勇は今ここにいる。本人もなぜかよくわからないままに。
納得のいかない何かに包まれ、勇はじっと前を向いていた。
いつだったかな?図書室で本を借りようとし時、あぁ、江上一雄さんの本だったけ。
君が好きだったんだよね、
でも、君は前に借りた本が延滞してて、その罰則の貸し出し禁止期間だったから、僕に「頼む!!パンおごるから」って言って借りさしたんだよね。
僕も後で読んでみたよ、内容はよくわからなかったし、僕には合わなかったけど君が好きな本だな、というのはよくわかったよ・・・-
駅前を通り過ぎ、車は緩やかではあるが滑らかに進みはじめた。
勇は手紙の中身に思いをめぐらし考え込む様に黙り込んでいた。
梓織は、そんな勇の姿を見「健一のこととかいろいろあるんだろうな」と気を利かせそれ以上何もはなさなかった。
車は静かに進んでいった。